2005.10.21
今シーズンも変更されたNBAのルール【HOOP2002年12月号掲載】
>>02-03シーズンからNBAは、ついにインスタント・リプレイ導入に踏み切った
アメリカという国は、いろいろなことに、かなり臨機応変に対応する国だと思う。NBAを見ていても、それを感じることは多い。その1つがほぼ毎年のように少しずつ変更されるルールである。NBAルールの変更の歴史を見ると、1946年にNBAが設立されてから、ルールが変更されなかった年の方が珍しいくらいだ。ルールというのは一回決まったら一定期間は変わらないものという固定概念を持っていた身に、このことは驚きだった。
今シーズンもまたルール変更が発表になり、インスタント・リプレイが導入されることになった。試合中のレフェリーの判定が正しいかどうかをその場でビデオを見て確認、間違っていれば修正するという判定方法で、NFL(米プロフットボールリーグ)やNHL(米プロホッケーリーグ)ではすでに採用されている。NBAでもしばらく前から導入が検討されてはいて、賛成意見も多かったのだが、それでもこれまでは時期尚早と判断され、正式な導入に至っていなかった。
その流れを変えたのが昨季のプレイオフ。時間内にシュートを打ったのにノーカウントになったり、逆に時間後のシュートなのにカウントされたりというクロック関連の判定ミスがいくつか続けて起こったことだった。
一つはシャーロット・ホーネッツ対オーランド・マジック第3戦の4Q終盤、バロン・デイビスが放った3Pシュートがノーカウントとなってオーバータイムにもつれた試合。あとからビデオをコマ送りで確認したところ、シュートは時間内だったことが明らかになり、判定を下したレフェリーもミスを認めている。
また、ニュージャージー・ネッツ対インディアナ・ペイサーズのシリーズ第5戦、4Q終了時にレジー・ミラーが放った3Pシュートが有効とされてオーバータイムにもつれた試合と、ロサンジェルス・レイカーズ対サクラメント・キングスのシリーズ第4戦、ハーフタイム直前にサマキ・ウォーカーが放ったシュートがカウントになった試合。この2つの場合はどちらも、実際には時間後のシュートだったことが明らかになっている。
タイムアップ直前の判定が一番難しい、とNBAのレフェリーは言う。10分の1秒の単位の時計を見ながら、ボールが時間内に手を離れたか、その時にファウルがなかったか、外からのシュートなら3Pラインの外側か内側かなど、一度にいくつものことを瞬時に見極めなくてはいけない。しかも、一つのミスが勝敗を左右することになりかねないのだ。「時間ギリギリのシュートが、実際に時間切れの前だったか後だったか、それを人間の目で判断するのは不可能に近い」と、NBAのバスケットボール運営部長、ストゥ・ジャクソンは言う。
ジャクソンによると、レフェリーが今回のインスタント・リプレイ導入を支持しているという。10月のプレシーズンの間
各都市でNBAレフェリーがわれわれメディアに対しても判定の仕方や新しいルールについての説明会を開いてくれているのだが、その時の話を聞いても、レフェリーが今回のこのビデオ判定導入を歓迎しているというのは確かなようだ。ナマ身の人間の目で見られることには限界があり、技術の助けが役に立つこともある、それを認めることが今回のビデオ導入の考え方の原点となっている。
そういえば、NBAは数年前からレフェリーの笛と時計をワイヤレス信号で連動させ。3人のレフェリーの誰かがホイッスルを吹くと自動的に時計が止まるようなシステムを用いている。かつては、ホームよりのクロック・ペレーターによって時間が止まるのが遅かったり、動き始めるのが遅かったりといった「ホームコート・アドバンテージ」が問題になったことがあったのだが、このワイヤレス・システムを導入してからは、そういった疑問はすっかり聞かなくなった。
さて、インスタント・リプレイを導入するからといって、何でもかんでも対象になるわけではない。今回導入されたビデオ判定の対象になるのは、各クォーターとオーバータイム終了時のシュートとファウルのみ。どちらかのチームがインスタント・リプレイを請求するという方式ではなく、タイムアップと同時にシュートが決まったとき、あるいはタイムアップと同時にファウル・コールがあったとき(4Qとオーバータイムのときは、そのファウルの結果与えられたフリースローによって試合の結果が左右される可能性があるときのみ)には自動的にビデオでの確認が行われる。
