月刊バスケットボール6月号

【中国インターハイ2016記者の目】楽しむこと

本日の3回戦を終えて、インターハイはベスト8の顔ぶれが出そろった。それはすなわち、全国から集結した51チーム、男女合わせれば102チームが、試合に敗れ、夏の全国大会を終えたことを意味している。   敗れたチームのうち、どれだけの高校生が『悔いなくやり切った』『力を発揮できた』と言えるだろう。そう本心から言い切るのは、たやすいことではないはずだ。今頃、悔しくて眠れない選手もいるだろうし、なかなか切り替えられずに燃え尽きている選手もいるかもしれない。   だが中には、悔し涙をぬぐって、『楽しかった!』と、清々しい笑顔を見せる選手たちもいる。例えば今日の3回戦で東京成徳大に敗れた、いなべ総合学園(三重県)は、そんなチームの一つだった。  

  3年ぶりの出場となったいなべ総合は、スタメン平均身長が163.2cmという非常に小粒なチーム。スタメン平均172.0cmの東京成徳大に比べると、ほぼ全てのポジションでミスマッチが起こる状況だった。   だがそれでも、すばしっこくコートを走り回り、豊富な運動量と粘り強さで接戦に持ち込む。最後は64−76で敗れたが、「本当によくやりました」と、試合後、いなべ総合・桜井コーチは選手たちを労った。   印象的だったのは、試合中、選手たちが生き生きとした表情で、時おり笑顔を見せていたことだ。応援席の保護者からも「笑って!楽しもう!」という言葉が飛び、選手たちもそれに応える。苦しい時間帯こそ、そうした“試合を楽しむこと”が、流れをつないでいたように見えた。   試合直後、#4橋本に話を聞くと、第一声で「楽しかったです!」という言葉が返ってきた。「自分たちはチャレンジャーなので、全国の舞台を楽しもうと思っていました。負けて悔しいけれど、それはできたと思います」と、笑顔で振り返る。こうしたチャレンジ精神で試合を楽しむことが、自分たちの力を存分に発揮させたのだ。   また、この話を聞いて、別の選手の言葉を思い出した。昨日の2回戦(vs.明星学園)で敗れた、東海大付福岡#10藤本の言葉だ。チームの得点源の一人として活躍した藤本は、試合中によく笑顔を見せており、その理由を聞いてみた。  

  すると、こんな一言が返ってきた。 「応援席の3年生やコートに立てない人たちに、試合を楽しんでいる姿を見せることが、自分にできる最大の仕事だと思っていました」 試合中の笑顔の裏に、“仲間のために”という思いがあったのだ。   試合を楽しむことは、簡単ではない。これまで積み重ねてきた日々の努力があり、重圧のかかる一発勝負のトーナメントだからこそ、なおさらだろう。だが、楽しむことが好プレイにつながることもあるし、何より試合に出られないメンバーや、はるばる応援に駆け付けた保護者たちへの大きな恩返しにもなる。そのことを、全力を尽くして戦い抜いた彼女たちから、改めて教わった。   まだ夏が終わっていないのは8チーム。ここからさらにレベルの高い世界となるが、後悔のないよう、この大舞台を心から楽しんでもらいたい。   (月刊バスケットボール編集部)  

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