2010.05.18
吹かない技術

▲世界№1レフェリーとの呼び声が高いロマルダス・ブラザウスカス氏(中央)
JBLファイナルのトピックス。ファイナルで主審を務め、世界一の技術を持つといわれるFIBAレフェリー(国際審判)ロマルダス・ブラザウスカス氏に話を聞くことができたので、少し前の話で恐縮ですが、2つのトピックスを掲載します。
今回のJBLプレイオフは、セミファイナルを含めてダイナミックな試合内容で中身が濃かった。特に、リンク栃木はセミファイナルの2戦目から、持ち前のトランジション攻防の波が止まらなかった。それは劣勢をも一気にひっくり返してしまう勢いだった。
そして、ファイナル3戦目にアイシンが見せた球際の粘り。特に後半、最後にバテるまでは竹内公輔を中心に13本のブロック・ショットが飛び出し、激しいボディコンタクトから連続でリバウンド(DR22本、OR33本、TR55本)をモノにしていく様は見応えがあった。見ている者は試合にグイグイと引き込まれていったのではないだろうか。
過去に見応え十分の盛り上がったファイナルは数多くあるが、ここまでスピードと高さの攻防が行きかったエキサイティングなファイナルはなかったと思う。
試合がダイナミックだった一因には、リンク栃木が体を張って球際に食らいついたことや、運動量の多いゾーンディフェンス、そこからの足を使った攻撃といった、自分たちのやってきたことを信じて貫いた姿勢が大前提にはあるが、試合が途切れることなくテンポよく進んでいったことも一因している。
とにかく、ファイナルでは笛が鳴らなかった、のだ。
それはファウルのトータル数のことを言っているのではなくて、試合の流れが笛によって途切れず、左右されなかったことと、それによって起こった“印象”。一方でアイシンの選手たちはGAME2まではいつもとは違う笛の基準にアジャストできず、フラストレーションを起こしていたのも事実。GAME2では不適切な態度を取った竹内公輔に即座にテクニカルファウルを与えるなど、取るべき処置は当たり前のごとく厳しく吹いた。
すごく失礼な質問だと思ったが、今回はあまりボディコンタクトに対してファウルを取ることがなかったので「笛が鳴らなかった印象ですが、これが国際レベルの基準でなのですね」とロマス(愛称)氏に確認した。すると、「その通りだ。これがFIBAの基準だ」とキッパリと返答された。
この質問は日本の国際審判員と一緒に聞いていたのだが、同席した審判員からは「簡単に笛を鳴らすと選手は上達しない。笛を吹くギリギリのところまで我慢して見極められるのが、世界一と呼ばれるロマスのジャッジなんです」と教えられた。
オフェンスの場合、激しく当たられてもファウルを吹いてくれないとなれば、ディフェンスをどう攻略するか考える。ディフェンスにしても、簡単に鳴らされたら激しい守りができなくなってしまうが、笛が鳴らないのであれば粘りのディフェンスを仕掛けることができる。つまり、オフェンスもディフェンスも激しいボディコンタクトの中で駆け引きをしていくことが上達のポイント。それが常に行われている国際基準のジャッジが、JBLファイナルの場で行われたというわけだ。
日本の国際審判員にロマス氏のジャッジのすごさを聞いた。
「ロマスさんのジャッジは非常にシンプル。何があっても動じず、不適切な笛は一切鳴らさない。それはどうしてできるかというと、ロマスさんは試合中に常に色々なところを見ていたり、他の2人の審判とコミュニケーションを取ったりしていて、たくさん、たくさん作業して、その中からたったひとつの選択肢を選んで笛を吹く、吹かないの判断をする。たくさんの作業をしているからこそ、たくさんの引き出しの中からシンプルな答え(ジャッジ)に行き着いているのでしょう。
笛をシンプルに吹くのってすごく難しいこと。笛を鳴らすことは簡単なんです。審判の最初のキャリアは笛を鳴らすことから始まって、技量が上がるにつれて、だんだん鳴らさないことが大事になってくる。ロマスさんは選手にギリギリまでボティコンタクトをさせて、見極めることができる。これは試合の流れをきちんと読めて、考え方と経験の厚みがあるから出来ること。これを日本の審判ができるようにならなくてはならないのです」
日本人だからボディコンタクトができないのではなく、ボディコンタクトをやらせてあげて、持っている力を引き出したともいえるロマス氏のシンプルなジャッジ。常に笛が鳴らない中で激しいボディコンタクトの応酬を経験していることが、諸外国の強さの要因のひとつだとすれば、今回のファイナルは日本にとっては、世界の基準を知る経験ができたことになる。
JBLがプレイオフで国際審判員制度を取り入れたのは2年目で、セミファイナルから導入したのは今季がはじめてだった。JBLによると、来年もFIBAレフェリーを招聘する予定だという。
■ロマルダス・ブラザウスカス氏 プロフィール
1960年リトアニア生まれ、49歳。FIBA国際審判員。シドニー五輪、北京五輪の男子決勝ほか、世界選手権、ヨーロッパ選手権など、多くの国際大会で主審を務める。現在はバルトリーグ(リトアニア、ラトビア、エストニアの3国間リーグ)のディレクターを務める。今年の男子世界選手権にエントリーされており、FIBA大会でのキャリアはラストイヤーと宣言している。





