月刊バスケットボール5月号

「東京2020銀メダル組」と「アジアカップ5連覇組」の融合でW杯に臨む - 恩塚 亨HC語る

 2月10日から13日にかけておおきにアリーナ舞洲(大阪府大阪市)で開催されるFIBA女子ワールドカップ2022予選(以下W杯予選)に臨む女子日本代表の恩塚 亨HCが、強化合宿中の1月24日にメディア向けのオンライン取材に応じた。

 

恩塚 亨HCが初めて世界を相手に戦うW杯に向けた代表活動が始まった(写真/©JBA)


恩塚HCは今回の女子日本代表チームの目標について、「まずワールドカップのチケットを手にすること」と話し、「この強化活動はパリオリンピックで金メダルを獲ることにつながります。その先にある『バスケットボールで日本を元気に』というJBAの理念を大切にしながら、皆さまに夢を与えられるような活動、活力を与えられるような活動を目指していきたいというふうに考えています」と抱負を語った。


今回の予選については、「アジアカップメンバーとオリンピックメンバーの融合が今回の活動の一つの大きなポイント」との考え。実際にはこの2つのグループに、東京2020以前の日本代表をけん引したプレーヤーたちも候補に加わり、それが一つになることでの相乗効果を期待する顔ぶれからメンバーを絞っていくことになる。

 

 

 戦い方としては、昨秋のFIBAアジアカップ2021と同じく“世界一のアジリティー”を生かし、世界の高さを凌駕するねらい。実際に同大会では、高さで圧倒的なアドバンテージを持つ中国代表を相手にした決勝戦でも67-65で勝利し、大会5連覇を達成している。現在行っている強化合宿では、「“世界一のアジリティー” という強みを最大限生かせるように原則のインストール、ポジティブなワクワクのマインドセットということを入れています。これからのチームのアジリティーの支えになるようなことを落とし込んで入れている状況です」と説明してくれた。


恩塚HCの目指す“世界一のアジリティー”とは、これまでもスピードで勝負してきた日本代表が、物理的な速さだけではなく、めまぐるしく変わる状況に対して素早く、良い選択ができる能力を意味している。「適応能力を伴った速さを発揮し続けることで、先手を取って高さを凌駕できるということを目指していきたいと考えています。その中にはメンタル的な、心の切り替えの速さも含まれます」。下を向き元気がなくなる瞬間を排除するために、プレーヤーたちがワクワク感の中で高い意欲と自信を持って、その能力を発揮できるようにリードしていくのが恩塚HCの仕事となる。


こうしたコンセプトと目標設定で進む今回の女子日本代表について、現時点で特に気になる2点を聞いてみた。


新たなロスターへの期待——世代間の融合による実績を伴う成長


今回の候補には髙田真希(デンソーアイリス)ら東京2020オリンピックで銀メダルを獲得したプレーヤーが戻っている。また同大会に復帰が間に合わなかった渡嘉敷来夢(ENEOSサンフラワーズ)や、一時引退していた藤岡麻菜美(シャンソン化粧品シャンソンVマジック)らベテランも再び名を連ねた。


恩塚HCは冒頭で触れたオリンピック組とアジアカップ組の融合について、「オリンピックのメダリストの強みや引き継ぎたいところは、自分の役割を理解し、規律を遂行し続ける力と強さ」と話し、プラスアルファとして「なりたい自分」を目指すことでの意欲とパフォーマンスの向上を期待している話した。


プレーヤーたちが、役割に対する義務感よりは「なりたい自分」になるためのステップにその役割も含んで進んでいくよう、気持ちを昇華させられるように導く。「例えば林 咲希(ENEOS)選手が、東京2020オリンピックではシューターの役割だけのところから、今合宿ではピック&ロールのボールハンドラーとして素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれたりしているんですが、そういう選手の幅を広げていくことに、今までのベースを軸として次のステップにいけるように心がけています」と恩塚HCは説明した。

 

今回の代表でキャプテンを務め、シューター以外の役割もこなす林 咲希(左)は、昨年以上に幅の広い活躍が期待できそうだ(右は赤穂ひまわり 写真/©JBA)


渡嘉敷や藤岡、近藤 楓ら恩塚HC体制で初めて候補に加わるプレーヤーたちは実績を残したオリンピック組、アジアカップ組に歩調を合わせるのが大変ではないか? しかしそうしたことはまったくないと恩塚HCは自信を見せた。ベテランたちは自らも輝かしい実績と経験を持って代表活動に臨んでいるが、「お姉さん」たちの方が進んで年下のプレーヤーたちにさまざまな質問を投げかけて、一つになろうとしてくれているという。チーム一丸のケミストリーを作っていく上で、そうしたスタンスは大きな助けになるだろう。また、実際にベテランたちが自身の伸びしろを再認識して、現在以上に飛躍を見せるきっかけにもなりそうだ。

