月刊バスケットボール5月号

NBA

2022.02.12

渡邊雄太(トロント・ラプターズ)復調への3つのポイント

 トロント・ラプターズの渡邊雄太が3試合連続出場を果たし、復調の勢いを少しずつ増している。日本時間2月11日(北米時間10日)に行われたヒューストン・ロケッツとのアウェイゲームで、渡邊は5分52秒の出場時間を得て3Pショット1本による3得点と1ブロックを記録。ラプターズも139-120で勝利した。この勝利で連勝を今シーズン最長の8に伸ばしたラプターズは、通算成績を31勝23敗(勝率.574)として現在イースタンカンファレンス6位と好位置につけている。

 


豪快なダンクブロック炸裂、3Pショットも決めた対ロケッツ戦


渡邊の最大の見せ場はスターターとして登場した第2Qにやってきた。ディフェンスで1度、2度とマッチアップした相手に良いプレッシャーをかけるプレーを見せた後、最初の3Pショットアテンプトはミスに終わったが、このクォーター残り8分34秒にロケッツのケニオン・マーティンJr.のダンクをリム間際で豪快に抑え込み食い止めた。


このプレーは、第1Qに一時10点のビハインドを背負ったラプターズが追い上げ、43-45となった時点でのもの。ポストアップしたセンターのアルぺラン・シェングンのみごとなバック・ビハインドパスにマーティンJr.が反応してゴールに襲い掛かってきた。しかし渡邊のヘルプディフェンスは高さに勝り、かつ絶妙のタイミングでマーティンJr.の手中にあったボールを弾き飛ばした。


得点シーンは第4Q終盤、ラプターズのこの試合における最後の得点で、ダラノ・バントンからのパスを受けてのキャッチ&シュートを左ウイングの3Pエリアから放り込んだ。渡邊の3Pショット成功は日本時間1月26日(北米時間25日)の対シャーロット・ホーネッツ戦以来、出場した試合としては9試合ぶり(出場機会がなかった5試合を除けば4試合ぶり)の一撃。ディフェンスに戻る渡邊はバントンとハンドスラップを交わし、笑顔で感謝を表していた。


開幕からの長期離脱といったん復帰後の新型コロナウイルス陽性判定による欠場により、渡邊のパフォーマンスが大きな波に揺さぶられていることは、月バスドットコムでもたびたび報じてきたが、この試合での様子を見る限り不安定な中にも思い切りの良さが戻ってきている。一歩一歩前進できていることが感じられる中、ニック・ナースHCが渡邊を第4Q終盤以外でコートに送り出したのも8試合ぶり(同じく出場がなかった5試合を除けば3試合ぶり)であり、指揮官としての期待や復調を支援する考えもありそうだ。

 

 

復調に向け、カギは決定力、判断力、リバウンドへの参加


渡邊は調子を取り戻す目的でラプターズのGリーグチームであるラプターズ905でのプレーを志願し、実際に日本時間1月25日(北米時間24日)の試合に出場して24得点、10リバウンド、4ブロックを記録した。その翌日以降に出場したNBAでの5試合では、平均7分14秒出場して2.0得点、1.2リバウンド、0.2ブロックのアベレージ。各項目ともボリュームとしてはまだまだ少ないが、シューティングに関してはフィールドゴール成功率が66.7%(6本中4本成功)、3P成功率も4本中2本成功の50.0%と確率としては上々だ。この状況から本来のパフォーマンスを取り戻す上でのカギは、少なくとも3点あるように思う。


1. 3Pショットの決定力


この間の3Pショットにおける2本のミスはいずれも相手のコンテストが効いた形で、率直に言ってそうしたショットを決めきることが完全復調への課題の一つと思われる。コロナからの復帰直後はワイドオープンでも決められず苦しんでいたが、その部分は改善の兆しが感じられる状態だ。しかし、NBAレベルの3Pショットに対するデイフェンダーのコンテストは、かなり相手が遠くにいる状態でシューティングモーションに入っていても、リリースの瞬間には数10cm、あるいは数cm以内まで迫ってくる。

 

 NBAで名シューターと呼ばれるプレーヤーは、それでも決める力を持っている。昨シーズン40%の確率を残した渡邊はそのポテンシャルを十分示した。要は決めるか、決めないか。決まるか、決まらないか。結果はいずれにしても出るのであって、その点で思い切りの良さが戻ってきているのは非常に良い兆候に違いない。


