2005.05.07
運・不運だけでは語れない選手の故障【HOOP2001年1月号掲載】
>>ライリー流のハードな練習が選手の寿命を短くする?
最近のNBAで何かと話題の人物といえば、ダラス・マベリックスの新オーナー、マーク・キューバン。なにしろ「ノーコメント」ということばを知らない人で、思ったことをそのまま口にするので、彼の言うことはメディアの側からすると格好のネタとなる。
つい先日も、FAとなったジョー・スミス争奪戦の最中に、争奪のライバルとみられていたマイアミ・ヒートの評判について、記者たちにポロっと、こう漏らした。
「選手生命を縮めるからという理由で、ライリーの練習を嫌っている人は大勢いる。彼(ジョー・スミス)や彼の代理人がそうはっきりと言ったわけではないけれど、ぼくはそういう印象を受けたね」
確かに、ヒートのヘッドコーチ、パット・ライリーの練習について、いつのころからかそういったウワサが選手の間で広まっていたのは事実だ。ライリーの毎日の練習はあまりに長くて厳しいため、選手の身体への負担が大きすぎる、それがライリーのチームにいた選手のキャリアを短くしているというのだ。別に科学的な統計があるわけではなく、むしろライリー門下生の代表的な選手のなかには、同年代のほかの選手よりずっと長くて充実したキャリアを送った選手も多い(古くはカリーム・アブドゥル-ジャバーから、今でも現役のACグリーン、パトリック・ユーイング、チャールズ・オークリーなど)ことを考えると、単にライリーの練習についていけなかった選手が言い訳として流し始めた話ではないかとも思うのだが、選手たちというのは意外とこういったウワサに左右されやすい。選手ならNBAの内部事情はなんでも知っているのではないかと思うかもしれないが、実際には、自分たちのチームのことでも新聞で読む以上の情報は知らないことも多く、暇にまかせて流れるウワサも偏ってまちがった情報のことも多い。
実際、今季からヒートに加わったブライアン・グラントも、このウワサを信じていたために最初はヒート入りをちゅうちょしたと白状している。
「ぼくも今のジョー・スミスと同じ立場だったんだ」と、グラントはマイアミ・ヘラルド紙に語っている。「そのウワサを聞いていたから、(FAの面接で)マイアミを訪れるのもいやだったくらいだ。パット・ライリーに会ったこともないのに、手にした鞭をピシっと鳴らしている姿を思い描いていた。最初は怖かったけれど、今では自分に挑んでくれる人が必要だったのだとわかった。この2年、少し体重オーバー気味でプレイしていたのに、自分では気づきもしなかった。ライリーは、ぼくが力を最大限にだせるような領域に導いてくれるコーチだ」
今季ライリーのトレーニングキャンプで身体を絞ったグラントは、これほど体調がよかったことがないといい、事実、まだ序盤戦ながら19.2点、12.5リバウンド(11月13日現在)と、自己最高のシーズンを送っている。
ライリーも、キューバンのコメントに対して「コンディショニングによって、身体を強くし、いいプレイができるようになり、むしろ選手のキャリアは長くなるはずだ」と反論している。
>>徹底したコンディショニングの管理で故障はある程度回避できる
話はライリー対キューバンから離れるが、最近、コンディショニングと故障に関連して、興味深い話を聞いた。マイケル・ジョーダンをはじめ、多くのNBA選手の専属トレーナー、ティム・グローバーのインタビューをしたときのことだ。
グローバーによると、彼独自のワークアウトの一環として、彼のクライアントたちは必ず、足首、膝、腰、指など故障しやすい部分の強化エクササイズを欠かさないのだという。故障しやすい部分でも、筋肉をつけて安定させることで故障しにくくなり、また、万が一故障しても、回復期間が短くなるという。確かに、現役時代のジョーダンが試合や練習中に捻挫したところは何度も見たことがあるが、そのときどんなにひどい捻挫に見えても、早ければその試合のうち、遅くても次の試合には何もなかったかのようにコートに戻ってきていた。
「確かにマイケルは痛みに対してかなり我慢強かったけれど、足首を安定させるようにその部分の筋肉を鍛えることで、実際に足首を捻挫したときに、2~3週間休むかわりに、1日か2日後にはコートに戻ってこられた。その部分を鍛えるために毎日15分の時間を費やし、練習や試合のあとはいつも氷のトリートメントをする。そういったことすべてが大事なんだ」とグローバーは言う。
