2005.06.07
ガーネット史上最高額の契約は適当か否か・・・【HOOP2002年10月号掲載】
>>ガーネットの高給、ラグジャリータックス、ドラフト権剥奪…ウルブズの抱える悩み
去年9月のアメリカ・テロ事件の影響なのか、ことしの夏はNBA選手の来日が少ない。そんななか、8月18~21日にケビン・ガーネットがジャパン・エナジーのクリニックのために来日する(この号が出るころにはすでにクリニックは終わり、ガーネットも日本を発ったあとだが、締め切りの関係でこれを書いているのはガーネット来日前なのだ)。ガーネットが前回来日したのは1999年で、ジャパンゲームの宣伝と本番で2度続けて来日したが、そのときにガーネットを説明することばとして枕詞のようについてまわったのが「プロ史上最高額の契約」ということばだった。
あれから3年、ガーネットとミネソタ・ティンバーウルブズがその契約延長の合意に達してからはすでに5年の月日がたったが、ガーネットの契約(6年間1億2600万ドル、約160億800万円)は相変わらず史上最高額のままだ。これは1999年に成立した現在の労使協定で契約の最高額が定められたためで、労使協定が変わるか、NBAの収益が劇的に増えることで個々の選手の契約最高額が増えないかぎり、この先もガーネットの契約が「史上最高」であり続ける。
そのガーネットの契約に関連して、最近アメリカで話題になったテレビCMがある。シューズメーカー、AND1のCMで、ガーネットが好きだという映画『スカーフェイス』(オリバー・ストーン脚本、アル・パチーノ主演)の中の取り締まり場面を模したもの。ガーネット自身が尋問者と尋問を受ける側の二役を演じている。自分の中の内なる葛藤や疑問にガーネット自身が答えるという設定らしい。その中には、収録後の編集ではカットされてCMでは見られないが、こんな場面もあったという。
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尋問者KG「KGはオーバーペイド(サラリーをもらいすぎ)ではないか?」
被尋問者KG「とんでもない。それどころか、やっていることすべてを考えるとアンダーペイドな(サラリーが足りない)くらいだ。ばかげた質問をするな。このチームのために俺は全部やらなくてはいけないんだぜ」
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CMのための演技、誇張が入っているとはいえ、いつもガーネットがインタビューで発することばよりずっと激しく、間接的ながらチームメイトやチームに対する批判にも聞こえる。このCM収録での被尋問者ガーネットのコメントはすべてその場でのアドリブだったそうで、ガーネットも、収録を取材していたESPNマガジンの記者に「今のは全部自分の本音だ」と語ったという。後日、このCMが話題になったときには「あれは全部ハリウッド(演技)」と言って、コメントの軌道修正もしているが、少なくとも彼の本音の一面であることは想像に難くない。
ガーネットがオーバーペイドかどうかというのはファンの間でも時々交わされる論議だ。現在のガーネットの契約は1997年10月に前の契約の延長として合意に至ったもので6年間1億2600万ドル。昨季(2001‐2002)のサラリー、2240万ドル(約26億8800万円)もリーグ最高額だった。2位はシャキール・オニール(2143万ドル、約25億7200万円)で、リーグの中でも2000万ドルを超えたサラリーだったのはこの二人だけだった。
この二人を比べると、得点でオニール
(27.2得点)がガーネット(21.2得点)を上回るが、その代わりにリバウンドとアシストではガーネット(12.1リバウンド、 5.2アシスト)がオニール(10.7リバウンド、 3.0アシスト)を上回る。二人ともNBAオールスターでオールNBAファーストチーム。個々の成績で大きな差はないように思うのだが、一つ、大きく違うことがある。オニール率いるレイカーズが3年連続優勝を達成したのに対し、ガーネット率いるティンバーウルブズはまだ一度プレイオフも1回戦を突破していないのだ。この差が、オニールに対してはほとんど聞かれなくなったオーバーペイドとの批判がガーネットに向けられる最大の理由だ。
巷でよく聞かれるガーネットへの批判は大きく二つに分けられる。一つはプレイ面、具体的にはプレイオフでのプレイに対する批判だ。よくいえばオールラウンドでアンセルフィッシュな(自分本位ではない)ガーネットのプレイは、例えばアレン・アイバーソンのような、周りの選手がどんなプレイをしていようが、自分の力だけで勝ちを手に入れるといったワンマンさ、強引さに欠けている。数年前まではチームをプレイオフに進出させただけでも評価されていたのだが、この4月に6年連続でプレイオフ1回戦敗退を喫すると、さすがにガーネットも批判の矢面に立たされるようになり、チャールズ・バークリーやマジック・ジョンソンといった元選手たちからも、試合終盤でもっとアグレッシブに攻め気を見せるべきだと批判されていた。
