2005.11.02
「解雇」
某雑誌の担当編集者から言われて、そうかと思ったのだが、「解雇」という言葉は日本の人にとってはすごく決定的に聞こえ、そこで終わりという印象を受けるらしい。NBA周辺にいると、「解雇」というのはかなり頻繁に聞く言葉で、たとえ解雇された選手でも、すぐに他チームからオファーをもらうことは日常茶飯事、同じチームが1ヶ月くらいして状況が変わったからと復帰することもある。もちろん解雇されずに契約を続けられるほうがいいけれど、解雇されたからといって、今シーズンに田臥がNBAのユニフォームを着る可能性がなくなったわけでも、ましてや田臥のNBA挑戦が終わったわけでもない。
きのう、10/31の昼過ぎ。練習後、クリッパーズの練習コートがあるスポーツジムのカフェテリアで、コーチとフロント陣がランチを食べながらミーティングを始めた。LA時間で午後3時までにリーグに提出しなくてはいけない開幕登録ロスターを話し合うミーティングだ。もっと端的に言えば、田臥勇太かアンソニー・ゴールドワイヤのどちらを「解雇」し、どちらを残すかを決めるミーティングである。この間、選手たちは新シーズンに向けて服装規定などの説明を受けるミーティングで別の部屋へ。田臥とゴールドワイヤの二人ともこのミーティングには参加。どちらかが直後に解雇を言い渡されるわけで、それなのに新シーズンに向けてのミーティングっていうのも皮肉な状況だなぁと思いながら、私たち報道陣はそのミーティングが行われている部屋の外で待っていた。
1時半過ぎだっただろうか。選手のほうのミーティングが終わった。コーチたちはそちらが終わるのを待っていたようで、ヘッドコーチのマイク・ダンリビーがすぐに立ち上がり、練習コートのほうへ。田臥とゴールドワイヤもコートのほうへ。私たち報道陣がコートに来るように言われたときには、すでに田臥もゴールドワイヤもロッカールームに戻ったあとだった。広報のロブが、少し悲しそうな顔(に見えた)で、「ユウタをカットすることになった」と教えてくれた。すぐにダンリビーがやってきて、理由を話し始めた。
「最後のロスターを決める決断はとても難しいものだった。ユウタはとてもすばらしいプレシーズンを送った。最後には、彼がどういうプレーをしたかではなく、経験が浅いということによってこういう結論となった」
クリッパーズのポイントガードの状況については10/24に書いたとおり。カセルが35歳の、いつ故障で休まなくてはいけなくなるかもしれない選手でなく、脂が乗った30歳前後の選手だったら、あるいはユーイングがルーキーではなく3年目くらいのNBA経験を積んだ選手だったら、3番目としては試合のテンポを変えられる田臥のほうが選ばれたかもしれない。あるいは、今年のクリッパーズがプレイオフを本気で狙っているチームでなければ、安全パイのゴールドワイヤよりも伸びる可能性がある田臥をとったかもしれない。でも、今のクリッパーズはゴールドワイヤを選んだ。昨季のサンズで、田臥ではなくベテランのハワード・アイズリーが解雇となった(アイズリーは3番手となるのを嫌がったため)ように、逆のこともある。NBAを見ていれば、こういうことは珍しいことでも何でもなく、日常的に起こること。
コーチが話し終わると、その間コートの入り口の外で待っていた田臥が入ってきた。カットされた直後ということで話を聞きにくいかと思っていたけれど、その心配は無用だった。本人はそれほど暗い表情というわけでもなくサバサバした感じ。
「お待たせして、ちょっと残念なニュースですみません」と言って、取材を始めた。やれることはやったという充実感、解雇にはなったけれど、自分が思うようなプレーができて、それを認めてもらうことができたという満足感が、そういった表情となったのだろう。実際、このプレシーズンでの田臥のプレーは、NBAのコートに彼の居場所があることを証明していた。傍目にみても、これで選ばれなかったらしかたがない、と思えるくらいの結果を出していた。
2年前のキャンプでナゲッツからカットされ、一年前の12月にはサンズからもカットされた。その2回とは違うかと聞くと、田臥は「全然違います。すごく前向きです」と答えた。「サンズのときはかなりへこみましたけれど」と言いながら、田臥は笑った。解雇後の会見で笑う余裕があるとは!
「(今年は)可能性があるというか、やっていける自信、なんとかなりそうな感じ…今回すごく手ごたえを感じたんで。残れればベストでしたけれど、次またこのステージでできるように頑張るしかないですね」
きょうからNBAは開幕。残念ながら開幕ロスターの中に田臥の名前はないけれど、彼がNBAのユニフォームを再び着る日は、近いうちに必ずやってくる。





