月刊バスケットボール6月号

NBA

2022.01.19

渡邊雄太(ラプターズ)復調に「少し時間が必要だが、間違いなくローテーションに戻る」 - ニック・ナースHC語る

 

 安全衛生プロトコル適用を脱し戦列復帰した後、今ひとつ本調子を取り戻せていない渡邊雄太。日本時間1月18日(北米時間17日)の対マイアミ・ヒート戦では、ベンチ入りした試合で久方ぶりの出場ナシという結果だった。プレーオフのような緊迫した激戦の末、ラプターズはこの試合に99-104で敗れた。


故障などによる欠場以外で渡邊に出番が回ってこなかったのは今シーズン初めてで、昨シーズン中の日本時間2021年3月29日(北米時間28日)の対ポートランド・トレイルブレイザーズ戦以来のことだ。


しかし復帰後の直近3試合の出来を振り返れば、ニック・ナースHCとして起用しづらいのは間違いない。この3試合で渡邊はフリースロー2本による2翌点を挙げたほかは、フィールドゴールアテンプト7本(ウチ5本が3Pアテンプト)すべてをミス。得点以外も2リバウンド、2ブロック、1スティールという数字は、特にクリス・ブーシェイやジャスティン・シャンペニーら控えメンバーが際立った活躍を続ける中で、十分な貢献とは言えない。


ナースHCにこの日の試合後、渡邊を起用しなかった理由が復調するのに段階を踏む考えによることかどうかを確認すると「そのとおりです。彼はまだ十分リズムを取り戻していません。たぶん少し練習する時間が必要なのです(That’s it. He doesn’t seem to find his rhythm much yet just probably needs some time, a little practice time)」との答えだった。ただし、「すぐにローテーションに戻ってきますよ。確信しています。間違いありません(He’ll be back in the rotation here soon. I’m sure, definitely)」と再起に自信を見せていた。

 

対ヒート戦後の会見で、ナースHCは渡邊への信頼を感じさせるコメントを聞かせてくれた(写真をクリックするとインタビュー映像が見られます)



スターターのスコッティ・バーンズが故障欠場していた中で、ナースHCは復帰直後の渡邊をいきなりビッグゲームでスターターに起用した。日本時間1月12日(北米時間11日)の復帰初戦は、昨シーズンのウエスタンカンファレンス・チャンピオンのフェニックスサンズが相手。その3日後、今度は昨シーズンNBAチャンピオンとなったミルウォーキー・バックスとの一戦でもナースHCは渡邊をスターターとして起用した。


間に挟まれた日本時間14日(北米時間13日)のデトロイト・ピストンズとの試合は、バーンズが最終的に出場可能となったことで渡邊は控えに回った。しかし実は、バーンズの出場可否判断は試合直前で、約90分前の会見でナースHCは、渡邊をこの試合でもスターターに起用する意思を持っていたことを明かしている。その際のやり取りは、以下のとおり渡邊のスターター起用に至る思考を垣間見ることができる内容だった。


――ユウタは前の試合で、彼らしくないプレーぶりだったと思います。その後どんな様子でしょうか?


「そうですね、私もそう思います。良し悪しがあったことじゃないでしょうか。我々は誰をスターターにしようか、ちょっと考えあぐねた状況にあり、最終的な着地点がユウタでした。基本的には、マッチアップを考えてそうしたんですよ。良い組み合わせが考えられました。ただ、復帰後1試合も出ていなかった彼からすると、荷が重すぎたかもしれません。そして彼は特段良いプレーを見せませんでした」
“Yeah, I agree with you. you know it was kind of a good news bad news thing. I think that we’ve got put in a bind a little bit with where to go to start and we landed on Yuta, basically based on match-ups the other way we thought. We had a good match-up there. Probably it wasn’t that fair to him you know coming back and haven’t had a game under his belt. And he didn’t play that well individually.”