この批判に対しては、もっともだと思う部分もある。確かに、ティンバーウルブズはガーネットがいなければプレイオフ進出も難しいチームだ。そのチームを毎年プレイオフに導いているだけでもガーネットの力は大きい。さらに、アイバーソンのように1対2でも自分で攻めるのはガーネットのプレイスタイルではないとも思う。ただ、プレイオフを戦い抜くにはリーダーがそれくらいの強引さを見せることが必要な場面がある。その強引なプレイは必ずしもシュートである必要はないが、勝負どころではスーパースターに「このプレイで勝負がついた」というワンプレイを見せてほしい。それはファンが求めるものであり、チームメイトたちが求めるものなのだ。そういえば、この批判が出たときに、元ロケッツやサンズでプレイしていたエディー・ジョンソンがUSAトゥデイ紙のインターネット・サイトに「チームメイトから好かれるより、チームメイトから尊敬されることのほうが大事」と書いていたが、そんなワンプレイがチームメイトからの尊敬につながるのだ。
ガーネットに対するもう一つの批判は、契約金の高さに対するものだ。この批判をする人たちの中にも、実はガーネットがリーグでトップクラスの契約金をもらうことに対しては納得できる、あるいはしかたないと思っている人が多い。ガーネットにはそれだけの実力があるし、将来性(NBAではすっかりベテランのガーネットだが、まだ26歳なのだ)、チームへの忠誠心、地元での集客力などを考え合わせると、他の選手で簡単に代えがきくわけではない。
しかし、そう思っている人でも、ティンバーウルブズのチームの事情を考えると、途端にガーネットの高給に批判的になる。プレイオフ1回戦を勝ち抜き、優勝を狙えるチームにするにはかなりの補強が必要なのだが、NBAのサラリーキャップ制、特に1999年に成立した労使協定に盛り込まれたラグジャリータックス制の下ではティンバーウルブズの補強は容易ではない。ガーネットの高給が邪魔になるというわけだ。
ラグジャリータックスとは、簡単に言うとチームのサラリー総額が、ある一定の額を超えたチームが支払わなくてはいけない罰金のようなものである。集められた罰金は、その額を超えていないチームの間で配分されるから、ラグジャリータックスを払うか払わないかによる収支の差はかなり大きく、大半のチームはこのラグジャリータックスの基準値を実質のハードキャップ(絶対超えることができない上限)と考えている。例えば、来季は5100~5400万ドル(約61億2000万~64億8000万円)がラグジャリータックスの線になると言われているのだが、ティンバーウルブズの場合、そのうちガーネットだけで2500万ドル(約30億円)以上を占めているわけで、ラグジャリータックスを支払わないで済ませるためには残り2600~2900万ドル(約31億2000万~34億8000万円)を残り11~14選手で分け合わなくてはいけないという計算になる。これは確かに簡単なことではない。
ここで一つはっきりさせておきたいのは、現在の労使協定では、あらかじめオプションとして設定されていないかぎり、いったん交わされた契約の額を途中で変更することはできない決まりになっている。だから、たとえガーネットが望んだとしても、ガーネットの契約が切れる2003‐2004シーズンまでは減俸という選択肢はない。つまり、今の段階で減俸を受け入れないという理由でガーネットを批判するのは筋違いというわけだ。
それでは、サラリーをあまりかけずに補強するにはどうしたらいいのか。いちばん効果的なのはプロ入り4年以内の、比較的サラリーが安い選手による補強である。ところが、ティンバーウルブズは労使協定違反(ジョー・スミス契約)でドラフト指名権剥奪(2001、2002、2004)を受けていて、去年、ことしと1巡目ドラフト指名権がなかった。補強を考えたうえでかなりの痛手だ。もう一つは、FA選手に「額は安くてもこのチームでプレイしたい」と思われるようなチームを作ること。これに関しては、ミネソタという土地がマイナス要素になるかもしれないが、ガーネットといっしょのチームでプレイしたいと思う選手はけっこう多く、彼の存在が大きい。
もう一つ別の考え方もある。ラグジャリータックスを払うという考え方だ。実はティンバーウルブズのオーナー、グレン・テイラー氏はNBAに9人いる億万長者オーナーの一人という資産家。ガーネットの現在の契約が切れる2004年夏までの2年間だけでもラグジャリータックスを払う余裕はあるはずだ。
この夏、ガーネットとティンバーウルブズは契約延長の話し合いを始めた。労使協定によって許されている最高額は今の契約最終年のサラリー×105%+毎年の昇給。これを基に計算すると、最高4年延長1億3900万ドル(約166億8000万円)の契約ということになるのだが、実際にはティンバーウルブズは4年で7500万ドル(約90億円)のオファーを出していると伝えられている。
「話し合いは順調」(テイラー)という楽観的なコメントも聞かれており、ガーネットが新契約で減俸を受け入れる可能性は十分にある。このガーネットとの契約延長を円滑に進めるためにも、今からチーム側が本気で補強に取り組む姿勢を見せることは悪いことではない。ここはティンバーウルブズにとっての勝負どころ。オーナーの「積極的なプレイ」がチーム好転のきっかけになるかもしれない。





