月刊バスケットボール5月号

NBA

2022.01.11

八村 塁のウィザーズ復帰初戦 - 6得点、ダンク2発で新たな物語が始まった

 ワシントン・ウィザーズの八村 塁がNBAのコートに帰ってきた。長期離脱に終止符を打つ2021-22シーズン初出場は、日本時間1月10日(北米時間9日)に行われたオーランド・マジックとのアウェイゲーム。14分9秒の出場で6得点、3リバウンド、1アシストを記録した。6得点のうち4得点は、八村らしいアグレッシブなリムアタックで豪快に決めたダンクだった。


試合はウィザーズが102-100で勝利した。

 

 

八村、好プレー多々


ベンチスタートの八村は、試合開始から5分30秒過ぎにセンターのダニエル・ギャフォードと交代してコートに入った。第1Q残り4分19秒に左コーナーの3Pエリアから放った今シーズン最初のショット・アテンプトは得点につながらなかったが、このクォーターにディフェンス・リバウンドを1本掴むと、第2Q開始から4分過ぎに右ベースライン際にドライブで攻め込みテレンス・ロスからシューティング・ファウルを誘い、フリースローで初得点(1本のみ成功)。その約1分後にはブラッドリー・ビールとのオフボール2対2のプレーで、ボールを受けたビールからのタッチパスを強烈なボースハンド・ダンクに持ち込む。


このクォーターにフリースローでもう1点を加えた八村は、第3Q残り5分に力強いドライブからのキックアウトでブラッドリー・ビールの3Pショットをおぜん立てし、初アシストも記録。さらに残り3分1秒にはハウル・ネトのミドルジャンパーがこぼれたところをがっちりゴール下でフォローし、プットバック・ダンクをたたき込んだ。


好プレーは数字に表れる部分以外でも多々あった。一つ一つのオフェンスでスクリーンセッターとして小気味よい動きを見せ、スペーシングも良かった。最初のダンクがまさしくそんなプレーでの得点。ディフェンスではコール・アンソニーやロスなどクイックネスに長けたガードからモー・バンバのようなビッグマンまで、スイッチして柔軟に対応し、ドライブのコースを止め、リバウンドを張り合った。

 


試合前、ウェス・アンセルドJr.HCは、八村が出場可能な状態であることを明かすとともに、出場するとしても15-16分程度の限られた時間にとどめる意向表していた。第3Q終了時点ですでに八村の出場時間は14分を超過。競った展開となった最終クォーターには出場機会はなかった。


ただし、この試合での八村の存在感は数字だけでは計り知れない大きさだった。アンセルドJr.HC、八村自身、カイル・クーズマ、そしてビールの4人が登壇した試合後の会見は、八村以外の3人も相当部分が八村関連のやりとり。2019NBAドラフト全体9位指名のタレントが、いかにウィザーズにとって欠かせない戦力であるかを強く感じさせる内容だった。

 

アンセルドJr.HCとビールの言葉


アンセルドJr.HCは八村について「上々の出来でした(I thought he did great)」と高く評価し、「アグレッシブにやってくれました。我々が時折出せなくなるフィジカリティー(身体能力を生かした力強いプレー)や大きさ、バネを生かしたプレーを見せてくれたと思います(He was aggressive. I think he gives you that physicality that you know we lack at times, his size, his ability to play off the bounce)」と称賛した。「入れられそうなオープンショットを何本か外しましたが、非常に良い状態で打てていました。今後の進捗が楽しみですよ(He missed you know a couple of open shots. I think you know he’ll make. But they were great looks for him. So I’m excited to see how this unfolds)」

 


コーチの立場では、最適なローテーションを見出すことが今後の課題だと話している。未だすべての戦力がそろっていない現状で、これは余計に難しい課題に違いない。しかし後半戦にかけては9-10人のローテーションに絞る意向だという。その中で八村に関しては、「いずれにしてもまだ発展途上です。映像を見せて、4番ポジションに慣れてもらうことになります(It’s going to be a process no matter how we do it. Just trying to show film you know, get him acclimated at the fourth spot)」と話した。


