月刊バスケットボール5月号

今月の逸足(CLASSIC KICKS)Vol.7-2

  Vol.7 CONVERSE WEAPON コンバース ウェポン   文=岸田 林   (つづき) ここに来てコンバースは、ようやくマーケティング戦略を刷新する必要性に気付かされ、86年、オールスターウイークエンドにあわせ、バードとマジックを起用したキャンペーンCM「CHOOSE YOUR WEAPON」を放送する。そのCMは、故郷インディアナ州で黙々とシュート練習をするバードの下に、黒塗りのリムジンで乗り付けたマジックが陽気に話しかけるところから始まる。   「コンバースは去年のMVP、ラリー・バードのためのシューズを作ったんだってな」と言うマジックに対し、黒の「ウェポン」を履きながら静かに「そうだ」とうなずくバード。それを受けて、マジックはウォームアップを脱ぎ捨てながら「今年のMVP、マジックのシューズも作ったみたいだぜ!」と言い放ち、その足元には、レイカーズカラーの「ウェポン」が…。   マジックの自伝「MY LIFE」(ウィリアム・ノヴァクとの共著)によれば、数日間に及んだこのCM撮影がきっかけで2人は言葉を交わすようになり、互いを明確に意識するようになったという。そして2人のキャラクターやライバル関係を活かしたこのCMは大きな反響を呼び、コンバースに新たなブランドイメージを吹き込むこととなる。   バードは当時、2年連続MVPを獲得するなどキャリアの絶頂期。この年のプレイオフ1回戦で、バード率いるセルティックスはブルズと激突。のちに「マイケル・ジョーダンの姿をした神だった」というバードのコメントで知られることとなる第2戦(ケガから復帰直後のジョーダンがプレイオフ史上最多の63得点)でも、バードは黒の「ウェポン」を履いてジョーダンを迎え撃ち、しっかり勝利をもぎ取っている。一方のマジックも“ショータイムバスケット”で人気を集めたレイカーズの中心選手として、すでに3度の優勝を経験。これに対してジョーダンはまだプロ入り2年目で、優勝はおろか、チームとしての実力を証明できていなかった。コンバースはそこに勝機を見出したのである。   翌87年にはバード、マジック、アイザイア・トーマス(元ピストンズ)、ケビン・マクヘイル(元セルティックス)、マーク・アグワイア(元マーベリックスほか)、バーナード・キング(元ニックスほか)といったオールスター級の選手たちがそろって「ウェポン」を片手にラップを披露するCMも放送。最後にはやはりバードがMVPトロフィーを見せ付け、コンバースが“実力のあるアスリート”に愛されるブランドであることを訴求。こうして「ウェポン」は、世界で400万足を売り上げる大ヒットとなった。   現在ナイキの傘下にあるコンバースは、この時代、間違いなくNBAとバッシュをリードするブランドの1つだった。2009年にドウェイン・ウェイド(ブルズ)が離脱してからというもの、NBAのコートでコンバースを着用する選手を見かけることは少なくなってしまったが、バスケと共に歩んできたブランドが、再びNBAのコートに舞い戻る日は来るのだろうか。 (おわり)   写真=中川和泉 (月刊バスケットボール2017年7月号掲載)

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