2005.10.21

トレード・デッドラインが近づくと、巷は噂だらけになる。【HOOP2003年3月号掲載】

>>日常的な噂のほとんどが、単なる噂にすぎないものばかり…

 2月20日のトレード期限を前に、巷にトレードの噂があふれてきた。新聞やインターネットのサイトでは毎日のように新しい噂話が取り上げられ、あちこちで最新のトレードの噂が交わされる。何しろこのインターネットの時代、噂はゴシップとしてあっと言う間に、全米のNBAファンや関係者の間に広がっていく。
 噂好きなのはNBA選手も例外ではない。もちろん、トレードの噂で自分の名前を聞いてショックを受ける選手もいる。トレードの噂に慣れていない若手選手に多く、たとえば最近ではクワミ・ブラウンが自分の名前がいくつかのトレードの噂にあげられたのを聞いて、「まるで、このチームからいらないと言われている気分」と落ち込んでいた。
 そんな若手を気の毒に思う声もある一方で、実際のところ当事者でない選手は噂を噂として楽しんでいる。スティーブ・カー(スパーズ)に選手の間での噂の伝わり方を聞いてみた。「たいていは誰かが代理人から噂を聞いてきて、それをチームのみんなに話すんだ。たとえばチームバスなどでよく話題にのぼっている。あと、一般の人と同じように新聞記事などメディアを通じて情報を得ることもある。ピーター・ベッシー(NYポスト紙)が書く記事は、みんなだいたい読んでいる。
 新しい噂を聞くと、そのトレードでどのチームのプラスになるとか、サラリーキャップはどうかとか、誰がプレイタイムをもらうことになるかとか、そんなことを話合ったりもする。でも、たいていの場合は次の日にはその話はもう消えて誰も話さなくなる。噂が現実になることはほとんどないしね。NBA選手はこういう噂を楽しんでいるんだ。ティーンエイジャーの女の子が男の子について話すようなものだよ」
 選手だけではない。コーチもGMも、実は噂好きが多い。「ジョージ・カールなんて、僕の顔を見る度に『なんか新しい話はないかい?』って聞いてくる。コーチたちもメディアから情報を仕入れているんだよ」と、スポーツ・イラストレイティッド誌のマーティ・バーンズ。
 シカゴ・トリビューン誌のサム・スミスは、他のプロスポーツに比べて、NBAは特に「噂」の多いリーグだと言う。「NBAがNFLやMLBと比べておもしろいところは、NBAはひとつの大きなファミリーみたいなものだということだ」とスミス。「選手の人数もそう多いわけではないし、みんなお互いのことをよく知っている。連絡をとり合ったり、スカウトもしあったりしている。それだけお互いになじみがある集団だから、他のスポーツよりゴシップも出てくるんだ。みんな、他のチームのことや選手のことを、ゴシップ的に話すのが好きなんだね」
 では、みんなが話の種にしている「噂」の正体は何なのだろうか?記事によく書かれている「情報源(source)」とは、いったい誰なのだろうか?
 この質問を何人かのNBA記者たちにぶつけてみた。すると驚くことに、そろってほとんどの場合、“情報源”は他のNBA記者」という答えが返ってきた。
 シューヨーク・タイムス紙のマイク・ワイスは言う。「たまに選手から情報を得ることがあるけれど、たいていの場合、噂は他の記者から入ってくる。新しい噂を聞くと、GM、代理人、選手に電話をして、その噂が間違っていることを確認して、何も書かずに終わり、ということが多いね」
 サム・スミスは言う。「“情報源”というのは、もっとも間違った使い方をされていることばだと思う。本来は、情報を提供した人、実情を知っている人の身を守るために使われるようになったはずなのに、あまりに乱用されるようになってきた」それでは、“情報源”の記者は、いったいどこから情報を得ているのだろうか。このあたりになると、かなり曖昧になってくる。
 時にはGM、選手、代理人が情報を提供してくることもある。トレードの当事者であるGMが情報を流すことは稀だが、第三者にあたるGMが情報を流すことはある。例えば、夏にソニックスがゲイリー・ペイトンをトレードに出すかどうかを考えていたときに、いくつかのチームに電話をかけ、ペイトンに興味があるかどうか、興味があるなら代わりに誰を出すつもりがあるかを問い合わせていたのだが、「興味がない」と断ったチームのGMなら、知り合いの記者に「ソニックスはゲイリー・ペイトンをトレードに出すかもしれない」という情報を話すかもしれない。
