2008.08.25

続・準備期間

 きのう(北京24日・LA23日深夜)の北京オリンピック男子決勝戦はお互いに気持ちがこもった、とてもいい試合だった。出だしの笛が厳しかったことで全体にオフェンシブな流れになったけれど、個人的にはミスによって決まる試合よりもプレーが決まって決着がつく試合のほうが好きなので大満足。
 スペインはさすが黄金世代のチーム。層も厚く、さらに下の世代も出てきているので、しばらく世界の頂点をアメリカと争うチームになりそうだ。アメリカ代表も、花の2003年ドラフト組(レブロン、カメロ、ウェイド、ボッシュ)を中心に、ベテランが要所を締め、若手も活躍するいいチームだった。これまでの即席チームだったら崩れてしまっていたところで、踏ん張れるだけのチームになっていた。

 

 さて、前回の記事で、アメリカ代表の練習日数自体は以前とそれほど変わっていなくて、あまり多くないという話を書いたけれど、だからといってアメリカが準備不足だったと言いたいわけではない。むしろ逆。選手の身体、疲労を考えて練習日程は最小限にとどめていたけれど(※)、準備自体にはものすごく多くの時間とエネルギーをかけていた。

 たとえば、米代表責任者のジェリー・コランジェロは、2005年4月にこの仕事を引き受けてすぐ、代表チーム作りの方向性を決めるために国際試合を経験した元コーチ、元選手らの経験者を集めてミーティングをし、国際試合ではどんな点が違うのか、向いている選手、コーチは誰なのかなど、彼らの意見を聞き、知恵を拝借した。選手を選ぶ際にも、コランジェロが選手たち(今回の12人だけでなく、候補に入った選手全員)一人一人と会って、チームの方針(3年のコミットメントなど)をきちんと伝え、それに同意するかどうかの確認を取った。ライバル国のスカウティングにも時間と人材を割いていた。

 さらに、ここまでやるのかと驚かされたのは、選手たちに国を代表することのプライドを植えつけるための数々の手段。

 たとえば、2年前のキャンプにはイラクの戦場で視力を失った兵士が来ていた。彼の話は、国のために戦うということがどういうことなのか、選手たちにかなり強い印象を残したようで、それ以来、選手の間から「兵士たちとは比べものにならないけれど、僕らは僕らのやり方で国を代表して戦う」といった表現が聞かれた。
 正直言って、個人的にはスポーツの場に戦争、兵士の話を持ち込むのは抵抗があるのだけれど、ウェストポイント(陸軍士官学校)出身のコーチKらしいやり方だと思うし、アメリカ的だとも思う。←アメリカにいると、いろいろな場面で、一般市民が兵士に対して深い感謝、敬意を抱いているのを感じるのだ。NBAの試合でもハーフタイムなどに招待されている兵士が紹介されると、観客みんなが自然とスタンディングオベーション。消防士に対してもそうなのだが、命を捧げて自分たちを守ってくれている彼らに心から感謝しているのだ。

 今年のキャンプでは、1972年、疑惑の判定でソ連に敗れたときの米代表の一員、ダグ・コリンズを呼んで、当時の経験談を聞いていた。この試合がどれくらい不思議な試合だったかは、ミュンヘン五輪、男子バスケ、決勝戦といったキーワードで検索すれば出てくると思うのでここでは省略するが、当時のアメリカは試合直後に抗議したものの3対2では認められず、自分たちは金メダルをもらうべきだという信念のもと、銀メダルを受け取らなかったのだ。
 当時の話、今でも忘れられない悔しさは、話を聞いた現代表選手たちの心に深く染み込んだようで、きのうの決勝で勝ったあと、試合の解説者としてコートサイドにいたダグ・コリンズのところに米代表の選手全員が近づいて握手をしていた。72年チームの分も"redeem"(名誉挽回)すると言う気持ちだったようだ。

 他にも、6月のミニキャンプのときに練習コートのコートサイドに大型モニターを持ち込んでマービン・ゲイが米国歌を歌い上げた場面(1983年のオールスター@LA)を流したり(チームのスポンサーでもあるナイキが、このときの練習風景の映像を使ってCMを作り上げていた)、チームのメディアお披露目も兼ねてニューヨークで船に乗り、自由の女神を見て、かつて移民だった自分たちの祖先が最初にアメリカの地を踏んだときを思い浮かべたり、コート上での練習とは違うけれど、これもチームが戦う準備だった。

 こういう過程を経てきたからなのかもしれないけれど、今回の代表の選手たちは国を代表する誇りということに関しては、他国の選手にもまったく負けていなかった。たとえばインディアナポリスでの世界選手権やアテネ五輪の頃は、アメリカ選手たちにとってはNBAの続きの試合のような感じで、あまり国の代表に対する熱い想いは感じられなかった。

 選手が揃っているアメリカでも(いや、アメリカだからこそ、かもしれないが)、そんなことにも時間や手間をかけるのかと驚いたけれど、決勝戦を見たあとで考えると、そういったことも今回の代表チーム作りの中でも重要なステップだったと思える。

※結果的には、決勝トーナメントに入ってからの対戦相手、オーストラリア(ボガット)、アルゼンチン(ジノビリ、ノシオニ)、スペイン(カルデロン)はすべて故障者が出て戦力ダウンしたのに対して、アメリカは大会中に故障者が一人も出ずフル戦力で戦えたわけで、作戦成功と言っていいと思う。


Posted by Yoko Miyaji at 12:24  国際試合