Hagiwara in WNBA

萩原すべての日記



1998/07/09 残り5、8秒。感動の試合について

今午前11時50分。デトロイトから帰ったばかりだ。朝6時にホテルを出発。8時30分の フライトで約4時間飛行機に乗って、フェニックスに着いたのは午前9時40分。さてなぜで しょう。答え。時差が3時間あるからです。 

デトロイトの試合はすごかった。デトロイト・ショックは今年新しくできたチームで、ヘッド コーチは去年までフェニックスでチームメイトだった、NBA(もちろん、NBAと言えば、 あの男子のNBAのことです。)でのプレー経験を持つ39歳、ナンシー・リバーマン・クラ インである。

プレーヤーは、オーストラリアのナショナルチームの選手が3人、旧ユーゴスラビアでプレー していた2mのセンター、クロアチアのガード、それに、昔東芝でプレーしていたシンデイ ー・ブラウンを要するチームである。(憶えている人もいるかもしれませんが、日本リーグで このブラウンと対戦するのに私たちは一苦労したものです。)フェニックスに次いで、国際色 豊かなメンバー構成をしているチームである。 

両チームともチームの中核をなす選手がオーストラリア勢とあって、試合前の練習から、並々 ならぬ気迫みたいなものを、私は、コーチ・グラフ 、ミシェル・テイムズ、ミシェル・グリフ ィス、クリステイー・ハロワーから感じていた。 

試合開始早々、ミシェル・Tが3Pを2本沈めた。やっぱり気合入ってるなあ、と思いきや、 相手のエースガード、サンデイー・ブロンデロもジャンプシュートをがんがん決めてくる。前 半は終始、デトロイトが主導権を握っていた感じだった。スペースを広くとって、ペネトレー トを仕掛けては外にさばいて外郭シュートを沈めてくる攻撃に、いつものウチらしいデイフェ ンスができない。しかも、速攻が速い。がんがん走り込んでくる。さながら、「スモール・オ ーストラリアン・ナショナルチーム」のようだ。その意を隣りに座っているクリステイーに伝 えると、「そのとおりだね。」と首をすくめていた。「オーストラリアの選手が3人出てるか らね。今こっちはミシェル(T)しか出てないけど。」 

前半は押されっぱなしで10点差が開いてしまった。何となくうちのチームにエネルギーが感 じられない。見ていて歯痒かった。ハーフタイム、ロッカールームに戻ると、ミシェル・Tが 「何が悪い?どうして上手くいかない?話し合おうよ。」とみんなに問いかけ、自然に話し合 いが始まった。ベンチで見ていた者、試合に実際に出ていた者が自分の考えを話し出す。「デ イフェンスのプレッシャーが全然かかっていない。相手に好き放題ドライブされているよ。」 「リバウンドが取れていない。あの大きなセンターにセカンド・ショットを決められている 。」「ブレークを出されすぎている。良いシュートを打っていないから簡単にリバウンドを取 られて走られてしまう。シュートに関してはもっと我慢が必要なんじゃないの。」小さいこと の積み重ねなんだなあ、と思いを新たにした。キチンとデイナイをする。シュートを打たれた らボックスアウトをする。攻撃に失敗したら、全力で戻る。チームのルールを一人一人がきち んと守って、シュートを打つべき所で打つ。試合に出ている者は案外こういったことを見落と しがちである。

私も日本で度々あることだが、さして難しくない小さなことをおろそかにした積み重ねが思わ ぬ苦戦を招くものだ。ベンチで見ている者にはその点、よく見える。 

後半の巻き返しはすごかった。私の出番は後半始まって5分くらいで来た。私がコートへ出て 行くと、ナンシーが「SHE  IS A 3POINT SHOOTER!」と選手に言っている のが聞こえた。くそー、ナンシーめ。(もちろん私がシューターであることはみんな知ってい ることなのだが。)アウェーの試合にしては珍しく、後半の勝負所で審判の笛がウチびいきに なりだした。試合ってこんなもんである。

流れが必ずあるし、よりエネルギーが感じられるほ うに何もかもが味方していくものである。逆転し、さらにひっくり返され、一点のビハインド で迎えた残り30秒。リバウンドの際のルーズボール・ファールでうちにフリースローが与え られた。スローアーはマリース。マリースはそれまであまり自分のペースでプレーできていな いように見受けられたが、2本とも沈める。えらい。相手がタイムアウトをとった。

