2005.06.07

リーグの陰謀節。あるのか、ないの・・・?【HOOP2002年8月号掲載】

>>不公平なジャッジ、結果操作による八百長、不正なドラフト・ロッタリーはありえない

 キングス対レイカーズのウエスタン・カンファレンス・ファイナルは、この数年のNBAプレイオフでいちばんというくらい見応えのあるシリーズだった。
 レギュラーシーズン中に、レイカーズの選手たちにライバルチームについて取材したのだが、そのときのレイカーズの反応はといえば自信たっぷり、余裕しゃくしゃく。過激発言の王者、リック・フォックスはもちろんのこと、温厚で理知派のデレク・フィッシャーでさえ「ほかのチームから、レイカーズに近づいたとか、レイカーズのライバルだと言われても僕らはあまりピンとこないんだ。プレイオフで戦って負かされたようなチームでないかぎりライバルとは呼べないんじゃないだろうか」などと言っていたのだ。実際、傍観者としても似たような印象を持っていたので、納得のコメントではあったのだが。
 しかしキングスは、こちらが期待していた以上のチームであることをこのプレイオフで証明してくれた。わずかに及ばなかったとは言うものの、レイカーズをまさに壁際まで追い詰めたことで、ようやくレイカーズにとって本物のライバルになったと言っていいのではないだろうか。別にアンチ・レイカーズというわけではないが、やはり王者には強力なライバルがいたほうが見ていておもしろい。キングスに追い詰められたことで、去年以上にレイカーズの魅力が引き出されたと感じたのは私だけだろうか。
 さて、ここからが今月の本題なのだが、ライバル関係が白熱すればするほど、必ずといっていいほど出てくる話題がある。リーグの陰謀説だ。つまり、リーグが審判に圧力をかけ、何らかの意図をもって試合結果を操作しているのではないかという声だ。そういえば、ブルズとニックスがプレイオフで毎年熱戦を繰り広げていたころも、シカゴには「ニューヨークに本部があるNBAは、地元のニックスを勝たせようとしている」と真剣に思っていた人たちがいたし、逆にニックスファンの中には「マイケル・ジョーダンという人気選手がいるブルズはいつも有利な笛を吹いてもらっている」と信じている人たちがいた。
 最初に書いておくと、NBAの試合においてリーグや審判による意図的な陰謀、結果操作が行われているとは思わない、どう考えてもありえないというのが私の意見だ。周りの記者たちの意見を聞いても、現場で取材しているなかでそのことを本気で信じている人はほとんど皆無と言っていいと思う。
 もちろん審判も人間なのだから、当然判定まちがいはあるだろう。むしろ、あれだけの速い動きのなか、しかも同時にいくつものことが起こるなかで、瞬時に判定を下すのは容易なことではないし、試合を通して誤判定がゼロということはありえないとすら思う。実際に、このプレイオフの間にブザービーターのシュートがタイムアップ前だったかあとだったかでまちがった判定があったことはNBAも認めていて、これが来シーズンからのインスタント・リプレイ導入のきっかけとなっている。
(インスタント・リプレイ導入を明らかにした記者会見で、NBA副コミッショナーのラス・グラニックは「10分の1秒といった判定になると、人間が正しく肉眼で判定できるものではない」と言い、審判の限界を認めた。グラニックによると、レイカーズ対キングスの第4戦前半終了時にサマキ・ウォーカーが放ち、カウントされた3Pシュートの場合でいえば、ブザーより100分の7秒ボールが手から離れるのが遅かっただけだったという。
 ちなみに、インスタント・リプレイ導入に関しては、7月のオーナー会議で正式に導入が決定される見込み。各クォーターとオーバータイム終了時のシュートが間に合ったかどうかの判定をするために使われ、試合途中のファウルやバイオレーションを覆す目的では使われない)
 もちろん、審判もただ試合で吹きっぱなしというわけではない。毎試合後には試合ビデオを見ての反省会を行い、正しい判定だったのかどうかの話し合いをしているのだ。さらに反省会をもとにリーグの審判部長にレポートを提出し、その中でも問題となりそうな判定は、審判部長からリーグの全審判にEメールで映像が送られ、個々の審判がその判定について意見を送るという、勉強会のようなこともシーズン中に同時進行し、審判の質の向上に努めている。
 とはいえ、NBAにとっては「陰謀はない」と開き直りさえすればいいことでもない。プロスポーツにとって、どんなことよりも不正、八百長のイメージが与えるダメージは大きい。事実はどうあれ、陰謀が行われているのではないかという意見が世間に出回り、それを信じる人が増えるということは、それはそれで大問題なのだ。
 そのことを聞かれたNBAコミッショナーのデビッド・スターンも、深刻な問題ではないとしながらも、「確かにそういう評判が築かれることは気がかりだ」と認めている。その対処として、例えばコーチがフラストレーションから八百長を示唆するような発言をすることをさらに厳しく取り締まることも考えていると口にしたが、自由な発言を許さない雰囲気は逆効果とも思い直したのか、数日後に同じことを聞かれたときには「コーチたちからの意見をもう少し聞いてから決めたい」と慎重な姿勢を見せた。
 そういえば、審判以外の面でだが、NBAは最近「陰謀」の評判に対していくつかの対策を試みている。その一つが、シーズンの各賞投票。これまでは記者たちからの投票をリーグで取りまとめていたのだが、2年前にエルトン・ブランドとスティーブ・フランシスが同数票で新人王同時受賞した際にリーグの操作を疑う声が出たこともあり、今シーズンからは票の取り扱いは外部の信頼できる団体に委託するようになった(そのために投票の締め切りが数日早くなり、シーズン終了前に投票しなくてはいけないという弊害は出たが)。
 もう一つ、同じく不正がないことを証明しようとしたのがドラフト・ロッタリーだ。これまでドラフト・ロッタリーの抽選はメディアに一切公開されず、裏の部屋で行われていた(参加チームから一人ずつ証人となる人間が同席)のだが、ことしのドラフトを前に、中国人選手、ヤオ・ミンにご執心なニックスが1位を引き当てるにちがいないという冗談半分の裏工作予想が流れたからか、スポーツ・イラストレイティッド誌記者をはじめ、数名の報道陣を初めて抽選の会場に招き入れた。結局、ニックスは上位3位を引き当てることもなかったし、抽選自体は記事として取り上げるにはあまりに退屈で平坦なイベントだったため、スポーツ・イラストレイティッド誌でもほんの短い記事として取り上げられただけだったのだが。
 審判の判定に関しても、ファイナル中に行われたコミッショナーとPBWA(NBA担当記者の団体)との話し合いの中で興味深い進展があった。記者たちの中から、毎日試合を見ている記者にとっても審判の判定基準がわかりにくいところがあるという意見が出たのだが、これに対して、シーズン前に審判が選手たちに対して判定の説明会を行うのと同じように、記者に対しての説明会を行ったらどうかという提案があり、スターンも「それはいい考えだ。前向きに考えよう」と賛同したのだ。
 確かに不正や陰謀というのは、情報が不足しているときに出てくる疑惑だ。そういった意味では、発言を取り締まるより、こういった情報公開を進めるほうがより効果的だろう。このことがどういった影響をもたらすかは実際にやってみないとわからないが、少なくとも、こうして情報公開をしようというリーグの姿勢は高く評価できる。こういった一連の動きを見て、やはりNBAで陰謀などあり得ないという思いを強くしたのだった。


Posted by Yoko Miyaji at 20:31  HOOP SCOOP