2005.10.21

アメリカ代表チームの連勝記録は58でストップ。【HOOP2002年11月号掲載】

>>アメリカの復権以上に気になるNBAとFIBAの方向転換。

インディアナポリスで行われていた世界選手権でアメリカが負け、NBA選手によるアメリカ代表チームの連勝記録がついに58で止まった。92年のバルセロナ五輪からちょうど10年。さすがに感慨深いものがある。
 実際に現地で試合を見て感じたのは、世界のバスケットボールのレベルがかなり上がってきていることだった。(レベルが上がってきている「世界」からアジアは取り残されている感もあって残念なのだが、その話はまた別の機会に。)今回アメリカを倒し、決勝を戦ったアルゼンチン、ユーゴスラビアといったチームはそのままチームとしてNBAに加わっても十分にプレイオフに出られるくらいの強豪チームだ。選手の運動能力もかなり高いし、前は弱点と言われていたディフェンスもかなり向上している。そう考えると、アメリカが負けたこと自体は、特に驚きでも何でもなかった。今回の世界選手権で負けていなくても、近いうち、2年後のアテネ・オリンピックか、4年後に日本で行われる世界選手権で連勝記録は止まっていただろう。
 アメリカが負けた理由はいくつかある。今回、この原稿を書く前に、2年前のシドニー五輪の後に米代表チームについて書いた拙文(2000年12月号HOOP SCOOP「USAチームはなぜ苦戦を強いられたのか」)を読み返してみて、2年前に感じたことが、今回にもそのままそっくり当てはまることに驚いた。2年前に書いたことを簡単に要約すると、アメリカチームに欠けていたのはやる気や真剣さではなく、国際試合に対する準備だった、といった内容だった。
 今回も、まったくそのままの事を感じた。
ただし、ここでいう「やる気、真剣さ」とは、練習や試合中での「やる気、真剣さ」であり、もう少し大きなくくりの準備という点では真剣さが欠けていたと思う。
 そう思う一番の理由は、練習期間の短さだ。今回のアメリカチームが練習を始めたのは、8月16日、大会が始まるわずか13日前だった。この13日の間に、2時間余の練習を10回(オークランドで6回、ポートランドで2回、インディアナポリスで2回)、中国とドイツ相手のエキジビションゲームをそれぞれ1試合ずつ行い、それだけの準備で世界選手権に臨んだ。どんなに実力がある選手を集めても、ゲームを入れてわずか12回の練習だけでまともなチームを作るのは無理というもの。まして、今回はNBAのトップ選手たちが個人的な理由や故障によって次々と辞退し、経験年数の浅い若手が中心のチーム構成だったのだからなおさらだ。
 ちなみに、2年前のシドニー五輪のときは初戦の3週間前から練習、エキジビションゲームだけでも5試合(ハワイで2試合、埼玉で2試合、メルボルンで1試合)をしていたが、それでも国際試合に適応しきれずに苦戦していたのだ。
 確かに、今回は自国内での大会だったために、時差調整の時間は必要なかったということもあるのだろう。それにしても、これまででいちばん練習期間が短いというのは驚きだ。
NBA関係者に聞いた話では、選手たちからトレーニング期間が長すぎるという苦情が多かったために、今回はいつもより練習期間を短くしたらしい。そういう話を聞くと、練習の内容そのものは真剣でも、スケジュールを組んだ段階で相手を甘く見ていたとしか思えず、今回のアメリカは負けるべくして負けたのだと思えてならない。
 他の国はというと、だいたいどこも1か月以上前から世界選手権に備えた練習をしていた。例えば、ドイツは7月19日からトレーニングキャンプに入ったというし、アルゼンチンも7月20日から練習をしていた。これらの国ではほとんどの選手が、代表メンバーとして何年も一緒に練習をしているのだが、それでも1ヶ月以上の練習期間をおいているのだ。寄せ集めチームのうえに、練習期間もいちばん少ないとあっては、アメリカが苦戦するのも当然だ。実際、ディフェンスのコミュニケーションが決定的に欠けていたアメリカは、アルゼンチンやユーゴスラビアのスクリーン・プレイやバックドアカット・プレイに何度もやられていた(アルゼンチンのジノビリいわく「アメリカはチームディフェンスを全くしていなかった」)。アメリカにとって、能力で準備不足を捕らえる時代は終わったのだ。
 さすがに、今回の敗退でアメリカの選手も関係者も練習不足を身にしみて感じたようで、改善策として多くの人が練習期間を長くすることを口にしていた。
