月刊バスケットボール5月号

女子日本代表カナダ戦大逆転勝利からの展望

FIBA.WWCQT.OSAKA

 

 おおきにアリーナ舞洲(大阪府大阪市)で2月10日に幕を開けたFIBA女子ワールドカップ2022予選。オープニングでカナダ代表との対戦した日本代表は、86-79で勝利した。

 

20点差の劣勢を跳ね返し延長で勝利

 

 日本代表は開始早々、宮崎早織(ENEOSサンフラワーズ)の2連続フィールドゴールと、その宮崎との連係から渡嘉敷来夢(ENEOS)が決めたレイアップで6-0とリードした。しかし、その後はカナダ代表に徐々にペースを奪われる厳しい戦いだった。

 

 この試合で19得点を挙げたガードのニラ・フィールズ、3Pショット6本中4本を成功させ12得点を奪ったシューターのブリジット・カールトンらの活躍に加え、厳しいペリメーター・ディフェンスを敷いたカナダ代表は、日本代表の3Pショットを前半9本中1本の成功のみに封じ、前半終了時点で40-23と大きなリードを奪った。


後半が始まってもカナダ代表の勢いは止まらず、第3Q残り6分42秒にセンターのナタリー・アチョンワがフリースロー2本を沈めたところでついに点差は47-27と20点差まで開く。3Pショットを封じられた日本代表は渡嘉敷と髙田真希をピック&ロールのピッカーとして活用し、ペイントアタックから活路を見出そうとしているように見えたが、平均身長で約8cm上回るカナダ代表のフィジカルなディフェンスの前に、練習を積んだはずのフィニッシュがこのあたりまでは思うように決まらなかった。


しかし、この試合で最も点差が開いたその時点を境に、日本代表は徐々に息を吹き返していった。第4Q開始時点までにカナダのリードは54-46と一桁まで減少。このクォーターの残り3分44秒に馬瓜ステファニー(トヨタ自動車アンテロープス)が左ベースラインから鮮やかなユーロステップで相手をかわしてレイアップをねじ込んだ時点でついには65-65の同点に追いつき、その38秒後には、赤穂ひまわり(デンソーアイリス)が左サイドで身長191cmのアチョンワに対し果敢なドライブを仕掛け、ブロック周辺から左手で柔らかなフローターを決めて67-65と逆転に成功する。


それでもクォーター終盤までカナダ代表が一歩先行する展開で、残り1分46秒にカールトンの3Pショットが決まった時点では日本代表は68-71と3点を追う立場だった。しかし直後のポゼッションで、林 咲希(ENEOS)が起死回生の3Pショットを決めて71-71と追いついた。キャプテンのビッグショットはチームを大いに勢いづけ、その後再びフィールズのフリースローで先行されても、残り37秒に赤穂が渡嘉敷との連係からリバースレイアップを沈めてカナダ代表を捉え延長戦に持ち込んだ。


ねばり強く40分間戦って追いついた日本代表に対し、延長戦に臨むカナダ代表は疲労の色が濃く、それまで高いレベルで徹底できていたペリメーター・ディフェンスの威力が落ちていた。ワイドオープンの3Pショットを狙える機会が得られるようになった日本代表は、ここぞとばかり容赦なく最大の武器で勝負にかかった。三好南穂(トヨタ自動車)と赤穂が連続で3Pショットを決め83-75と8点リードを積み上げた残り1分30秒の時点で、勝負は決定的な状態。以降日日本代表が主導権を奪われることはなかった。

 

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女子バスケットボール界の潮流を作りつつあるAkatsuki Five


この試合では、日本代表に関していくつものポイントが示された。その一つは、40分を通じて適用し続ける「世界一のアジリティー」が現実的に世界レベルで達成可能に思えたことだ。カナダ代表は新任のビクトル・ラペーニャHCの下で再スタートを切ったばかりのチームとはいえ、FIBA世界ランキング4位の強豪だ。その相手に対して大きな劣勢を抱えながら、最後に勝ち切れた意義は非常に大きい。

 正直なところ、一度はもうだめかと感じたファンも多かったのではないだろうか。しかし勝負は40分間であり、日本代表は45分間任務を遂行できる力を示した。アイスホッケーのようなプレーヤーの頻繁な入れ替わりも、相手にとっては混乱の要因になるのかもしれない。こうした起用法や、山本と馬瓜という3x3で経験を積んだプレーヤーの大活躍も含め、今後しばらくの間、世界のバスケットボールで基調となっていくような試合作り、チーム作り、育成アプローチを今回の日本代表は示しているように思う。


もう一つはオフェンスにおける3Pショットの意義で、やはり日本代表はこの武器を封じられると圧倒的に不利になる。スペーシングができるようにフロアバランスを作る意味で、ペイントアタックからの得点にも大きな意義があるのは間違いないが、それも3Pショットの脅威があってのものだ。表裏一体のインサイドとアウトサイドを機能させるために、最大の武器の威力にどのように安定感を生み出すかは、今後の課題の一つだろう


3つ目は、長身プレーヤーを相手にしたゴール周辺での多彩なフィニッシュが、現時点では“開花前”だということだ。今後“満開”となれば、夢のようなフィニッシャーが次々と生まれてくることを予感させるパフォーマンスを、今大会の日本代表は披露しているように思う。

 

 チームハイの18得点を挙げた馬瓜は、前述のユーロステップのほかにも相手を背負ってペイントに押し込んで決めた、コービー・ブライアントを思い起こさせるようなフェイドアウェイ・ジャンパーもあった。同じく多彩なフィニッシュから15得点を記録した赤穂は、決まらなかったショットの中に似たようなターンアラウンド・ジャンパーが1本あったが、これもショット自体は相手との間にセパレーションを作って放ったナイスプレーだった。山本はスピードに乗ったドライブから、ヘルプに来たディフェンダーもかわすレイアップなどで12得点。ペイントでのフィニッシュが脅威になる上、3Pショットも決めた山本はアシストも5本あった。

