2005.05.07
コーチはクビになるために雇われる?【HOOP2001年2月号掲載】
>>チームの不調に加え、スター選手との不仲が引き金に
NBAのコーチたちがよく、自嘲的に口にするセリフに「コーチはクビになるために雇われる(Coaches are hired to be fired)」という表現がある。
確かにNBAコーチたちは、惜しまれながらの辞任や引退という形で仕事を終えることができる幸運な例は少なく、ほとんどの場合、最後はクビという形で任期を終えることになる。コーチ・選手間で問題があっても、選手がトレードになるよりはコーチがクビになることのほうが多い。
NBAのシーズンが始まってまだ1か月余りだが、早くもクビになったコーチがいる。シアトル・スーパーソニックスのポール・ウエストフォール。ゲイリー・ペイトン、ビン・ベイカーにパトリック・ユーイングを加えて戦力を補強したはずなのに、開幕から1か月負け越しという不調。おまけにチームのスーパースターたちのコーチに対する反抗が続いてチーム内部も混乱していたため、解雇も時間の問題と言われていた。
実際、ウエストフォール解雇の予兆は開幕直後からあった。シーズンが始まってわずか1週間後の11月6日、オーランド・マジックに99対110で敗れたあとには、ウエストフォール自身が真剣に辞任を考え、しかもその判断を選手たちに一任するという事件があった。
マジックに敗れた時点のソニックスのシーズン成績は1勝3敗。試合後のロッカールームでは選手がお互いに責め合い、一部の選手はウエストフォールのコーチングについての不満も爆発させていたという(この一人がビン・ベイカーだったと断定していた報道もあった)。このやり取りをロッカールーム外で聞いたウエストフォールは、ロッカールームに入ると「君たちがそのほうがいいというのなら私はコーチを辞めるから、みんなで話し合って決めてくれ」と申し出た。
まるで、97年2月にオーランド・マジックの選手たちが当時のヘッドコーチ、ブライアン・ヒルの解雇を求めるかどうかを話し合ったことを思い出させるような場面だが、マジックのときと違うのはコーチ自身がそれを申し出たこと、そして、選手たちは実際には採決をとらなかったことだ。チーム・リーダーのペイトンが「そんな話し合いもしないし、投票もしない。これはコーチの問題ではなく、自分たちの問題だ。だれにも、ゲイリー・ペイトンがコーチを辞めさせたなんて言わせない」と言い、却下したからだ。
実をいうと、この話はしばらく表に出ることはなかったのだが、事件から10日ほどしてからウエストフォール自身が記者たちに、チームがいい方向へ向かっていると思う理由として話したことで表面化した(それにしても、ウエストフォールという人は正直のうえにバカが付くというか、コーチとして大成するには本音や内部の事情をしゃべりすぎという気がしなくもない)。
皮肉なことに、ウエストフォールがその話をした数日後の11月21日のダラス戦で、今度はペイトンが問題の中心となった。それは、4Qのタイムアウト中、マーベリックスに合わせて小型ラインナップをとっていたウエストフォールに対し、ペイトンがベイカーを試合に戻したほうがいいのではないかと提案したことから始まった。
これに対してウエストフォールは「君はプレイしていればいい。コーチは私だ」と受け答えた。これにキレたペイトンはその場でウエストフォールに対して罵声を浴びせた。それだけにとどまらず、試合後のロッカールームでペイトンは記者たちを前にし、「ベンチでああやって無礼なことをされるのは我慢できない。少しでも助けになるようにとしたことなのに。彼のことなんかどうでもいい。オレはこのチーム、11人の仲間のためにプレイしている。彼のためにプレイするつもりはない」と言い放った。
まだこのあとがある。翌日朝、シュート練習に行くバスの中で、ペイトンはロッカールームでの言動を理由に1試合出場停止の処分を受けた。そのことが全米にニュースとして流れたころには、ペイトンとウエストフォールがミーティングを行っていた。
「ミーティングが始まるときに、ゲイリーには、出場停止だけは取り消すつもりはないと言った」とウエストフォールは、あとから説明した。
「でも、実際にはミーティングがとても成果があったので、出場停止をする理由が何もなくなっていた」
