2005.06.07

国際色豊かなオールスターにて【HOOP2002年4月号掲載】

>>スターンコミッショナーの考える海外エクスパンションとは…?

 ことしのNBAオールスターはアメリカ国外の出場選手が増え、国際色豊かなゲームとして注目されたが、国際的だったのはコートの上で行われたイベントやゲームだけではなかった。オールスター・ウィークエンド中に行われた恒例の記者会見で、NBAコミッショナーのデビッド・スターンは今後のNBAの国際展開に関して、近年にないほど積極的な姿勢を見せたのだった。
(話の本筋から少し離れるが、スターンは副コミッショナーのラス・グラニックとともに、毎年オールスター・ウィークエンド中とファイナル中には現地で記者会見を開くほか、シーズン開始時や、そのほか必要と思われるときにも電話による記者会見を行う。時間は毎回最低30分間。時間に余裕があるときは記者会見後も残ってさらに細かな質問に答え、全部で1時間近くにわたることもある。記者たちから出る質問のトピックはかなり多岐にわたるのだが、もちろん、あらかじめ質問を提出するわけでもなく、すべてその場で質問を聞いて、その場で答えが返ってくる。数字や事実関係がすべて頭に入っているのはコミッショナーとして当然としても、受け答えも流暢でことばに詰まることもなく、これにはいつも、さすが世界のトップリーグのコミッショナーだと感心させられている。アメリカのNBA記者たちが、細かい政策はともかく、概してスターンに対して好意的でいる理由の一つは、こうして常にオープンな姿勢に好感を持っているからということもある)
 今回のオールスターでのコミッショナー記者会見は、8日(土)のルーキーゲームとほかのオールスター・サタデーのイベントとの合間に行われた。その場で、スターンは「2010年になるころまでにNBAが海外でより大きな存在となっている可能性は高いと思います」と言ったのだった。つまり、この10年間をめどに、積極的に海外に出ていくつもりだという非公式な宣言だ。
 ただ海外に出ていくといってもいろいろな道があるのだが、具体的に、コミッショナーがあげた海外進出の計画は大きく3つに分けることができる。
(1)海外でのゲームやイベントの開催
(2)海外にフランチャイズ(チーム)を増設
(3)海外にNBA後援のリーグを設立
 このうち、(1)はすでに毎年世界各地で行っているエキジビションゲーム(ジャパンゲームを含む)のほか、例えばことしから始まったNBDL(NBA直属の養成リーグ)のシーズンを1週間あけて、その期間にチームごと海外遠征、海外のチームと対戦させるといったことも考えているという。この計画は、「シーズン途中に」というところがミソで、NBAチームではなく、マイナーリーグのチームとはいえ、調整中のプレシーズンではなく、コンディショニングが整った状態のチームを送り込もうというわけだ。
 (2)と(3)については、まだ具体的な計画の段階には達していないとの前置きのうえで、かなり前向きなコメントが聞かれた。
 まず、(2)のチーム増設について。
 「海外にフランチャイズを設立するとすれば、現実的に移動の面を考えると、場所はメキシコかヨーロッパになると思います」とスターンは言った。
 「また、その場合は1チームだけを増やすというよりは複数のフランチャイズを設立することになるでしょう」
 ここでカナダが入っていない理由については、特にスターンも触れなかったが、バンクーバーのフランチャイズが失敗に終わり、移転先を探したときにカナダ国内の都市は候補にすらあがらなかったことからも明らかだろう。
 日本人にとってさらに気になるのはこの先、(3)のNBA後援リーグの設立の話だ。
 「NBA後援のリーグの場合は、アジア、ラテン・アメリカ、ヨーロッパなど、どの地域になる可能性もあります」とスターンは言う。
 「実際、今すでに存在する海外リーグからNBAの名前がついたリーグになることを支援してほしいと要請されたこともあります。あるいは、ある特定のチームから、私たちNBAのオーナー・グループといっしょになってNBAの名がついたリーグを一から作らないかというリクエストも受けたことがあります。正直なところ、まだどの方法をとるかという選択はしていませんが」