ビデオ判定で確認されている点も、ごく限られた点に限定されている。★シュートが時間内だったかどうか。★シューターの足が3Pラインを踏んでいないか。★シュートを放ったときにサイドラインやエンドラインを踏んでいないか。★シュートを放つ前に24秒バイオレーションや8秒バイオレーションがなかったか。
という4点。あるいはファウルの場合なら、ファウルがタイムアップの前に起きているかどうかだけがビデオ判定の対象となる。つまり、それが本当にファウルだったのか、あるいはディフェンスファウルなのかオフェンスのファウルなのかといったことは、今回導入されたインスタント・リプレイの判定の対象とはならない。
それでも、このインスタント・リプレイ導入は、昨シーズンのイリーガル・ディフェンス廃止と並んで、NBA史上でも画期的なルール変更であることはまちがいない。実際に今回ビデオ判定されることになった内容は特に論議を呼ぶことではなく、イリーガル・ディフェンス廃止ほど、すぐに試合に直接的な影響が表れるわけではないだろう。それでも、レフェリーの判定の補助にビデオを持ち込むというコンセプト自体が画期的で、場合によっては将来のレフェリーのあり方を大きく変える一歩になる可能性すら秘めている。アトランタ・ホークスのGMのピート・バブコックも、「話し合いを始めたときには、この変更でパンドラの箱を開けてしまうのではないかということが一番心配だった。さらにビデオ判定できることを増やそうということになり、試合の流れを崩してしまうのではないか、それが心配だった」と、ビデオ導入に関する懸念を表していた。それでも、バブコックも話し合ううちに、「採用になったのは(試合途中ではなく)終了間際のシュートで、どちらにしても時間が止まっているときのビデオ判定だから」と、このルール変更に賛成している。
実際、バブコックが当初心配していたようにNBAはパンドラの箱を開けてしまったのだろうか。それはまだ、これから何年かたたないとわからない。NBAも今回の変更にはいつも以上に慎重な姿勢を見せており、「インスタント・リプレイのシステムは、採用される一方で、常に(正しいあり方かどうかの)検討されることになる」(ストゥ・ジャクソン)とも言っている。つまり、あまり効果がない、あるいは試合に悪影響があるとわかれば、いつでも再変更、場合によっては取り消す用意があるというわけだ。このあたりも、とてもアメリカ的なやり方だ。
ルール変更に関連して、もう一つ。ことしの世界選手権でアメリカチームが負けたことで、NBAはFIBAのルールにさらに近づけるのではないかという憶測の声もでているが、これに対してNBAコミッショナーのデビッド・スターンは否定している。
「むしろ、最近ではFIBAのほうがNBAに近づいてきているのではないだろうか」とスターンは言う。
確かに、24秒クロックと4クォーター制の採用によってFIBAルールは大きくNBAのルールに近づいた。NBAもイリーガル・ディフェンスを撤廃することでFIBAに近づいたとも言えるが、それと同時にディフェンス3秒ルールを新たに設けたことで、FIBAとは一線を画している。NBAがイリーガル・ディフェンスを撤廃したのは、国際大会でのアメリカチーム強化のためと考えている人もいるようだが、私には、それが第一の目的だったとはどうしても思えない。NBAはアメリカバスケットボール協会とは別団体、別の思惑で動いているプロリーグで、イリーガル・ディフェンス撤廃はアメリカ代表チームの強化よりも、まず第一にNBAゲームをおもしろくすることがいちばんの目的だったと思うのだ。
実際のところ、NBAとFIBAはわれわれが思う以上にルールに関しての情報を交換しあっている。NBAが10分の1秒単位のクロックを採用したのは、マクドナルド選手権でFIBAのクロックを見て取り入れたものだし、FIBAは24秒クロックのルールをNBAと同じ基準に変更することも検討している(※)。また、ことしの世界選手権でFIBA側からNBAのディフェンス3秒ルールの効果についての質問が出るなど、お互いの情報交換は活発だ。
こういう話を聞くとつくづく、スポーツは生き物だと思う。特にバスケットボールはアメリカという国と同じように、まだ歴史の浅い、いわば若いスポーツだ。アメリカ的に、柔軟にルールを変え、変化していくのが似合っているのかもしれない。
※現在のFIBAルールではシュートを放った後、空中で24秒になったとき、シュートが入ればカウントになるが、外れた場合はリングに当たっても24秒バイオレーションとなる。一方、NBAは24秒以内にボールが手から離れれば、ボールがリングに当たりさえすれば、外れてもバイオレーションにはならない。





