2005.06.07
わずか1年余りで、“最悪”から“将来楽しみ”へ【HOOP2002年9月号掲載】
>>スポーツ史上最悪のフランチャイズと言われたクリッパーズが、180度の方向転換を見せた
レイカーズの3連覇と、また同じ結末に終わったシーズンだったが、今シーズン、大きく変化したものもある。もう一つのLAチーム、クリッパーズだ。去年のドラフト当日トレードでエルトン・ブランドを獲得、これが大成功。シーズン最後で息切れし、あと一歩でプレイオフの座を逃したとはいうものの、若くて才能あふれるチームは魅力にあふれていた。そう感じた人たちは多かったようで、ホームゲーム観客動員数も2000‐2001シーズンは一試合平均1万4621人だったのが、昨シーズンは平均1万8053人と、20%以上の大幅アップ。熱烈なファンも増えて、「スポーツ史上最悪のフランチャイズ」と言われていたのがすっかり過去のことになったシーズンだった。
実は、この「スポーツ史上最悪のフランチャイズ」というのは、かつてスポーツ・イラストレイティッド誌がクリッパーズを特集した号の表紙に掲げた見出しだった。表紙に使われた写真は頭から紙袋を被ったクリッパーズ・ファン3人。顔を見せるのが恥ずかしいくらい弱いチームという洒落で、アメリカ弱小チームのスタンドでは時々見られる光景だ。この号が発売になったのは2000年4月。つまり、わずか1年余りで「最悪」から「将来が楽しみ」と、クリッパーズは180度の方向転換を見せたということになる。
しかし、低迷期のクリッパーズを長く見てきたなかには、ほんとうにこの先、強豪の仲間入りできるのか懐疑的な人たちも多い。懐疑的になる理由はチームのオーナー、ドナルド・スターリンだ。先のスポーツ・イラストレイティッド誌にも
「最悪」である責任者としてスターリンのことが詳しく描かれている。不動産で財を成したスターリンだが、記事によると彼の不動産取引は、安く値段が落ちているときに買い、見た目をきれいにして価値を上げる。そのあとが彼のユニークなところなのかもしれないが、値段が上がったところで転売するのではなく、そのまま半永久的に手放さないのだ。何でも自分の手もとに置いておきたいというわけだ。ただし、余分な金がかからないのなら、という条件が付くが。
これは、彼のクリッパーズ経営にも共通するところがある。スターリンは1981年に財政破綻寸前だったクリッパーズを1270万ドル(約15億円)で買った。NBAの成長期だったこともあってチームの価値は順調に上がり、フォーブス誌によると現在の価値は1億7000万ドル(約200億円)、10倍以上だ。といっても、スターリンはチームを売るつもりはまったくない。実際、これまでにも何度となくチーム買収のオファーを断っていて、例えばナッシュビルの投資家からのオファーは2億ドル(約236億円)だったと言われている。
選手も、なるべく安く契約し、再契約の際に高い契約金を求める選手はチームを去ることもやむなし、というのが彼の姿勢。「ほんとうのスーパースターだけにスーパースターの契約を」という信念は理想としては一理あるのだが、現在のNBA経済のなかでこれにこだわると競争力のあるチームは作れない。それでもいい、というのがスターリンの姿勢なのだ。選手サラリーを抑えれば、観客動員数が少なくても黒字経営をすることはできる。実際、例えば2000‐01シーズンには選手サラリーをリーグ最低の額(約3000万ドル弱=約35億4000万円)に抑え、リーグ7番目に多い1150万ドル(約13億5700万円)の経営利益(フォーブス誌)をあげている。
サラリー総額の低さは実は2001‐02シーズンも変わっていない。それなのに180度の転換ができたのは、1999年からの新しい労使協定のおかげだった。新労使協定では1巡目ドラフト指名された新人は3年+1年(チーム・オプション)の契約を交わすことが決められていて、その額も順位に応じてあらかじめ設定されていて、その額はベテラン選手に比べると抑えられている。つまり、最初のスター選手でも4年間だけはかなりお得に雇えるのだ。では2001‐02シーズンのクリッパーズのロスターはというと、15人中8人がプロ4年以下の1巡目指名選手だ。若手を支えるベテラン陣も安く契約できる選手ばかり。チーム最高の年俸(4660万ドル=約55億円)をもらっていたマイケル・オロウォカンディのサラリーだけはわずかにリーグ平均額を上回っていたものの、残りの選手たちのサラリー(昨シーズン)は全員リーグ平均より少ないのだ。
もちろん、このやり方で安く、いいチームを保つには限界がある。不動産とは違い、選手は活躍すればするほど、契約が切れたあとに高い契約を求めるからだ。これまでお得だった選手たちも、毎年、1人、2人と契約が切れる。その一番手がこの夏のオロウォカンディだ。その後、来年夏のエルトン・ブランド、ラマー・オドム、コーリー・マゲッティー、そしてその次の年にダリウス・マイルス、クェンティン・リチャードソン、キオン・ドゥーリングと続く。
選手の再契約に関連して、最近、興味深い記事がアメリカの新聞と雑誌に掲載になった。1本はスターリンのインタビューで、これは6月末、ドラフト翌日にロサンゼルス・タイムス紙に掲載された。
このインタビューでスターリンはなんと、「今の自分におけるいちばんの目標はラグジャリー・タックスを払うことだ」と断言したのだ。あのケチで有名なスターリンがそれだけの高いサラリーを選手に払い、さらにラグジャリー・タックスも払うつもりがある。それは大ニュースだった。さらに、スターリンはブランドの契約はこの秋、契約延長をオファーできるようになったらすぐに最高額のオファーをするとも言った。ことによると、スターリンは方針を変えたのだろうか。本気で勝ちにいくつもりなのだろうか。それはこの記事だけではわからなかった。
威勢のいいことを言う一方で、スターリンは次のようなコメントもしている。
「ラグジャリー・タックスを払うということは、うちのチームに最高の選手たちがいるということだ。オールスター選手にはオールスター級の金を払う」(つまり、スターリンがオールスター級だと思わない選手にはオールスター級のサラリーは出さないということ?)