「しかし彼は実際、価値ある時間を提供し、我々は良いスタートを切ることができたんです。コートにいる間は、うまくつないでくれました。誰かがその役割を引き受けて、物事を回していかなければいけませんでしたし、彼がいたからほかのメンバーが普段と同じ控えの役割でプレーできたわけです。彼らはその流れで何試合かプレーしていましたからね。だから総体的にチームという観点で言えば、受け入れられる結果でした」
“But he did provide valuable minutes and we actually got off to a descent start. You know when he was out there, he bought those minutes. Somebody kind of had to do that to get things rolling and he enabled those other guys to kind of stay where they’ve been coming off the bench. And they play that way a few games. So, you know it was overall, looking at it from the team’s sake, it was okay.”


「もちろんユウタはもっとうまくやりたかったでしょう。そんな気持ちがあったはずですが、難しいことですよね。でも彼はやり返してきますよ。我々は非常に自信を持っていて、できると思っているからこそ一歩踏み出してみたんです。今夜もふたを開けたらスターターということになるかもしれません。今夜はうまくやってくれると思っています。ご指摘のように彼らしいところを見せてくれると思いますよ」
“I know Yuta wanted to play better…, all that kind of stuff. But it’s tough you know. But he will bounce back. We have a lot of confidence and respect him to take a step forward and that tonight..., he probably ends up starting again tonight. So, I’m sure he will play better tonight, feel like…, a little bit more like himself like you mentioned.”


――NBAの強豪を相手に彼がスターターを務めるというのは、日本のバスケットボール界ではものすごいことです。緊張なども影響したと思いますか?


「もしかしたらそうかもしれません。彼は毎試合を非常に大切に考えますからね。彼にとってとても大きな意義があったことでしょう。間違いなく良いプレーをしたかったはずです。ちょっと神経質になって試合前に胸がざわついたりというのは、確かに想像できますね」
I guess he could have. You know it’s…, I’m sure you know listen, he takes his game very seriously as you know, right? And it means a lot to him. And he wants you know, certainly wants to play well you know. So I would imagine he did have a little bit of nerves energy or butterflies before the game, for sure.

 

写真をクリックするとこのやり取りの映像が見られます

 ピストンズはラプターズとの対戦前の時点で9勝31敗のチームだが、ことラプターズにとっては天敵のような相手。ラプターズはこの試合にも87-103で敗れている。

 

 ヘッドコーチを務める日本通のドウェイン・ケイシー氏は、2018年までラプターズのヘッドコーチだった。ところが、同年にNBAの最優秀コーチ賞を受賞しながら解雇されるという憂き目を見た人物だ。

 

 そんな因縁があるからか…。いずれにしてもラプターズはピストンズに対して、ケイシーHC就任後の2018-19シーズン以来3勝8敗、昨シーズンからは5連敗中なのだ。このような特殊な試合でも、渡邊に機会を提供しようとナースHCは考えた。

 


ナースHCは期待に応えなかったプレーヤーについて、いつでも同じようにこうした期待感を含む言葉で評するわけではない。今シーズン開幕直後にブーシェイの調子が上がらなかったときには、「今日の彼は良いところが一つもありません。そろそろしっかりプレーしてもらいたいですよ」と会見の場で厳しい表現を使ったこともあった。ただし、土台として自らが獲得したプレーヤーたちへの信頼とリスペクトをもっていることを、奇しくも現在ブーシェイが大活躍している事実が物語っている。


パンデミックの影響でリズムを失っている渡邊に関しては、復帰直後に期待感から「荷が重すぎる(not that fair)」冒険的な起用で試したことがコメントからわかる。その上で公平な感覚で評価し、今度は別の形で復調の機会を用意したのだと思う。


日本時間20日(木=北米時間19日[水])の対ダラス・マーベリックス戦、その2日後の対ワシントン・ウィザーズ戦と続くアウェイの2試合では、流れから見れば出場機会があるかはわからないし、あっても短いものになるかもしれない。しかしナースHCのコメントを聞く限り、たとえローテーション外となっても、それは短期間限定だ。


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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