第5回 経験を積むということ
[経験と知識]考えなくてはいけないことは、いくら指導者としての知識があっても指導者としての経験を積み重ねていかなくては、何にもならないということです。[現場を踏んで継続しながら学んでいく]
「知識」を得るということについては、このクリニックでも、コーチとしての心構えや選手の指導の仕方など、いくつかをご紹介してきました。また講演会に出る、セミナーに参加する、他の指導者の本を読むなど、知識を増やすためにできることはいくらでもあります。
もちろんその知識をまるっきりうのみにするのではなく、自分の哲学やフィロソフィは変えずに、自分の心の中ではポリシーを確立していく、ということは前にもお話しましたね。では「経験」というのはどうか?これはまさに「継続は力なり」,「習うより慣れろ」の世界です。どんなにすばらしい環境で勉強してきても、知識を持っていても、現場で覚えることの方が多いことも確かです。私自身の指導歴を振り返り、数多くの選手を送り出した今、考えてみると、やはり選手に教えられたことが一番多いということです。相手が10人いれば10人違う考え方をする、叱れば良いのか? 褒めれば良いのか?それが反応として返ってきた時に初めて気づくということの積み重ねでした。記録として残してありますが、その蓄積を後で振り返った時に気がつくことが多いのです。最初の頃は優勝した瞬間「やったー! 勝ったー! 後はもうどうでもいいや、はい終わりー!!」という具合だったのが、それを重ねていくといつのまにか優勝した時にも「やったー」と思いながら次の瞬間に「さて、次はどうするか」「記者会見は?誰をヒーローにしようか?」などと考える自分がいた、ということに後になって気がついたりするのです。そうやって実際に現場を踏んで継続しながら学んでいくことが大切だということを常に感じていてください。
[時には振り返る勇気を持つ]
特に経験を積む絶好のチャンスは、勝とうと思って臨んだ試合に負けてしまった時。 もう2度と見たくない、考えたくないと思う試合ほど学ぶものがたくさんあるはずです。負けてしまった、失敗してしまったという時に、自分のやってきたことが良かったのか悪かったのか、考えてみる絶好のチャンスなのです。考えるのがいやでも、繰り返し見たり、考えたりしているうちに見えてくるものがあるはずです。失敗したところで終わりにしてしまうつもりなら、「もう2度と見たくない、考えたくない」でもかまいませんが、そこから進歩しようと思うならば苦しくても頑張ってみてください。その悔しさをバネにしようとする勇気と強い気持ちを常に持っていることが大切です。その蓄積をしてきてこそ、コーチができるようになるのです。半年や1年で「いい指導者になるには」なんて、まずそれは不可能だと思っていた方が間違いないでしょう。3年や4年目になった時、わかったと思ったことが、5年目になって振り返った時に「あぁ、やっぱりあの時わかっていなかったな」と気がつかなくては進歩がないですよね。そうしてコーチを続けているかぎり、毎日が勉強の場であることを忘れないでください。
[指導者に終わりはない]
そしてもう一つ覚えておいてほしいのは、「経験を積み重ねて」といっても、それはいつまでも高く積み上げられるものではないということです。積み上げても積み上げても何度も、ガラガラ!! とあっけなく崩れてしまうものなのです。その壊れることを恐れてはいけないということです。崩れてしまったらまた最初から積み上げる。全部壊れてしまったと思っても、再度積み重ねる時には、壊れてしまったものとまったく同じものではなく経験として生きてくる部分もあるのです。その経験は自分が得た貴重なものとして、蓄積してください。まさに指導者に終わりはないということです。経験と知識を積み重ねながら、成功と失敗を繰り返しながら、指導者として成長するんだ、ということを覚えておいていただきたいと考えます。
【1つ前へ】 【目次へ戻る】 【1つ先へ】
All copyrights reserved by BASKETBALL-ZINE CONSORTIUM