林 咲希(ENEOSサンフラワーズ) - FIBA女子ワールドカップ2022予選日本代表候補名鑑

 昨秋のFIBA女子アジアカップ2021でキャプテンとしてチームを5連覇達成の快挙に導いた林 咲希が、今回FIBA女子ワールドカップ2022予選に臨むチームでもキャプテンを務めることになった。練習熱心で明るく、コート上の実績にも事欠かないという点は広く知られているところ。年齢的には今回招集されたメンバーの中間層にあたる26歳で、 “お姉さん方”と若手、あるいは東京2020オリンピック組とアジアカップ組のつなぎ役もできる。


本人も「アジアカップのときとは違って“お姉さん方”が来てくれて、質の高いバスケットができているんじゃないかなと思います。私自身もすごく楽しくやれている状況です」と話しており、このチームでリーダーシップをとることにも自信を持てている様子だ。恩塚 亨HCからの信頼も高く、「自分の明るさがチームに良い影響を与えていると言ってくれています」と林は笑顔で話している。


中堅どころとして「チーム全体を見られるようになりました」という林には、ベテランとして副キャプテンを任せられた髙田真希(デンソーアイリス)の存在も大きいに違いない。チームとしてのまとまりや、世界一のアジリティーをフィーチャーした新たなバスケットボール・スタイルに対する年長プレーヤーたちの学習意欲とパフォーマンス、また先輩たちに負けまいとする若手のアグレッシブな取り組みに手応えを感じていることも、会見で林が発する言葉から感じられた。

 


チームリーダーとしての存在とは別に、一人のプレーヤーとしての林の成長も多くのファンにとって楽しみであり、また興味深いところだろう。今回の一連の会見の先頭を切ってメディアに対応した恩塚HCは、林がロングレンジ・ゲームだけではなくピック&ロールからの展開でボールハンドラーとして好プレーを見せていることを明かしていた。林本人も「今はドライブとかジャンプシュートとかも練習の中でやっています」と話し、シューターの役割にとどまらない貢献をできるようにという意欲が強そうだ。

 

今回の合宿で3Pショット以外の武器を磨くことにも取り組んでいる林(写真/©JBA)

 

 その意欲の背景には、昨夏の東京2020オリンピックでの悔しい経験がある。「オリンピックのときに3Pショットだけしかなくて、アメリカ戦で止められたのがすごく悔しいので、これからどんどん新たな自分を世界に見せつけたいなという思いでやっています」


オリンピックでの林は3P成功率で大会全体の7位に入る高確率を残し、成功数2.8本も宮澤夕貴(富士通レッドウェーブ)に次ぐ2位。3Pシューティングを大きな武器とした日本代表の中でも“顔”的な存在感を間違いなく持っていた。ただし、2度戦ったアメリカ代表との試合に限ると、グループラウンドの初戦が8本中2本、決勝戦が1本のアテンプトでこれがミスという結果だった。前者では2Pフィールドゴールを4本中3本成功させて12得点を記録したが、後者ではそれも3本中2本に抑えられ、4得点にとどまっている。

 


特に目標としていた金メダルがかかった決勝戦で、オフボールの動きも良いはずの林が1本しか打たせてもらえなかったということが、アメリカ代表の強さを如実に物語る。それは同時に、日本代表の3Pシューティングに、その時点で越えられていない壁があったことを示す結果と言えるだろう。チームとしての日本代表は、3Pショットのアテンプト数31.7本、成功数12.2本、成功率38.4%のいずれもが大会全体の1位。しかし、サイズと機動力を併せ持ち、ペリメーター・ディフェンスを徹底できるアメリカ代表に対してだけは、2試合ともそのアベレージを10ポイント以上下回る低確率に終わっていた(初戦が38本中10本成功の26.3%、決勝戦が31本中8本成功の25.8%)。


仮に決勝戦で、同じアテンプト数でも31本中14本(大会全体のアベレージに近い45.2%にあたる本数)の3Pショットが決められていたら、単純計算では日本代表の得点に6本分の18点が加算されることになる。最終決着は90-75の15点差だったので、計算上は日本代表が上回る。また、仮に31本中の6本が3Pショットではなくペイントアタックやミドルレンジからのフィニッシュで決められたとしても、日本代表の得点は単純計算で12点増える。もちろんそんな単純な話ではないが、このいずれかができていたら流れはまったく違ったものになっていただろう。この状況を打開して世界の頂点に立とうという思いが、林の言葉から強く感じられる。

 

 前述の決勝戦で林が成功させた2本のフィールドゴールはいずれも第2Qで、1本がベースライン・インバウンドプレーからペイントにダイブして決めたレイアップ、もう1本はペイントアタックから左手でフィニッシュしたドライビング・フローターだった。そうしたフィニッシュを増やし、また高確率で決めることにより、林がこれまで以上に多く3Pショットの機会を得られる可能性が高まりそうだ。

 

 ただし、林のような高確率の3Pシューターにドライブを選択させるのは、ある意味では相手チームの戦略の一つかもしれない。どのように新たな要素を取り入れて、最終的に3Pショットの脅威をどのように増すことができるか。林の進化に向けた取り組みは、今後の女子日本代表における大きな課題との格闘とも言えそうだ。

 

文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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