「オロウォカンディはエルジン・ベイラーの判断に任せる。彼が残したいと思うのならオロウォカンディはうちのチームに残る」(ブランドに対するコメントに比べて、かなりトーンダウン。ベイラーはオロウォカンディ支持派なのだが、果たして再契約するために最高額でも出すのかは怪しい)
「エルジンが望むトレードなら、どんなトレードでもOKを出す」(こう言いながら却下したトレードがいくつあったことか)
「個人的にはマイルスをトレードに出すことには反対だ。彼をトレードに出さないですむほかの方法をできるだけ探す。オドムに関しては、2年前と同じくらいのすばらしい選手になると楽観的に考えている」(どうやら、マイルスはこのところスターリンのいちばんのお気に入り選手。対して2年前のお気に入り選手、オドムに対してはやや熱が冷めた?)
実はドラフトを前に、この二人のどちらかをトレードに出して、若く、才能あるポイントガード、バロン・デイビスかアンドレ・ミラーを取るという案が出ていて、この最後はそれを受けてのコメントだった。
2人が絡んだトレード話は、この少しあとに発売になったスポーツ・イラストレイティッド誌の記事をあわせて読むとさらに興味深い。これは、ドラフト期間中のクリーブランド・キャバリアーズ密着記事で、記者はドラフト当日、ウォールーム(戦争部屋)と呼ばれるドラフト参謀本部にも同席し、その場の出来事も克明に記されている。
記事の山場の一つが、キャブスが6位でデジュワン・ワグナーを指名してから、クリッパーズの8位指名が発表になるまでのくだりだ。ワグナーの指名が発表された3分後にスターリンからキャブスのオーナー、ゴードン・ガンドに電話がかかってきて、2人は直接トレードを交渉し始める。キャブスから出したオファーはアンドレ・ミラーと引き換えにクリッパーズの8位指名権とマイルス。これは前もってGMの間でも話し合われていたトレードだった。
結果から言うと、トレードは行われなかった。スターリンがマイルスは出したくないと言い、オドム+8位指名+12指名も蹴ると、キャブスは譲歩してオドム+8位指名を提示。これは、口約束ながらいったん合意に達した。クリッパーズが8位でキャブスが希望するカロン・バトラーを指名し、その後NBAにトレードを告げればトレードは正式成立になるはずだった。ところが、この希望をスターリンがベイラーらに告げる前、タイムアップになる前にクリッパーズは自分たちの指名(クリス・ウィルコックス)をNBAのドラフト本部に通知してしまっていた。クリッパーズ内部での連絡不行き届き、あるいは単純なミスだったのか。10位でヒートがバトラーを指名した時点でトレードは正式に破談となった。
結局、このドラフトでクリッパーズはウィルコックス(8位)、メルビン・イライ(12位)という、2人のパワーフォワード兼センターを指名した。オロウォカンディとブランドのポジションだ。それだけに、ドラフト直後もしばらくはトレードが行われるのではないかと噂されたが、結局、クリッパーズはドラフトから10日以上たってから2人をチームに迎える記者会見を行い、「2人とも私たちが欲しかった選手だ」と強調した。
7月1日にFA選手との契約交渉が解禁になったが、現段階ではまだオロウォカンディとの正式な契約交渉は始まっていない。ことによるとオロウォカンディは、クリッパーズからのクォリファイイング・オファー(1年)を受け、来年夏に制限なしのFA選手になるのではないかとの憶測も聞かれる。そうなれば、ブランドも契約延長は見合わせるだろう。となると、新人2人はそのときの保険なのかもしれない。
プレイオフ常連となれるのか、「もう一つのロサンゼルス・チーム」に戻ってしまうのか。この夏はクリッパーズにとって大きなターニングポイントだ。果たして、スターリンはほんとうに変わったのだろうか。