 気をつけなくてはいけないのは、時には、関係者がわざとまちがった情報を流すこともあるということだ。例えば、トレードに出したい選手の価値を上げるため、まるで複数のチームから引き合いがあったようなガゼ情報を流すことで有名なGMもいる。あるいは、代理人が自分の顧客である選手の価値を上げるために噂を流すこともある。「あるとき、ビル・ストリックランド(代理人)が、彼の顧客のリック・フォックスがニックスと契約すると言ってきたことがあった。調べたらそんな話はなかった。どうやら、ビルはレイカーズのオファーを引き上げるためにニューヨークの新聞を利用しようとしただけだったんだ」とワイス。
 それだけに、情報を入手したら信憑性を確認する必要があるのだが、最近のインターネット情報時代では、他を出し抜いてスクープ記事を出すために、その情報確認の部分が犠牲になっているケースも多い。
 また、情報が独り歩きしてしまうこともよくある。例えば、サム・スミスはシカゴ・トリビューン紙の彼のコラムで、地元ブルズの再建の手助けとしてよくトレードを提案している。低迷するチームにフラストレーションを感じるファンのための半分はお楽しみ企画のようなものだ。スミス自身も、「私は実際に選手にサラリーを払う必要はないから気楽に提案できるし、モノポリーのゲームをやっているようなものだね」と言う。それでも、まったくの幻想ではなく、なるべく両チームにとって納得できるような、サラリー的にも釣り合う、現実味のあるトレードを考えているという。
 最初はスミスのトレード提案記事を批判し、嫌がっていたブルズGMジェリー・クラウスも、最近では少しユーモアをもって対処しようと思ったのか、12月、スミスにブルズの名刺をプレゼントした。名刺には「サム・スミス、ジェネラルマネージャー(ただし月曜の朝のみ)」と書かれ、さらに、以前スミスがブルズのオーナー、ジェリー・ラインズドルフに言ったことがあるジョーク、「いいストーリーを事実でダメにしないように」ということばまで添えてあった。
 クラウスから「月曜の朝のGM」の肩書きをもらったスミスは、今も頻繁にトレードの提案をしている。その記事は、きちんと読めば「トレードの噂」ではなく「提案」として書かれていることが明らかなのだがそれでも毎週月曜日の昼には、どこかのスポーツ専門ラジオ局のトーク番組でトレードの噂として語られ、噂を集めた、インターネットサイトで可能性があるトレードの話として提示され、翌日の全米の新聞で「ブルズがA選手をトレードに出そうとしている」という情報になっている。情報となる記事をきちんと読まずに、二次情報として流す人がいかに多いかということを物語っている。
 この例は、まだ大本のスミスのコラムを読めば、情報が情報ではないことがわかるのだが、もっとたちが悪いのが確認のしようのないトレードの噂だ。例えば記者があるGMに「AチームとBチーム間にトレードの噂が出てますけれど、その話を聞いたことがありますか?」と聞いたとする。すると、GMは目を通したばかりの新聞記事の抜粋にそのトレードの噂があったのを思い出し、「ああ、それなら聞いたことがあるよ」と答える。これだけで、その噂は某チームのGMも認めた」とお墨付きのトレード話になってしまうのだ。これは珍しいことではなく、頻繁に起こっていることだ。噂のリサイクルである。その一方で、噂だからといって侮れないこともある。これなで、噂が広がったことが原因でつぶれたトレードがいくつもあるのだ。例えば、94年のドラフト直前、シアトル・スーパーソニックスとシカゴ・ブルズは、ショーン・ケンプとスコッティー・ピペン、そしてお互いのドラフト氏名権のトレードを話し合っていた。ところが、ドラフト当日にそのトレードの噂が流れると、シアトルのスポーツ専門ラジオ局にはトレードに反対するソニックス・ファンの電話が殺到した。あまりに多くのファンが反対の声を上げるのに驚いたソニックスはファンの声を応えるようにトレードから手を引いた。この半年後にジョーダンが現役復帰。96年にはソニックスとブルズがそれぞれファイナルに出たことを考えると、両者にとってトレード不成立は正解だったのだろう。それにしても、いったい、新聞などに掲載されているトレードの噂のうち、どのくらいが事実に基づいているのだろうか。「シャックが目隠しをしてフリースローをするよりも低い確率だね」とバーンズ。
 実際、どんなに信頼できる情報源を持っている記者でも、噂の半分は空振りに終わる。それぞれ、複数の情報源に確認を取るとか、過去に一度でも嘘をつかれた人の情報は使わないとか、記者によって防衛策はいろいろだ。それだけ確率の弱いことに紙面や時間を費やすのは無駄だと考える記者もいる。とはいえ、これだけ噂が日常的になってしまうと、まったく取り上げないわけにもいかないというのが現実のようだ。


Posted by Yoko Miyaji at 21:30  HOOP SCOOP