Hagiwara in WNBA

萩原すべての日記



1997/07/19 ルーカスに捧ぐ

あっつー。今日もめちゃめちゃ暑い。でもサクラメントの人間に言わせると、「快適な暑さ」なのだそうだが。8月になると もっとすごいらしい。ひいー。遠征で、ヒューストン、フェニックスに行ったが、やはり暑かった。ヒューストンは蒸し暑 い。日本の夏に近いんじゃないかな。ホテルの18階に泊まったのだが、窓から見える風景は熱帯雨林のそれに近いように感 じた。フェニックスも殺人的に暑かったのだが、こちらはアリゾナ州。砂漠である。サボテンや、葉の少ない木、むき出しに なった茶色い大地が印象的だった。昼食を食べに、2、3人のチームメイトと歩いて3分くらいのフード・コートに行ったの だが、真っ昼間なのに道路には人っ子一人いやしない。その理由も大いにうなずけた。サクラメントは朝晩は涼しい。肌寒い くらいなのだが、フェニックスの夜は昼間と変わらない。「うだるような」という形容詞がぴったりである。ドライなのが不 幸中の幸い、といった感じだった。

さて今日は午前中チームミーテイングがあって、午後は予期せずフリーになった。再来週から少しゲームが続くのでそのため のリフレッシュ、ということらしい。うちのチームは今負けが込んでいて、そういう状態にあるチームがどこでもそうするよ うに、若干の選手の入れ替えがあった。(周知のことと思うが、LA・スパークスのヘッドコーチは数日前に突然解雇され、 大変話題になった。)今日のミーテイングでもその選手の入れ替えについて、が一番の焦点だったのだが、うちのヘッドコー チはこう言い放った。「確かに今まで慣れ親しんだ選手を辞めさせるのは気分が悪い。でもこれはビジネスだ。成績が悪けれ ば私の首が飛ぶ。」・・・おそらくLA・スパークスのヘッドコーチ解雇は彼女にとっても予期せぬ大きな衝撃だったに違い ない。今まで何食わぬ顔をしてその話題を口にしていた彼女だったが。かくして私にもこれからロッカールームに来るたび、 自分のロッカーの自分の名札がいつもどおりぶら下がっているかを確認してほっとする日々が到来するのだろう。昨日試合で 出番がなかったので、少しワークアウトしてから帰った。

今日は3時から、チームに所属している選手の義務として(アピアランスといいます。)市内の小学校に出向いて、クリニッ クをするように言われていた。私の他に3人の選手、2人のチーム関係者が来たのだが、「暑くて面倒くさいよう」という予 想に反してなかなか楽しいものだった。参加者は5歳から12、3歳くらいの子どもたち30人くらい。パス、ドリブル、レ イアップシュート、デイフェンスフットワーク、という基本中の基本を一時間クリニックしたのだが、子供たちが素直で本当 にかわいかった!!!自分はこんな事も出来るよ、こんな事も出来るよ、(もちろん子どものやることだからあまりうまくは ないのだが)とテレビのNBA選手の見よう見まねで、要求された以上のことをアピールしようとする。失敗すると本当に悔 しがる。成功して「グッドジョブ!ギブミーファイブ!(ハイファイブのこと)」とでも言われようもんなら満面の笑顔で、 体中で嬉しさを表現しながら、こちらの手を叩いていく。教える方は決して叱らない。ほめるほめる。手放しでほめちゃう。

最年少参加者のルーカスという男の子がまたとってもかわいかった。5歳なので身長もとても小さく、ほとんどボー ルと同 じくらいに見えたほどだ。オーバー・ヘッドパスのフェイクをしてバウンズ・パスをする練習で私がダミーでデイフェンスに 入っていたのだが、ルーカスはバウンズパスを腰の位置からリリースすると届かないので、彼なりの智恵でオーバーヘッドの 位置から思いっきり下にボールを叩き付けた。ボールはまっすぐ私の方に向かってきた。とっちゃいけない!と思って必死で ボールをよけた私に向かってルーカスは得意そうに「ほうらね、僕のパス、ステイールできないだろ?」と笑った。

レイアッ プシュートの練習の時、ゴール下まで来て悲しそうな顔をして止まった。「僕、シュートできないんだ。」なるほどルーカス は小さすぎて彼の身長の5、6倍はありそうにみえるリングまでシュートするのはほとんど不可能に見えた。「できるよ。ト ライしてごらん。」「ううん、僕は小さすぎてシュートできない。」エイミーというスタッフが機転を利かせて彼の小さな体 を抱き上げた。彼は一生懸命リリースしたのだが、それでもボールはリングに届かず、エアーボールになってしまった。「ウ ーッ!!」彼は悔しさに体を硬直させ泣きながら壁に向かって突進し、壁に頭をつけてしばらくそのままで泣い ていた。照 れ笑いで自分をごまかしたり、他人に向かって繕って見せることなど一切しない。誰がどう見たって5歳の子が華麗にレイア ップを決めるなどということは期待できないだろう。でも彼はこんな些細なことにも(今の私にとって些細、という意味)全 力で取り組み、体いっぱいで喜び、体いっぱいで悔しがる。私はどうだったっけ、と考えさせられた。

いつか共石(現・ジャ パンエナジー)に入って竹山とよ子さんみたいなプレーヤーになるんだ、ドライブインが大好きで、でもドライブインを効果 的に使うには、外からのシュートも入らなくちゃいけないな、などと自分なりに考えて暇さえあればシューテイングを嬉々と してやっていた私。市内のライバルチーム、ライバルプレーヤーに勝ちたくって、ただどうしても勝ちたくって、でもそのラ イバルプレーヤーの強気なプレーが大好きで、あんなふうになりたい、といつもイメージしてから眠りに就いていた私。テレ ビでバスケットの試合があると知れば必ず父とともに観戦し、一丁前にああだこうだ言ってみたり、勝手に観戦記を書いて顧 問の先生に見せてみたり。

毎日の練習の日記もそれは丁寧にこと細かく書いていたっけ。何だか今考えると 、あの頃の私の 方が今よりももっとプロらしかったかもしれない。あの頃描いた夢を今追い続けることができる、という幸福感をしばらく忘 れていた。

ルーカス君、ありがとう。

その純粋な心で、きっとすごいNBAプレーヤーになってね。20年後にルーカス・な んちゃら、というもんのすごいNBAプレーヤーが出てきたらそれは私が教えたルーカスです。

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