月刊バスケットボール5月号

今週の逸足『NIKE AIR FORCE MAX PREMIUM』

 バスケットボールシューズの歴史において、大きなインパクトをもたらした逸品(逸足)を紹介するこのコーナー。今回は、かつてチャールズ・バークレーやミシガン大学のファブ・ファイブが着用し、最近復刻された『エアフォースマックス』を取り上げる。   文=岸田 林 Text by Rin Kishida 写真=山岡 邦彦 Photo by Kunihiko Yamaoka  

   バスケットボールシューズの歴史において、大きなインパクトをもたらした逸品(逸足)を紹介するこのコーナー。今回は、かつてチャールズ・バークレーやミシガン大学のファブ・ファイブが着用し、最近復刻された『エアフォースマックス』を取り上げる。    2018年のNCAAトーナメントはビラノバ大の優勝で幕を閉じ、ミシガン大ウルヴァリンズは、またしても決勝で涙をのんだ。ウルヴァリンズは過去15回もスウィート16に残り、決勝進出は今回で7回目だが、優勝はグレン・ライス(後にヒートなど)、ルミール・ロビンソン(後にネッツなど)らを擁した1989年のただ1回のみ。あと一歩のところで栄冠を逃すジンクスが今年も発動してしまった格好だ。    その歴史を象徴するのが、1992、1993年のチーム、通称『ファブ・ファイブ』だろう。1991年、全米の有力高校生トップ100人にランクされた5人、クリス・ウェバー(1位)、ジュワン・ハワード(3位)、ジャレン・ローズ(5位)、ジミー・キング(9位)、レイ・ジャクソン(84位)が同時にミシガン大に入学する。ほどなく彼らは1年生にも関わらずスタメンに定着し、NCAAトーナメントを破竹の勢いで勝ち進む。決勝ではクリスチャン・レイトナー(ドリームチーム唯一の学生メンバー。後にウルブスなど)率いるデューク大に敗れたものの、ダボタボのバギーショーツに、黒いソックス、黒いシューズ(主にエアフライトハラチ)で上級生相手にNBA顔負けのアリウープを決める5人は、いつしかファブ・ファイブと呼ばれ、全米の注目を集める存在となった。
 翌1992‐93シーズン、2年生となったファブ・ファイブの面々が主に着用したのが、ナイキのエアフォースマックスだった。このシューズはもともとチャールズ・バークレー(当時サンズ)用のシューズとして発売されたものが、彼が前作のエアフォース180を併用したこともあり、バスケファンにとっては「2年目のファブ・ファイブが着用したシューズ」としての印象がより強い。このシーズン、ビッグ10カンファレンスで31勝5敗の成績を残したウルヴァリンズは、NCAAトーナメントでも順調に勝ち上がり2年連続の決勝進出を果たす。    迎えた4月3日の決勝戦の相手は名将ディーン・スミス率いるノースカロライナ大学。4年生のジョージ・リンチ(後にレイカーズなど)、3年生のエリック・モントロス(後にセルティックス)を中心とした強豪だが、シーズン中の直接対決ではウルヴァリンズが勝利しており、対称的なチームカラーの2校の対決に全米も注目した。この日もイエローゴールドのバギーショーツに黒のソックス、黒のエアフォースマックスで統一したファブ・ファイブたちは躍動し、試合は終盤までもつれる展開に。だがウルヴァリンズが2点を追う第4Q残り11秒、ウェバーがすでに使い切っていたタイムアウトを要求するという痛恨のボーンヘッドを犯す。視線もうつろなウェバーを横目に、ノースカロライナ大はフリースローを着実に決め、勝負は決した。試合後のウェバーの落胆ぶりは、この試合をTVで観戦していた時の大統領ビル・クリントンが慰めの手紙を送ったほどだった。
 数日後、ウェバーはアーリーエントリーを表明し、プロとしてのキャリアを歩み出した。ファブ・ファイブの時代は終わったが、ウェバーらの輝かしい戦績は本拠地のクライスラーアリーナに名誉のバナーとして掲げられ、語り継がれることになった。    2003年、NCAAはミシガン大が長年リクルーティングについての規則違反を犯していたという調査結果を公表。6年間に渡った調査によれば、ウルヴァリンズの熱心な後援者であったエド・マーチンという人物が、ウェバーやモーリス・テイラー(後にクリッパーズなど)、ロバート・トレイラー(後にバックスなど)といった有力選手たちを高校~大学時代に頻繁に饗応していたほか、金銭を“無利子で貸与”しており、その総額は分かっただけで約61万ドルに上った。    NCAAはウルヴァリンズのポストシーズン活動停止などの重い処分を下し、ミシガン大側も自主的にファブ・ファイブ時代を含む5シーズン、112勝を無効とし、学校の印刷物からウェバーらの名前や記録をすべて削除することを決定。ウェバーは以降10年間チームと関わりを持つことを禁じられ、アリーナに飾られた彼のオールアメリカンチーム選出を称えたバナーも取り外された。ウェバー自身、チームの歴史に汚点を残した引け目からか、これ以降、学生時代のことを積極的に語っておらず、2011年に制作されたESPNのドキュメンタリー『ファブ・ファイブ』にも1人だけ参加していない。    だがこの春、少しだけ風向きが変わってきたようだ。決勝直前、ウルヴァリンズの現コーチ、ジョン・ベイレンがESPNのインタビューで「ファブ・ファイブの名誉回復を願う」と発言。一方のウェバーもウルヴァリンズのファイナルフォーが決まった3月24日、自身のTwitterにエアフォースマックスを履いた大学時代の自分の写真をポスト。また決勝の直前には「GO BLUE!」と短く、しかし確かにウルヴァリンズを応援するツイートを投稿している。このツイートには即座に「いくら(金を)もらったんだ?」といったコメントや、タイムアウトを要求する学生時代のウェバーの写真が送り付けられるなど、まだまだ世間の目は厳しい。だがファブ・ファイブが再び5人で輝く日は、そう遠くないかもしれない。     月刊バスケットボール2018年6月号掲載 ◇一足は手に入れたい! プレミアムシューズ100選http://shop.nbp.ne.jp/smartphone/detail.html?id=000000000593     (月刊バスケットボール)


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