うちのコーチ陣はシンデイー・ブラウンで来る、と読んだ。とにかくシンデイーをデイナイし て、ボールを渡すな、と言った指示が出た。もし、万が一シュートを入れられたら、すぐ「2 0セカンド(20秒間のタイムアウトのことでコートに出ている選手しか要求することができ ない。)」をとれ、ということも付け加えた。試合は再開された。残り25秒。相手のタイム アウトも20セカンドのものだったので、スローインはハーフコートからになる(フロントコ ートのみ。)。ガードのブロンデロと、C・ブラウンがトップの所で2on2のピックアンド ロールプレーを組む。他の3人はアイソレーとして、できるだけ2人から離れ、ヘルプを簡単 にさせない位置に立つ。ブロンデロについていたミシェルが、ブラウンのスクリーンで一瞬つ いていくのが遅れ、その隙にブロンデロがジャンプシュートを放った。かなり体勢が崩れてい たので、落ちた、と思ったが、ボールはゴールに吸い込まれ、デトロイトの観客は総立ちにな った。残り5、8秒。フェニックス、20セカンドタイムアウト。最近、残り10秒足らずの 攻防で負けることが多かった。またか、とも一瞬思ったが、「接戦に強いことを証明 しよう ぜ!」とミシェル・Tがさっき叫んでいたことを思い出し、いや、まだわからない、と思いな おす。1点差だから出番はないだろう、と考えていたところ、いきなり「MIKIKO!GO FOR  UMEKKI!」の声。

そうか、私はシューターだから、おとりに使う、という手 があったな、と咄嗟に思いながら慌ててオフィシャルの所に走る。私がスローインしてミシェ ル・Tに渡し、逆サイドに作ったスタックめがけて走る。もし私のマークマンがヘルプに残っ た場合はいつでもシュートの準備をしておくように。ボールサイド側にはミシェルと、ウチの エースセンター、ジェン。ミシェルが1on1を仕掛け、ヘルプがきたらさばく、という指示 だった。

試合が再開され、私にボールが渡された。ミシェルにパスを入れる時、跳んでいる相手の爪先 に当たって一瞬ボールがバックコートに転がりかけてひやっとした。ミシェルがボールをつか んだのを見届けてから一目散に逆サイドめがけて走った。後ろも見ずに走っていたからよく分 からないが、とにかくジェンが3ポイントを放ったのが見えた。ボールはブザーとともにネッ トを通過した!ブザーと共にだから、完全にバスケットカウントである。審判のバスケットカ ウントのジェスチュアを見届けながら、両手を挙げてコートを走り回るジェンの所へ走りよっ て抱き付いた!!あとは走り寄ってくるチームメイトで、もみくちゃだった。が、次の瞬間、 観客のブーイングに我にかえった。もちろん、試合終了のブザーのほうが早かったのではない か、という抗議のブーイングである。

通常ならここで、敵味方の選手同士がお互いの健闘をた たえ合うのだが、「コートから出ろ!早くロッカールームに行きなさい!走れ!」というもの すごい剣幕のシェリルの声にみんなロッカーへ走り出した。デトロイトにはオーストラリアの 選手もたくさんいたし、サクラメントで仲の良かったTAJAMAがいたので私とし てはぜ ひ握手ぐらいしたかったのだが、やむをえずロッカーへ走った。後で聞いたら、あのままコー トに残っていたら、オフィシャルや審判が試合終了のブザーについて再検討し始めるかもしれ ず、厄介なことになるかもしれないから、という判断らしかった。でも私は、観客のブーイン グを尻目に早々に退場していく3人の審判の姿をしっかり見ていたから、そんなことは無いよ うな気もしたが、まあ、アメリカではそういうこともあるのかもしれない。 

途中で絶叫中継になってしまったが、とにかく劇的な試合だったのだ!こんなこともあるんだ なあ。なんでもあり。常識にとらわれない。うーん、アメリカって感じ。試合後、一応、神妙 に反省のミーテイングはあったものの、真っ先にその進行役であるシェリルが踊りだした!!

なんか、かなり放送禁止用語じみたことも叫んでいたようだったが、割愛させていただきま す。とにかく、今日のフライトが朝早かったにもかかわらず、みんなのハイテンションは続い た。でも、今日の練習は午後4時から、という発表を聞き、一瞬シーンとなった私たちであっ た。

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