 さらに、この計画が実現するのがいつごろになりそうかという質問を受けて、スターンはこう言った。
 「そうですね、きちんとした計画を立てるのにあと3年か4年ください。市場の状況を予想し、全世界の危機(テロなど)や通貨などを考えなくてはいけませんから。世界で起きた出来事を考えると、いろいろと慎重に進める必要があると思います」
 それにしても、95年にカナダに進出(トロント・ラプターズと、今はメンフィスに移動した元バンクーバー・グリズリーズ)して以来つい1年前までの、新リーグ設立に関しても海外へのチーム拡大に関してもどちらかというと慎重な態度をとっていたNBAが、なぜ今になって急に前向きな姿勢を打ち出してきたのだろうか。
 スターンは言う。
 「海外への拡大を考えた場合、いちばんの障害と思っているのがアリーナの問題なのです。海外ではアメリカにあるようなレベルのアリーナがほとんど使える状態にないのです。ただ、最近になって新しい一流のサッカースタジアムを造るのと同時に、新しいアリーナがいくつか造られるという計画を聞くようになりました。
 もう一つは、アメリカ国外の主要メディア会社が、スポーツの権利の価値に重きをおくようになったことです。アメリカ国内でもタイムワーナーがチームを持ち、コムキャストやケーブルビジョンがそれぞれチームを所有し、チャーター・コミュニケーションのポール・アレンもチームを所有している。同じようにヨーロッパのメディア会社が、ヨーロッパばかりでなく世界のチーム運営に興味を示し始めています。そのことで、最終的にはいろいろと興味深い機会がいろいろと生まれるのではないかと期待しています」
 記者会見では、スターンは進出する先に関してはヨーロッパ中心の受け答えをしていたのだが、新チームはともかく、新リーグ設立に関してもヨーロッパが最優先なのだろうか。記者会見後に、スターンにその質問をぶつけてみた。
 「そういうわけではありません。NBAスポンサーのリーグを考えたときには、実はアジアのほうが(ヨーロッパより)ずっといい建物を持っているんですよ。(おととしの)夏にはアンバサダーというNBAチームがすでにアジアバスケットボールとの試合をしていますし。日本の建物、そしてこれからオリンピックでさらに建てられるであろう中国の建物もあります。また、NBAにすぐに入るかどうかは別にしても、ことしヤオ・ミンがドラフト指名されれば、中国国内でのNBAに対する興味はさらに大きくなってくることでしょう。
 中国では今オリンピックに向けての強化をして、力を入れてメダルをねらってきています。栄養やスポーツ・トレーニング、スポーツ・メディシン、コーチング・クリニック、マーケティングなどといった面では私たちは技術を持っていますし、そういった面での協力に関して前向きな話し合いもできると思います」
 折りしもこのところ日本では実業団チームの休部・廃部が相次いでおり、最近もスーパーリーグのボッシュ、そしていすゞ自動車が立て続けに今シーズン限りでの休部を発表、一企業がチームが支える実業団リーグの限界が叫ばれている。
 もちろん、だからといってスーパーリーグをそのままNBAアジア・リーグにしようなどと安易な提案をするつもりはない。現実的なところを考えると、もしアジアにNBAの名前がついたリーグができるとしたら、日本だけでなく、日本とアジア数か国にそれぞれ数チームずつを設立するという形式がいちばん理想的だろう。それでも、それがどんな形にしても、運営、宣伝などのノウハウを持つNBAがアジア地区に参入することは、アジアのバスケットボール界の刺激になるはずだ。少なくとも、プロリーグ、プロチーム、プロ選手がどんなものかという認識が浸透するということは、長い目で見て決して悪いことではないと思う。


Posted by Yoko Miyaji at 20:23  HOOP SCOOP