月刊バスケットボール5月号

日本代表

2021.05.14

東京オリンピックへ、そしてその後。日本バスケットボール界の進む道

<目前に控える東京オリンピックに向けて>

 

 目前に控える東京オリンピックに向けて、そしてその後…。日本バスケットボール界はどのように進んでいくのか。今回は日本バスケットボール協会技術委員会委員長を務める東野智弥氏に、今後の進む道についての意見を聞いた。

─まずは目前に控えるオリンピックですが、5人制については、男子、女子と強化試合などの予定は立っていますか。
「ある程度時期を絞り準備はしています。コロナ禍にあって調整も難しいのですが、いろいろと可能性を探っています。男子については、八村塁、渡邊雄太らが合流できるのは、7月に入ってからになるでしょうから、前乗りしてやってくるオリンピック参加チームなどのマッチングができればと思っています。その前段階として国内組での試合も頭にあり、2023年のワールドカップを目指す他の国々を呼べないかとも検討しています。FIBAアジアカップ予選との兼ね合いがあり、調整が難しい部分ですね。
女子に関しては、例年5~6月にかけて、海外で強化を行ってきていましたが、それがダメだとなれば、日本に呼ぶしかありません。しかし、隔離期間を設けなければならないため、この時期に日本に来て、自国に戻ってといった動きは、オリンピックに参加するどのチームもやりたくないでしょう。となれば、オリンピックの出場権を得られなかった国を招待するしかないかもしれません。オリンピックでの女子のグループはアメリカ、ナイジェリア、フランスと身長の高いチームです。こうしたチームとの戦いは、1試合は良くても、試合を重ねるごとにダメージが溜まっていってしまいがちですから、そうしたテスト、準備をしておきたいところです。国内での練習だけでは高さの対策は難しいですから、サイズのあるチームに来てもらいたいと思っています」

─オリンピックに対し、どのような状況で臨んでいきたいと考えていますか。
「まずは、女子の3人制が5月26日からオーストリアで開催されるオリンピック最終予選を勝ち抜き、出場権を得ることが一番です。それがだめでも最後のチャンス、6月3日からハンガリーで開催されるユニバーサルOQTと呼ばれる最終予選を経て、オリンピックに男女4代表そろって出場したいですね。そして、各代表それぞれ目標を持っており、ヘッドコーチを中心に、スタッフ、プレーヤーとしっかりと取り組んでいますから、私の立場としては、ヘッドコーチ、スタッフ、プレーヤーから、こうしたい、ああしたいといったリクエストに対し、それを実現できるようサポートし、環境を整えていくことです。
結果は簡単に出るものではありません。我々は一丸となって最善を尽くし、集中してオリンピックに向かっていくだけです。そのうえで、コート上のことは優秀なコーチ、スタッフたちに任せればいいと思っています。本当にプロフェッショナルな仕事をしてくれています」

 

<東京オリンピック後の展望について>

─東京オリンピックは、強化として一つの区切りになるかと思いますが、その後についてはどのような構想を持っていますか。
「まず、現時点で、東京オリンピック後の強化体制については、まだ白紙です。ですから、ここでお話しするのは、現・技術委員長としての私の考えです。
現在の立場に就いてちょうど5年になります。その間、注力してきたのは強化の体制作りです。それも、継続していける体制です。特に男子について振り返ってみれば、ここ20年余りはゴールデンジェネレーションに支えられてきました。1998年に世界選手権に出場した際は、現在代表のアシスタントコーチを務めている佐古賢一、折茂武彦(レバンガ北海道代表)を軸にした世代と2m16cmのセンター山崎昭史さんが日本代表をリードしてきました。自国開催でしたが2006年の世界選手権では竹内公輔・譲次の2メートル・ツインズがいました。そして、2019年のワールドカップでは八村塁、渡邊雄太のNBAコンビです。つまり、サイズがあり、才能ある人材に恵まれたときに成績を残してきたのです。
私は2006年の世界選手権の際、ジェリコ・パブリセヴィッチヘッドコーチの下、アシスタントコーチを務めていましたが、当時は竹内世代の若手を中心に数年前から強化合宿を重ねていました。夏にはヨーロッパへ遠征に行き、クロアチアのザグレブ体育大学でフィジカルチェックを前後に行い、スロベニアのログラで高地トレーニングと強化試合の連戦で鍛え上げてきました。本大会では勝てば決勝ラウンドというニュージーランド戦で、後半に大逆転負けをしてしまいました。それでも世界の大会で勝利を挙げ、あと一歩でベスト16に入れそうな実力ではあったのです。しかし、その敗戦によって、スタッフは全て交代になり、次の体制に引き継がれるものは何もありませんでした。
変化は必要です。負けを検証し、そこから課題を見付け、改善していく。そうしたことが行われずに、試合に負けるたびにゼロからスタートしてきたのです。ですから、これからはそうではなく、今後につながる体制作りを意識しなければなりません。こうした体制作りは現在進行形の部分でもありますが、『私が』構築するのではなく、その時々の適任者がこれまでの蓄積された情報、ノウハウに積み上げる形で、世界の状況変化、日本の現況に合わせて対応できるような体制構築が必要になると考えています」

─具体的にはどんなことでしょうか。
「世界のバスケットボールをしっかりと知った上で研究し、日本のバスケットボールの方向性を示していくことと、それを追求し、継続していける体制作りです。世界大会に出ることで得た知見、コンテンツをしっかりと残し、蓄積していく。技術的なことはテクニカルハウスでしっかりと検証し、課題を抽出し、改善していく。そうしたことをテクニカルレポートなどできちんと残し、伝達していく体制、継続し、ステップを一つずつ踏んでいくことを惜しまない体制が必要だったのです。オリンピックの周期に合わせ、『普及・発掘・育成・養成・強化』を連結・連携・連動しつつ、ビジネスのシーンでも行われているPDCA(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Action=改善)をしっかりと行っていくイメージですね。
また、中・長期的にチーム作りを考えると、トップからアンダーカテゴリーまで『一気通貫』の強化体制を敷く必要があります。もちろん、コーチが変われば、バスケットボールが変わる部分がありますが、世界の潮流、スタンダード…そういった情報を共有し、日本としてはこうしたプレーが必要、そのためにはこうしたスキルが必要といったことは、『一気通貫』で指導していける体制になってきました。今後はそうしたスタンダードを代表だけでなく、より広くその考えを普及させていくことが必要だと思っています」

 

 

 

※月刊バスケットボール7月号( 5月25日発売)にて、東野智弥JBA技術委員長の将来構想についてのインタビューを掲載します。

取材・文/飯田康二(月刊バスケットボール)



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