2. ショットセレクションと状況判断


また、より良いショットセレクションの感覚を取り戻すことも、復調に向けた課題の一つかもしれない。ショットを打たずにパスを選択したが打てたかもしれないタイミングでの判断の正しさ、ドライブを選択した際にワイドオープンの味方へのキックアウトを選択するのか、そうとすればそのパスターゲットは適格か、パスではなく自ら強くゴールにねじ込むことができるか、などの瞬時の判断とそれに伴う体の反応の状況を、コーチ陣は見ているように思う。


ディフェンス面では好プレーを続けてきている渡邊が出場機会を再び増やすには、やはりオフェンス面で結果を出し続けることは重要なはずだ。ナースHCは「コートに立つ5人は誰もが得点を狙えるのがNBA」と言った趣旨のコメントをしている。またラプターズのベンチスコアリングに今一つパンチ力が不足していることも、たびたび記者たちが指摘してきたことだ。大量得点ではなく、そのポゼッションにおける最良の選択をどれだけ見せられるかがまず最初のハードルであり、その結果として1本、2本の機会を決めてくることできたらチームにとって非常に大きなプラスとなるだろう。


3.リバウンド(特にオフェンス面)へのさらに強烈な参加


もう一つ、この項目で成果を出せたらと思うのはリバウンドだ。現時点(日本時間2月12日正午)でNBA公式サイトを確認すると、ラプターズはリバウンドが30チーム中13位にあたる平均45.0本という数字が確認できる。リーグにおいて一見アベレージと感じられる順位なのだが、実はオフェンス・リバウンド13.2本がリーグ2位、ディフェンス・リバウンド31.8本がリーグ最下位という、やけにユニークな“アベレージ・リバウンディングチーム”なのだ。

 

 特に今シーズン初のオールスター・セレクションに輝いたフレッド・バンブリートや、現在の連勝過程でイースタンカンファレンスの週間最優秀プレーヤー賞を受賞したパスカル・シアカム、最近は“スキャリー・ギャリー(適した和訳が浮かばないが「ヤバすぎギャリー」というところだろうか)”と評されるようにもなったギャリー・トレントJr.らが得点源として安定感のある活躍を続けている中、スコッティ・バーンズやクリス・ブーシェイをはじめ、200cm台で高い機動力とフィジカルな強さを持つプレーヤーたちの奮闘でポゼッションを稼げていることが、チームの好調ぶりの大きな要因となっている。


周知のとおり今シーズン渡邊はダブルダブルを2度達成しており、この側面で貢献する能力も十分にある。ところが直近3試合では、出場時間が短いことが影響しているのはもちろんだが、渡邊はリバウンドを一度もつかんでいない。あらゆる側面で急ぐ必要があるかは別として、渡邊がハーフコートオフェンスでスペーサーとしてスポットアップし、3Pショットを決めにいくとともに、ゆくゆくオフェンス・リバウンドや“フィフティ・フィフティ・ボール”と呼ばれるルーズボールの状況で以前のようなアクティブさを示し、数字としても積み上げていければ、チームにおけるニーズは間違いなくさらに高まるだろう。

 

 もともとハッスルプレーは渡邊の持ち味。こうしたプレーの積み重ねで、心身ともに良い状態により早く向かうこともでき、シューティングの改善につながるきっかけにもなるかもしれない。

 


トレードデッドラインに重なったこの試合当日、ラプターズはゴラン・ドラギッチ(および2022年1巡目指名権[プロテクト付き])との交換でサンアントニオ・スパーズからフォワード、サディアス・ヤングとドリュー・イーバンクス(およびデトロイト・ピストンズ経由2022年2巡目指名権)を獲得した(その後イーバンクスは放出)。ヤングは203cmのフォワードで、層の厚いラプターズのフロントラインの厚みをさらに増すような補強だ。

 

 今後の起用方針はふたを開けてみないとわからない点が多いが、現時点でも激しい競争がさらに熱を帯びる方向になるかもしれない。ヤングは特徴が異なる3&Dタイプの渡邊は、強みを生かすことに加えアグレッシブにボールに食らいつくことで、活路を見出せるように思う。

 

 ラプターズと渡邊の次戦は、日本時間2月13日(日=北米時間12日)にホームのスコシアバンク・アリーナで行われるデンバー・ナゲッツとの一戦。現在30勝25敗でウエスタンカンファレンス6位のチームだが、前日にボストン・セルティックスとのアウェイゲームを落とし、ラプターズとの試合はバックトゥバック。ラプターズが好調を維持するか、その中で渡邊が出場機会を得て貢献を見せるか、楽しみな対戦だ。

 

ニック・ナースHCが語るオフェンス・リバウンドについての考え方(月バス公式YouTube)

 

文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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