 今回のメンバーの一人、アントニオ・デイビスも「これからは、代表となる選手たちに大会前4週間、場合によっては6週間の日数をくれるように頼まないといけないかもしれない。簡単なことではないが、毎年、選手のレベルも競争のレベルも上がってきているのだから、僕らももっと準備する必要がある」と言った。USAバスケットボール協会長のトム・ジャーンステッドも「もっと練習時間が必要なことは確かだ」と認め、NBAコミッショナーのデビッド・スターンも「選手たちに国のための参加を求めるときにもっと準備が必要なのだということを説得する必要がある」と言う。
 と、ここまでいろいろ書いたが、アメリカがどうやって代表チームを立て直すのか、それは率直に言ってアメリカの問題だ。私も傍観者として興味はあるものの、外国人が口出しすることではないとも思っている。それ以上に気になるのは、その立て直し策がNBAにどう影響してくるかということだ。
 例えば、アメリカチームの練習期間が1か月になったとする。これに大会期間を加えると1か月半の拘束だ。メンバーの中に6月のNBAファイナルまで戦っていた選手がいたら、その選手にとって3か月余りしかない夏のオフは半分になってしまう。
夏の間に休まるべき身体は休まらず、治すべき小さな故障もそのまま治る時間もない。
 アメリカ敗退直後だけに、今は代表チームに参加しなかったシャキール・オニールや、コービ・ブライアントを批判する声も多いが、もし二人が代表チームに出たとして、例えばブライアントが次シーズンの序盤に出られなくなったり、プレイオフ直前にオニールの足が悪化したりしたら、レイカーズ・ファンはどう思うだろうか?
 もっと現実的な例をあげると、ブラディー・ディバッツ、プレドラグ・ストヤコビッチ(ユーゴスラビア)、ヒディヤット・ターコグル(トルコ)と、主力3選手がそれぞれの国の代表として夏の間休みなしにプレイしていたサクラメント・キングスだが、来年春になって故障や疲労で誰かが戦列を離れることになり、そのためにまたもや打倒レイカーズを達成できなかったら、そのときにファンはどう思うのだろうか。
 よくNBAのシーズンへの準備を優先し、国の代表チームに参加しない選手に対して「名誉より金が大事」と言った批判をする人がいるが、よく考えたらプロとして当然のことではないだろうか。契約金をもらっているNBAでの試合は仕事だ。名誉を選んだために本職のほうがおろそかになるのは、お金を払ってNBAの試合を見に来るファンに失礼ではないのだろうか。
 夏の間はどうせ毎日ピックアップゲームをしているのだから、とか、一試合25分くらいの出場時間ならNBAの試合ほど疲れないだろうという意見もあるが、実際のところ、世界選手権は11日間で9試合と、かなり過酷なスケジュールだ。NBAも決して楽なスケジュールではないが、それでも2日連続で試合をしたあとには必ず1日オフが入る。選手たちはだいたい、そのリズムで身体が慣れているだけに、大会後半にはかなり身体に疲れがたまっていたという。トーナメントの終盤になって故障が増えたのも、この過酷なスケジュールにも一因があるのではないかと思う(このスケジュールに関してはFIBAでも再検討が必要としており、将来的にはどの国も2日以上連続で試合をしなくてもいいように試合予定組むつもりだという)。今回、アメリカ代表チームに参加していた選手たちも、表向きには口にしないものの、うちわでは世界選手権に出たことでシーズンが始まってから影響が出るのではないかと心配している者も多かったという話も聞いた。
 もちろん私とて、国際大会でもなるべく高いレベルの試合が見たいし、どの国も最高の選手を集めたチームであってほしいという思いはある。その一方で、NBAで試合に行くたびに、チームのスター選手が故障で欠場しているような状況は見たくない。
 これは、すでにアメリカだけの問題ではない。むしろ、選手層がアメリカほど厚くないほかの国のほうが、トップ選手にかかる期待や負担は大きい。このところ、毎年のように夏になると代表チームでプレイしていたカナダのスティーブ・ナッシュも、ことしは疲労を理由に代表チームを降りた。また、フランスのトニー・パーカーとスパーズの契約では、代表チームへの参加を制限していると聞く。大会前に問題になった保険の問題もある。
 各国とプロリーグと国際大会の関係は、どのスポーツでも頭を悩ませるところだ。NBAとFIBAは、お互いに協力することで共存、ともに成長する道を選んできた。両者はこの問題をどう考え、どう方向転換していくのか、アメリカの復権以上に気になる。


Posted by Yoko Miyaji at 14:18  HOOP SCOOP