 

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数字としては2Pフィールドゴールが48%。悪くない数字だが、かつてNBAのコーチから、トニー・パーカー(サンアントニオ・スパーズ)かペイントで70%決めることを期待できるフィニッシャーだ聞いたことがある。この試合で決めきれなかったレイアップを決めてそのレベルに到達するポテンシャルを、日本代表の全員が感じさせたと思う。将来を夢見る子どもたちに、良いお手本を示したのではないだろうか。


日本代表の次戦は、大会最終日の2月13日(日)に行われるボスニア・ヘルツェゴビナ代表との一戦。恩塚 亨HCの言葉どおり「ワクワクが止まらないバスケットボール」を披露した日本代表が戦う相手は、WNBAのMVPジョンケル・ジョーンズを核とした非常に危険なチームだ。


☆試合後のコメント(抜粋)

 


FIBA.WWCQT.OSAKA(写真をクリックすると会見映像が見られます)

カナダ代表、ビクトル・ラペーニャHC
――疲れが影響したかどうか
直近の1ヵ月間あまりプレーできなかったプレーヤーもいた中で、疲れが最後に影響してしまったかもしれません。しかし日本代表の巻き返しが素晴らしかったです。銀メダルを手にした日本代表はまぎれもない勝者。もしカナダでプレーしていたら勝てたかもしれませんが、ここではファンから元気をもらったところもあったでしょう。でも疲れが敗因だとしたら、修正はしやすいですね。

――渡嘉敷来夢の第4Qのプレーぶりについて
渡嘉敷は偉大なプレーヤーで、チームが彼女を信頼していますね。ハイポストで良い働きをして状況を読んでパスを出していました。こちらからすると、シューターにスイッチしてポストプレーヤーたちがつかなければならなくなるのは難しかったです。

――長い時間日本代表の3Pショットを封じたディフェンスの出来について
元気にディフェンスできていた時間帯のプレーぶりにはとても誇らしく思いました。よく相手を止めていましたからね。疲れが出始めてからは3Pショットを決められてしまいました。最後まで力を出し続けられたら勝てたでしょう。実際に2度チャンスがありましたからね。でもチームの皆が私のプランを信じてくれて、非常にやりやすかったです。このまま継続して頑張り、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表との試合でもお互いの相互理解を進めて成長したいですね。今回は私にとって初めての機会ですから。


――この試合で持ち帰ることができるポジティブな側面について
すべてがポジティブです。


☆日本代表

 


FIBA.WWCQT.OSAKA(写真をクリックすると会見映像が見られます)

恩塚 亨HC
――カナダ代表戦を総括して
タフなゲームだったんですが、選手たちが常にポジティブにゲームと向き合い、お互いに力を高め合って最後の最後まで高いエネルギーでプレーできました。まずそのこと自体に対し心から誇りに思いますし、そういうチームでコーチできてうれしいなと思っています。そういう仲間と勝利を分かち合えたということは、さらに最高の喜びです。


――前半苦しみ、後半追い上げて勝てた要因
良い準備をしてきましたが、ゲームの経験がこのチームでほとんどなかったのでフィジカルな状況になったときに今までと違うシチュエーションで選手たちが困っているのかなと思って見ていました。選手たち自身でしっかりコミュニケーションが取れて、自分たちのバスケットを思い出してやろうというところができていたのが素晴らしかったと思います。


コーチングでは、ディフェンスで先手を取ってプレッシャーをかけていく中で相手がインサイドのプレーをねらってきていたのでそこに対する手立てを打つことと、オフェンスではスクリーンが機能していなかったので、機能的にすることをポイントに掲げてプレーしました。そこを選手たちが、言われたことをやるというのではなくうまく使いこなしてプレーしてくれたのが一番大きかったんじゃないかと思います。

 

 


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渡嘉敷来夢
――対カナダ代表戦を総括して
2年ぶりの代表活動で、すごく楽しみにして今日を迎えました。その中で新しいヘッドコーチの下で良いバスケット、良いスタートを切れたなと自分自身をきれたなと思っています。我慢の時間帯をみんなで我慢でき、誰が出ても同じバスケットができるのが日本代表の強み。自分的には身長も一番デカいのでリバウンドやポイストを守ることを意識して、その面ではよかったなと思います。


――大量リードを奪われたことについて
まだ時間があったので特に焦ることもなく…。ハーフタイムに自分たちのプレーができていない、動きが硬かった印象だったので、恩塚さんが一言「いつものみんなと違うよ」「動いていこうよ「相手もついてきていないから」とポジティブな言葉をかけてくれたので、焦ることなく一人一人やるべきことというか、やってみようようだったり、なりたい自分に向けてプレーすることによって、あきらめずにやればどんなゲームでもひっくり返るんだなと感じていました。

 


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馬瓜ステファニー
――好プレーを連発させられた理由、どんな練習をしてきたのか
スキルコーチがドリブルもフィニッシュも教え続けてくれてきたので、相手がバッと出てきたときに抜く方法ももちろんやっていて、それを毎日やり続けたことで実際に試合になったときにも何も考えずにスムーズにできたのかなと思います。継続してよかったなと思います。

 

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赤穂ひまわり
――ディフェンスへの自己評価

 自分でも自信を持ってやっている部分なので、普通…(笑) みんなが良かったと思ってくれるところを平均にできるぐらい頑張りたいなと思っているので、もっとできたなと思う部分もあります。寄りをもうちょっと速くできたり、ローテーションをもっとできたのかなと思うところもあるので、もっと足を使って守れたらいいなと思います。


取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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