2005.10.21

ゾーン・ディフェンスがNBAで増加している。【HOOP2003年2月号掲載】

>>頑固なコーチも時代の流れには逆らえず、ゾーン・ディフェンスを導入。

 NBAコーチには頑固な人が多い。自分のカラーのチームを作るためには、自分が信じることは貫き通すことが必要だし、たとえ負けが続き、チームが低迷しても周りからの声にいちいち影響されてポリシーを変えていては選手も混乱するばかりなのだから、それも当然だ。マイケル・ジョーダンやコービ・ブライアントといったスター選手の抵抗にあいながらもトライアングル・オフェンスを採用したフィル・ジャクソンしかり、マンツーマン・ディフェンスにこだわるパット・ライリーやジョージ・カールにしかり。
 ただし、ただ単に頑固なのではなく、時に柔軟な対応が必要な時もある。ここぞと思うようなところでは、自説を曲げてでも新しいことを取り入れる大胆さ。そのタイミングやさじ加減の上手な人が名コーチなのだと思う。12月2日、パット・ライリーにそのときが訪れた。ライリー率いるマイアミ・ヒート対ファニックス・サンズの試合。タイムアウトのハドルでライリーは、生まれて初めて、ゾーン・ディフェンスの指示を出した。エディ・ジョーンズをトップに置く1-2-2のゾーンだ。
 アンゾロ・モーニングが抜け、インサイドのディフェンスの核がいなくなった今シーズンのヒートは、相手チームにペイント内に攻め込まれ、自分たちがもらう数に比べて2倍近いフリースローを相手チームに与えていた。そしてその分、インサイドの選手たちはしょっちゅうファウル・トラブルに陥っていた。インサイドを固めるため、そしてファウル・トラブル対策として、苦肉の策のゾーン・ディフェンスだった。作戦は成功で、サンズのオフェンスの流れは止まり、その結果、ヒートは100対90で勝利をあげた。「タイムアウトで指示を出したときには、少しきまりが悪かった」と試合後にライリーはその時の心境を語った。「『しかたがない、いくぞ』」と言うと、みんなも笑っていた」そのとき、記者たちの質問に答えていたライリーの横を、現在サンズのアシスタントコーチのマーク・アイアバロニが通りかかった。昨シーズンまでヒートでライリーのアシスタントコーチを務め、ライリーのゾーン批判をさんざん聞かされていた彼は、笑いながら、かつてのボスに「ゾーンについての文句はもう二度と言わないでくださいよ。もうこのこと(ライリーがゾーンを使ったこと)はニュースとして広まっていますからね」と言ったという。
 NBAでは昨シーズンから実質上のゾーン解禁(イリーガル・ディフェンスの廃止)となった。ディフェンス3秒ルールの制限があるとはいえ、それまでマンツーマン・ディフェンスのリーグだったNBAにとっては大革命だった。それでも、ライリーは、ゾーン解禁1年目の昨シーズン、頑なまでにゾーンディフェンスを拒み、マンツーマンで守り続けた。ライリーはゾーンの功罪についてこう言っていた。「私のチームはいつでも、トップクラスのディフェンスをしてきた。ゾーンについて私が知っていることでこれは調査の結果として証拠もあるのだが、選手にエリア(場所)を守ることを教え、その機会を与えると、選手たちはそれしかなくなる。そうなると、必要なときに個々の選手を止めることができなくなるんだ」
 そのライリーにゾーン・ディフェンスを説得したのが、ヒートのアシスタントコーチ、エリック・スポールストラだった。彼のことは以前、2002年6月号のこのコラムでアドバンスド・スカウティングを担当しているときから、とにかく綿密なレポートをまとめることで定評があったのだが、その彼が夏の間にゾーン・ディフェンスについて徹底的に調査、どういうゾーン・ディフェンスが必要なのか、どういうときに必要なのかといった報告をまとめ、ライリーを説得したのだという。サンズ戦で使った1-2-2のゾーンも、そのときに必要なのかといった報告をまとめ、ライリーを説得したのだという。サンズ戦で使った1-2-2ゾーンも、そのときにスポールストラが推薦したゾーンの一つ。その他に、現在ヒートはもう一つ別のゾーンも練習中だというから、ライリーがゾーン・ディフェンスを指示する場面はこれからも時々見られそうだ。
 といっても、まだライリーがマンツーマン信奉者であることには変わりない。ライリーいわく、「まだゲームに勝つのはマンツーマンだと思っている。ただ、相手チームの意表をつくために、流れを変えるために何かが必要で、私にとって、ゾーンはそういった存在だ」なのだそうだ。
 ライリーのように、試合の流れを変えるためにゾーンを使うチームはリーグの中でかなり増えてきている。昨シーズンは1プレイか2プレイだけゾーンに切り替え、相手が外から決めるとすぐにマンツーマンに戻すチームが多かったのだが、今シーズンはもう少し長い時間、続けてゾーンを使うチームが増えているようだ。また、ゾーン・ディフェンスの対戦相手を想定した練習をしているうちに、これは使えるかもしれないと自チームの作戦として取り入れたペイサーズのようなチームもある。