スターターとしての起用が前提かどうかなどは語られていないが、前述のとおり初戦の出来は高評価。期待する役割も明確になっており、試合の流れを見ながら必要な時間をかけて八村を含むローテーションを固めていくという考えがよくわかるコメントだ。

 


ビールのコメントは、アンセルドJr.HCの言葉以上に八村の存在の大きさを感じさせた。なぜなら、遅れて参戦した八村がチームに馴染むことの重要性とともに、チームの方が八村に合わせていくことの必要性が語られていたからだ。「(チームとしてのまとまりは)これから改善していくべきものです。彼(八村)をリズム、試合の流れの中に取り込み、我々のプレーとシステムに取り込み、彼がやりやすいところに持っていきたいですね(it’s just gonna be work in progress with just getting him back into the rhythm, getting to the flow of the game, to our plays, our system, kind of where his spots will be)」。

 


八村と2シーズンをともに戦ってきたビールは、自分自身と八村については何も心配をしていない。課題はチームメイトで、「クーズ(カイル・クーズマ)、スペンス(スペンサー・ディンウィディー)、ポープ(ケンテイビアス・コールドウェル-ポープ)たち皆が彼のプレーに慣れて、どんなことがやりたいのか、どんな傾向があるのかをつかむことが重要になります(It’s gonna be getting Kuze (Kyle Kusma), getting Spence, Pope, everybody else kind of used to you know how he plays and what he likes to do and his tendencies)」と話している。こうしたコメントで、実績を残した実力者たちに八村を手厚く歓迎しようという姿勢も伝わるに違いない。


まだ1試合しか出場していない現時点では、八村自身のパフォーマンスがどこまで上がっていくかが見えづらいのは否めない。しかし昨シーズンはビール、ラッセル・ウエストブルックとともにウィザーズの“ビッグスリーの一角”と形容され、プレーオフでもそれに恥じない活躍を見せた八村を、ウィザーズが今シーズンもチームの核として捉えていることが、指揮官とチームリーダーの言葉から伝わってくる。

 


そうした環境の中で、八村の方からも積極的に関係づくりをしている。この日27得点、22リバウンドというモンスターゲームを披露したクーズマについて聞くと、「僕も彼とポジションが似ているので、練習中とかでもどういうふうにやっていくというようなことも話しています。彼も僕のことをずっとサポートしてくれて、こうして一緒にプレー出来て、本当にうれしいです」と答えた。

 

八村は自信の笑顔

 

 八村自身は、離脱中に自分がいかにバスケットボールを好きかということを再認識できたと話し、会見中にたびたび笑顔を見せた。また、長期の離脱期間を時が熟すまで辛抱強く待ち、温かく迎え入れてくれたチーム関係者への感謝を繰り返し言葉にしていた。


ウィザーズは八村の復帰とともに、レギュラーシーズンの折り返しを前にした40試合目で20勝20敗と星を五分に戻した。実はこの成績は、八村が加わって以来の3シーズン中における、40試合消化時点で最高の成績だ。


八村個人のオンコートのパフォーマンスでは、ミドルレンジ・ロングレンジのタッチ以外に心配な部分は何もなかったように思える。その部分について本人は「ミドルレンジとかスリーはもう感覚だと思います。試合をやっていくごとにリズムがあっていくと思うので、どんどんそこも入ってくるんじゃないかなと。少しずつそこを合わせていきたいなと思いますね」と自信を感じさせる言葉を返してくれた。


相思相愛のウィザーズと八村が、希望を感じさせるあらたな物語の1ページ目を綴った。あと42試合(42ページ?)進んだ頃には、プレーオフファーストラウンドで散った昨シーズン以上の眺めを見せてくれることも期待できそうだ。

 



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