 

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恩塚HCはこの会見で、今年W杯で金メダルを獲得することについては特段言及しなかったが、勝ちにいかないなどという消極論ではなく、一つ一つの試合で全力を尽くした結果としてのW杯制覇は当然頭にあるだろう。究極のゴールをパリ2024での金メダル獲得に据えた中期的な見通しの中で、オリンピック組、アジアカップ組、そして東京2020以前の代表を支えたベテランたちの力を結集し、成果を残しながら成長しようという意欲が感じられた。

 

髙田真希らベテランは率先して若手に質問するなど、ケミストリーを作り上げていく上で重要な役割を果たしているようだ(写真/JBA)

 

“海外組”招集——今後も最強の日本代表を目指し必要に応じて全力アプローチ


現在日本の女子バスケットボール界は、昨年の大きな大会で日本代表として実績を残したプレーヤーだけではなく、有能なタレントが世界で活躍している状態だ。東京2020オリンピックの候補に入っていた安間志織は現在ドイツのブンデスリーガで得点王や最優秀選手賞も可能ではないかと思えるほどの活躍ぶりだ。また、アメリカのNCAAでは、全米ランキングトップ3に入る強豪のルイビル大学で、ローテーション入りして今野紀花が活躍している(今野も東京2020オリンピックの候補に名を連ねていた)。NCAAにはほかにも、ディビジョンIでプレーする若者たちの活躍が日々伝えられている。


しかし世界的なパンデミックで国境をまたぐ移動も難しい中、海外のプレーヤーたちの招集は簡単ではないことは想像に難くない。今回の候補リストには海外組の名がなかったことも致し方がないという印象を、正直持っていた。この点を問いかけると、恩塚HCは現在の困難な状況が代表招集の壁にならないよう、全力を尽くすことを、以下のような言葉で明言してくれた。


「私はコーチをさせていただいているときに、皆さまの大切な日本代表を預からせていただいていると思っています。その意味で、最強の日本代表チームを編成する責任があると思っているので、(必要と思う選手が)どこにいるとしても、そこに対して最善の努力をしてメンバーを組むようにしたいと思っています。今回に関しても、来てもらえる道はないかということを考えていましたし、これからもコミュニケーションをとりながら、その道を探していくということは、私の大事な仕事として目指していきたいなと考えています」


個別のプレーヤー名云々のコメントは別として、無事W杯出場権を獲得できたあかつきには、海外組を含めた最強メンバーの検討が再び行われていくと思われる。

 

強豪が集うW杯予選は激戦必至


日本がW杯予選で対戦するのは、ボスニアヘルツェゴビナ(FIBA世界ランキング27位)、カナダ(同4位)、ベラルーシ(同11位)の各代表3チーム。日本代表は世界8位で、数字だけ見ればW杯出場権を得られる3位以内の順位は高いハードルに見えないかもしれないが、実はいずれも気の抜けない相手ばかりだ。


恩塚HCはカナダ代表について、「個人とチームの規律がしっかりしたチームで、重たい試合にならないようにというのがポイント」と話した。ベラルーシ代表には、アメリカから帰化したアレックス・ベントレーというポイントガードがいる。今はヨーロッパのクラブでプレーしているが、2015年にWNBAオールスターに選ばれた実績もある。恩塚HCによれば、ベントレーが展開するピック&ロールからのオフェンスがひとつの要注意ポイントだという。

 

 ボスニアヘルツェゴビナ代表には、ジョンケル・ジョーンズというWNBAのスーパースターがいる。ジョージ・ワシントン大学出身で、渡邊雄太(NBAトロント・ラプターズ)の先輩にあたる。2016年にWNBAのロサンゼルス・スパークスからドラフト全体6位指名を受けてプロ入りし、昨シーズンWNBAのMVPに輝いた、198cmのパワフルなセンターフォワードだ。ボスニアヘルツェゴビナ代表との対戦は、このジョーンズ対策が間違いなく大きなカギとなる。日本代表の“世界一のアジリティー”の真価が問われる対戦となるだろう。


世界のハイレベルなプレーヤーが集まり、最強日本代表が迎え撃つ。おおきに舞洲アリーナでの戦いは見ごたえ満点のスリリングな試合が続きそうだ。

 

昨年ユーロバスケットでのジョンケル・ジョーンズ。この大会では6試合で平均24.3得点、16.8リバウンド、3.0アシスト、1.0スティール、1.5ブロックという強烈なアベレージを残し、チームの5位躍進に大きく貢献した(写真/©fiba.basketball)

 

 

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取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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