故障をするかしないかには、多分に運もかかわってくるが、それでも、努力することで可能性を限りなく低くすることができるというわけだ。ジョーダンの13年間のキャリア通算出場試合数は、プレイオフを含めて全部で1109試合になるが、プロ2年目(まだジョーダンがグローバーとのトレーニングを始める前)に骨折して64試合を休んだときを除くと、欠場数はわずか7試合。いつでもチームを率いて、相手チームのディフェンスの標的となっていたことを考えると奇跡的な数字だ。その裏には、毎試合コートに立つための、それだけの努力があったというわけだ。同じように、もう年だからと毎年のように言われながらも、結局コートの上では若くてスピードある選手たちと対等に戦い、休むことなく試合に出ているカール・マローン、ジョン・ストックトンのベテラン・コンビも、その裏ではかなりの努力をしていることが想像できる。
逆にいえば、あまりに簡単に怪我をする選手はそういった努力が不足しているということなのだろうか。もちろん、故障に関しては運や個々の差もあることだから、故障が多かったり、回復が遅いからといって、一概にその選手の努力が足りないと断言はできないし、安易な批判はするつもりはない。無理をせずに大事をとって休む勇気が必要なこともあるだろう。ただ、グローバーから次のような話を聞いて、少し考えさせられてしまった。
ロックアウト明けの短縮シーズンの99年、ジョーダンが引退したあと、グローバーはクライアントの一人だったスコティ・ピペンとともにヒューストンに移り、そのシーズンの間、ピペン、チャールズ・バークリー、アキーム・オラジュワンの3人の専属トレーナーとなった。スーパースター・レベルの選手としては意外なことだが、バークレーもオラジュワンも、それまでほとんど定期的なワークアウトをしたことがなかったのだという。それでも、いったんワークアウトを始め、コートの上で結果が出てくると二人とも熱心にトレーニングをするようになり、その結果、それぞれ前シーズンより成績を伸ばした。
ところが、その夏にピペンがバークリーを批判し、なかば追い出されるような形でブレイザーズにトレードになると、ロケッツはピペンの関係者とみなした人たち全員との縁を切った。グローバーにとってピペンは単にクライアントの一人というだけのことだったのだが、ロケッツからみたらピペン側の人間に見えたらしい。グローバーは、ロケッツに対してバークリーとオラジュワンがトレーニングを続けることの重要さを説き、「きちんとトレーニングを続けなかったら故障するかもしれない」と警告もしたという。案の定、シーズンが始まって間もなくバークリーはキャリアを終える故障をし、オラジュワンも鼠蹊ヘルニアなどでシーズンの半分近く欠場した。
「実際に、ぼくがいなくなってからあの二人がトレーニングしていたのかどうかはわからない。でも、プレシーズンの彼らの体重や故障の起こり方で推測すると、二人ともやっていなかったのではないかと思う」とグローバーは言う。つまり、ロケッツは二人のスター選手に多額の投資をしながら、面子のためか、あるいは彼らのメンテナンスに対する僅かばかりの経費を惜しんだためか、投資を無駄にしてしまったというわけだ(ほかのチームと同じく、ロケッツにもチーム専属のトレーナーはいるが、ベテランのスター選手たちは自分のスケジュールにあわせた個人専属トレーナーを望むことが多い)。
もちろんこれはグローバーの一方的な主張にすぎず、これだけで二人のスター選手やロケッツを批判することはできない。しかし、ライリーのウワサにも見られるように、NBAのなかには、プロフェッショナルとして体調を完全に保つことを怠る選手は意外と多い。
つい先日シカゴの調査会社が発表した数字によると、NBAの平均入場料は一人当たり 51.02ドル、米四大スポーツの最高額だ。この多くが選手の高額サラリーに使われていることを考えると、選手たちには、もう少しふだんからプロとしての自覚をもち、せめて毎試合最高の状態でプレイできるようなコンディションは保ってほしいと思うのだった。