 ライリーと同じように、マンツーマン派のジョージ・カール(ミルウォーキー・バックスヘッドコーチ)も、少し前までは「ゾーン・ディフェンスは“臆病者”のためのディフェンス」とまで言っていたのだが、最近になってゾーンを効果的なディフェンスとして認めて試合中に使うことも増えてきている。「ゾーンを使って勝っているチームがあるのを見て、私の中でもゾーン・ディフェンスの優先順位が上がってきている」とカールは言う。
 その「ゾーンで勝っているチーム」の筆頭が、開幕から14連勝、リーグ首位を走るダラス・マーベリックスだ。マーベリックスのヘッド・コーチ、ドン・ネルソンはNBAの中では革新的と言われる柔軟なコーチだが、それでもNBAの一筋のコーチだけあって、昨シーズンは「ゾーンをメインのディフェンスにすると選手が怠け者になる」と言い、ゾーン・ディフェンスは部分的にしか用いていなかった。しかし、マーベリックスのマンツーマン・ディフェンスはお世辞にもいいとは言えず、特にディフェンスが必要となるプレイオフではカンファレンス・セミファイナルでサクラメント・キングスに与えた計207本のフィールドゴールのうち、半分以上にあたる115本がダンクかレイアップ、ソフトなインサイド・ディフェンスは批判の標的となった。
 現実的な目標として優勝を目指すようになったマーベリックスは今季は「115本のダンクとレイアップ」を標語として掲げ、二度と同じことを繰り返さないようにディフェンスに力を入れ始めたのだが、その核となっているのがゾーン・ディフェンスだ。実はネルソンはルール変更が決まった2001年夏のオフに、マーベリックスのディフェンス担当アシスタントコーチのデル・ハリス、ユタ大のヘッドコーチで、かつてネルソンのアシスタントコーチだったこともあるリック・マジェラスとともに3人でハワイで「ゾーン合宿」なるものをして、ゾーン・ディフェンスの研究をしていたというのだから準備は万全だった。
 今シーズン、マーベリックスがゾーンを用いる度合いは他のどのチームより多く、今のところ、だいたい試合全体の6割くらいはゾーン・ディフェンスに頼っている。ゾーン中心にしたことで、229cmの長身のショーン・ブラッドリーも効果的な戦力として生きている。「ブラッドリーが真ん中にいることで、ペイント内が守られ、相手チームが外から攻撃せざるをえないようなディフェンスをしている。彼らに勝つためには、試合を通して外からのシュートがよく決まっていなくてはいけないような状況にさせられている」とシアトル・スーパーソニックスのネイト・マクミランコーチは言う。
 12月14日現在、マーベリックスのディフェンスは相手オフェンスを平均93.2点(昨シーズンは101点)、FG成功率をリーグ5位の42.2%(昨シーズンは45.2%)に抑えているのだから、1年前から比べたら大きな上達だ。
 ただし、このマーベリックスのゾーン・ディフェンス効果は続かないと思っている人は多い。今はまだゾーンを攻めることに慣れていないチームが多いためにゾーンの効果は大きいが、シーズンが進み、研究されて対策を練られるようになればそれほどうまくいかないだろうというのだ。実はネルソンコーチ自身もそう考えている一人。「今のところ、ゾーン・ディフェンスのほうがゾーンに対するオフェンスより先をいっている。コーチたちがこの先、ゾーンに対する攻撃の仕方を見つけ、オフェンス面で追いついてくるのは確かだ。そうなったときには、私たちのディフェンスもマンツーマンとの組み合わせに切り替えていく必要があると思う」と言う。
 昨シーズン、開幕から大型ラインナップを生かしたアグレッシブなマッチアップ・ゾーンを敷いて、前半40試合の成績が30勝10敗、勝率75%だったミネソタ・ティンバーウルブズが、他チームがゾーンに慣れて対処してきた後半42試合に20勝22敗と5割を切る成績だったことは記憶に新しい。実際に、マーベリックスも少しずつ相手のオフェンスが対応してきているのを感じている。「ゾーンをやればやるほど、弱点をさらけだし、相手コーチたちも攻撃の策を見つけてくるだろう。そのことは、ゾーンを使って練習している私たちがよくわかっている」とネルソン。ディフェンス担当のハリスは、シーズン終盤にはマーベリックスのディフェンスをマンツーマン主体にしたいと言う。「理想的には、シーズンの終わりまでにはマンツーマンを速球、ゾーンがチェンジアップになるようにしたい。今は目の前の試合に勝つために必要なことをしているが、シーズンが終わるまでにはマンツーマンのディフェンスを上達させ、今ほどゾーンを使わなくていいようにしたい」
 はたして、ゾーン・ディフェンスに慣れたマーベリックス選手たちはマンツーマンでも上達を見せるのだろうか。もし、マンツーマンの上達がなかったときに、ネルソンやハリスは第二の手で何を考えているのか。この先の見どころの一つだ。「ネリーと私にとって、このゾーン・ディフェンスは楽しくてしかたないんだ」とハリスは言う。「まるでお菓子屋に行った子どもみたいなものだよ」。


Posted by Yoko Miyaji at 21:28  HOOP SCOOP