月刊バスケットボール5月号

【車いすバスケットボール/香西宏昭】ブンデスリーガ6シーズン目、日本のエースを待ち受けていた試練②

香西宏昭。現在、日本車いすバスケットボール界において唯一の“プロ”である彼は今、ドイツ・ブンデスリーガでの6シーズン目を送っている。リーグきっての強豪RSVランディルに移籍した昨シーズンは、世界のトップステージでその実力の高さを十分に示し、ランディルにとって欠かすことのできない存在となった。   その香西に今シーズン待ち受けていたのは、予想をはるかに超えた試練だった。   文・写真/斎藤寿子

  香西宏昭。現在、日本車いすバスケットボール界において唯一の“プロ”である彼は今、ドイツ・ブンデスリーガでの6シーズン目を送っている。リーグきっての強豪RSVランディルに移籍した昨シーズンは、世界のトップステージでその実力の高さを十分に示し、ランディルにとって欠かすことのできない存在となった。   その香西に今シーズン待ち受けていたのは、予想をはるかに超えた試練だった。   文・写真/斎藤寿子   (つづき) チーム一の速さでもたらした 「勢い」と「脅威」   転機が訪れたのは11月24日、昨シーズンのリーグ覇者で、今シーズンもランディルと首位争いをしているライバルRSBテューリンギア・ブルズ戦だった。   昨シーズン、両チームは6度対戦し、テューリンギアの4勝2敗。実はランディルが勝利を挙げた2試合はいずれも1点を争う大接戦となり、終了間際に決勝ゴールを挙げたのが香西だった。そんな昨シーズンから続くライバル対決の初戦とあって、ランディルのホーム会場には大勢の観客が 詰め掛け、立ち見まで出るほどのにぎわいを見せていた。   試合はテューリンギアのリードで進んではいたが、完全に主導権を握られていたわけ ではなかった。内容的にはそれほどの差は なく、スコアも1Qは1桁差と、巻き返すチャンスは十分にあった。   ところが、2Qの序盤、テューリンギアが一気に引き離し、最大16点差となった。試合の流れを変えようと、ランディルはいくつかのラインナップで打開を図った。うまくいきかけた時間帯もあったものの、長くは続かなかった。そんな中、「香西宏昭」というカードを切る瞬間がいつ訪れてもおかしくはなかった。しかし、結局香西がコートに姿を現さないまま、2Qが終了。3Qも香西はベンチを温め続けた。
「もしかしたら今日は、出番がないのかもしれない。自分はもう、チームに必要とされていないのだろうか…」   そんな気持ちも抱いたという香西だが、それでも変わらずチームメイトを鼓舞し続け、いつ声がかかってもいいように準備を怠らなかった。   ようやく“その時”が訪れたのは、3Q残り5分。ついに指揮官が香西を投入した。すると、途端にコートの様子が一変した。それまでスローペースだった展開が、次々と攻防が入れ替わるスピーディーな試合となり、それに合わせるかのようにほぼ満員のスタンドからの応援のテンポも速さを増した。チーム随一のトランジションの速さがコート上だけでなく、会場全体の雰囲気をも一気に変えてしまったのだ。そして、それがチームに勢いをもたらし、相手には脅威 となっていた。(つづく)   ※月刊バスケットボール3月号(2019年1月25日発売)より抜粋   PROFILE 香西宏昭(こうざい ひろあき) 1988年7月14日生まれ/千葉県出身。2013年イリノイ大卒業後ドイツ・ブンデスリーガを中心に活躍。日本代表として2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロ・パラリンピックに出場   ≪バックナンバー≫ 【車いすバスケットボール/香西宏昭】ブンデスリーガ6シーズン目、日本のエースを待ち受けていた試練① http://www.basketball-zine.com/p75rf5-8co   (月刊バスケットボール)

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