結局処分は撤回され、その夜の試合にペイトンは出場。ソニックスはスパーズに27点差の大敗を喫している。
その5日後の11月27日、ソニックスはウエストフォールの解雇を決め、アシスタントコーチだったネイト・マクミランの暫定ヘッドコーチへの昇格を発表した。オーナーのバリー・アッカリーはこのコーチ交代を「ソニックスが今シーズンの目標を達成するには変化が必要だと思った」と説明した。
>>選手の起用法に気を遣い、そのあげく選手から反感を買ってしまった
ウエストフォール解雇時のソニックスの成績は6勝9敗。結局はチームが勝てなかったことが直接的な原因だったことは明らかだ。しかしそれまでの騒動があっただけに、ベイカー、ペイトンといった二人のスター選手たちの身勝手な行動がコーチを辞めさせることになり、彼らのことをコントロールしきれなかったコーチが犠牲になったという見方をする人も多い。
ところが、解雇直後にウエストフォールが顔なじみの記者に語った本音の話は少し違った。
「ゲイリーのせいだったとは思わない」とウエストフォールは言った。
「ゲイリーが激しやすく、とても競争心が強い人間だということはだれでも知っている。機会があれば彼とはいつでもいっしょに戦いたいと思っている」
代わりに、解雇につながる理由としてウエストフォールがあげたのが、ロックアウト以後体重過多でコンディショニングが悪く、調子の波が激しく、時に集中力を欠いていたベイカーの扱いに失敗したことだった。
「3年間、どうやったらビン・ベイカーをオールスターだったころの姿に戻すことができるか、常に頭を悩ませていた。どのボタンを押せば効果的なのか、どの機会を与えたらいいか、いつ励まし、いつ厳しくし、いつ試合に出し、いつベンチに座らせるか、それがわからなかった」とウエストフォール。
ソニックスは99年夏、ベイカーに7年間8700万ドルの契約を与えていた。それだけの契約を与えている選手から才能を引き出せないということを、ウエストフォールは気にしすぎなほど気にしていた。たとえ調子が悪いときでも、ベイカーを試合で使わないことで彼を傷つけ、そのことで彼がよけいにダメになってしまうのではないかと心配していた。おそらく、ベイカーが一時期うつ病に陥っていたことも頭にあったのだろう。ある意味、腫れ物に触るような対応だった。
その結果、チームが求めるようなプレイをしていないときでもベイカーを先発させ、時には勝負を犠牲にしてもベイカーを起用し、実際にそれで負けた試合もあったという。そしてそのことを、これまた正直にGMのウォリー・ウォーカーに話し「これはコーチのあるべき姿ではない」とみずからを責めたという。
この点で新コーチのマクミランは最初から対照的な手段をとった。最初の試合からベイカーを先発から外したのだ。
「これまでは、どんな契約をしているかなどといった理由で、特定の選手の要求を満たそうとしていた。でもそれではうまくいかない。
契約があるからもっとできるはずだとは言えない。この世界ではやるべきことをできていなければ、いくらお金を稼いでいようと交代させられる。それが人生だ」とマクミラン。
マクミランがヘッドコーチになった直後、ソニックスは敵地でのブレイザーズを倒し、ホームでのレイカーズ戦には大差で勝つなど、変化の予兆を見せている。しかし同じことをウエストフォールがやったとして成功したかどうかの保証はない。マクミランの厳しさに関して聞かれたベイカーは「(マクミランのほうが)少し受け入れやすい。彼はまだ現役を離れて3年しかたっていないから、このロッカールームにいる選手全員が敬意を払っている」と答えている。
コーチ歴が長いことより、最近まで現役だったことのほうが敬意を払う理由になるという考え方は、どこかおかしいように思うのだが(経験の浅い若手コーチたちが次々とヘッドコーチになっているのを見ると、これはNBA全体の傾向のようだ)、結局はいちばん気を遣っていたはずの選手からも受け入れられなかったわけだから、ウエストフォールの苦労はまったくのむだだったわけだ。
フィル・ジャクソンは以前、コーチとして成功するために必要なことは「対立の状況をチーム作りに利用する直感的才能」だと言った。確かに、その点ではウエストフォールは対立を回避し、解決することばかり考え、それをチーム作りにまで利用できていなかったということなのかもしれない。NBAのコーチは難しい。そのことをあらためて気づかされた事件だった。





