2009.10.11
【FIBAアジア2009】ヨルダンの固い絆

▲世界選手権出場を決めて涙するヨルダン代表
3位決定戦後に語られたヨルダン代表、パルマHCのインタビュー(記者会見&囲み取材)をすべて紹介します。
ヨルダンは2年前の徳島大会にて、2次リーグで日本に敗れて決勝トーナメント(当時はベスト4からトーナメント方式だった)の道を断たれた。あのときから比べると、大会を通して戦うスタミナと修正能力が加わっていた。スーパースターはいないが最後まであきらめずにタフに戦うチームで、見ていて応援したくなるチームだった。
毎試合激しい檄を飛ばしていたパルマHCだが、世界選手権を決めたときは選手やチームスタッフと抱き合って涙を流していた。その涙からは、選手との固い絆と全身全霊をかけてヨルダンというチームを育成してきたことが感じられた。インタビューを読むとパルマHCの信念が伝わってくる。

▲3位決定戦に勝利したあとの記者会見で熱く語るパルマHCと#10サム・ダグラス
■コーチは僕らに「成果を信じて一生懸命に頑張ること」を教えてくれた
――世界選手権出場おめでとうございます。(3決の)勝因は何ですか?
今日は勝てば世界選手権だったので、チームが一丸となって戦った。今日はそれほど緊張することもなく、最後までプレイすることができた。勝因は「勝ちたい気持ち」の強さだと思う。前日、イランに敗れた試合は「これに勝ったら世界選手権に行ける」というプレッシャーからかナーバスになっていて、いつもは決まるシュートが決まらずノーマークを落としすぎたけれど、今日はきちんと決めることができた。選手たちのコンディションも良くて体が動いていた。特にディフェンスと速攻の連携プレイが良かった。
私が3年前にヨルダンに来たときはFIBAランクが70位くらいだった。それが頑張って42位になることができた(2009年10月10日現在37位)。42位のチームでも飛躍をすれば世界選手権に出ることができる。世界には僕たちよりも強いチームがあるわけだけど、僕たちはジャンプをして資格を得たのだ。
――世界への切符を取った選手たちには何と声をかけますか。
ヨルダンの選手たちと3年間やってきて本当に良かった。みんなにありがとうと言いたい。3年間の中で一番ベストなチームになった。ヨルダンの国民もみんな私たちのチームが大好きで、私たちのことを話題にするほど人気者なんだ。私たちは非常に幸せだと思う。
このチームは一生懸命に練習を積み重ねてきたので、世界選手権に出場するに値するチーム。世界選手権に出て「もっとうまくなりたい」と思っているので、世界選手権に行く資格があるチームなんだ。
(記者会見に同席した#10サム・ダグラス選手に質問)
――世界選手権出場を決めた感想は。
世界選手権に出場することができてうれしい。コーチが僕らを変えてくれたんです(隣にいるパルマHCを見つめて)。コーチは成果を信じて一生懸命に頑張ることを教えてくれた。「トルコを目指そう」といつも言ってくれて、努力する姿勢を教えてくれた。僕はそれを信じてチームを引っ張っていった。
僕はコーチのことが大好きです。僕たちのような小さな国でも世界選手権に行けると信じさせてくれた。イランに負けて、(3決の相手が)レバノンだと決まった昨日の夜遅く、僕らはミーティングをした。そこでコーチは「僕らでも勝てる」ことを強く言ってくれて、信じさせてくれた。
――世界選手権に出るまでにどんな努力をしてきたのですか?
僕たちのチームは毎日毎日走って激しい練習をしてここまで来た。目標に向かって努力してきたからこそ、世界選手権に出場することを信じることができたんだ。
(再びヘッドコーチに質問)
――イランとの激闘に敗れ、そこからどのようにしてレバノンとの試合に臨む気持ちを作ったのですか?
選手たちに「絶対に勝てる」と信じさせるために、私がやらなきゃいけなかったのは、それまでに失っていた自信を取り戻させること。2次リーグで中国に僅差で敗れたのは痛かったけれど、中国とレバノンの準決勝を見て「これならイケる!」と思い、イランとの準決勝を忘れさせることに力を注いだ。
具体的にはレバノンのビデオを見せても練習をする時間がないので、どうゲームをコントロールするかイメージさせた。
①3ポイントは許さない
②ペネトレートさせない
③1対1でポストアップさせない
④ファーストブレイクを出させない
これら4つのレバノンの武器を封じることで、ゲームをコントロールする戦略を立てた。しかし、レバノンがかわいそうだったのは、昨晩の準決勝は21時からのゲームだったこと。今日の3決は15時からだったので、僕らのほうが休養することができた(ヨルダン×イランの準決勝は16時開始)。また、レバノンは5人の能力が高くタレントが揃っているが、チームを作るには3年はかかるから、(新しい帰化選手が主力のレバノンは)まだチームが出来上がっていないと感じた。僕たちヨルダンはタレントのレベルは低いけれど、3年かけてじっくりと育ててきたからいいチームになった。

▲3位決定戦では、80-66でヨルダンがレバノンに快勝
■世界で私一人だけがヨルダンが世界に出る可能性を信じていた
――アンゴラのチームをコーチした時と、ヨルダンをコーチした時とどちらが大変でしたか?
アンゴラも大変だったけど、ヨルダンを育てることは私の人生の中で最も重要な仕事になったと思う。というのは、3年前にこのチームのコーチを引き受けた時、ヨルダン人の誰もが世界選手権に行けるなんて思ってなかったし、世界中の誰もが世界選手権に行けると思ってなかった。世界で私一人だけがその可能性を信じていた。3年間ヘッドコーチに就任してからずっと選手たちや国に対し「世界を目指そう」と声をかけてきたのだから。
――2年前の徳島大会ではオリンピックには届かなかったが、そこからどのようにチームを作ってきたのか?
2年前のオリンピック予選ではまだチームとして経験が浅かったので、2次リーグで日本に負けてしまった。日本に負けたあの試合は今でも思い出すが、本当に愚かな試合だった。それに勝っていたらベスト4に残って北京に行くチャンスがあったのだから。でも、その時からチームで練習を積んで、ここまでのチームになった。
私はアンゴラとヨルダンの2つの国を世界選手権に連れていけたことを誇りに思う。この偉業を成し遂げた人はそうはいなくて、多くのコーチはベンチに座って指示をしているだけ。だけど私のやり方はそうではなくて、猛練習をして力を上げさせる努力をしてきた。それは個人能力を育てるだけじゃなくて、チームが勝てるかどうか。勝つためには“チームを育てる”ことが大切なんだ。
――ヨルダンは組織的なバスケットボールをしていたが、どこに重点を置いてチーム作りをしてきたのですか?
ヨルダンにはビッグセンターはいないけれど、連携プレイに優れたバスケットボールを心がけていて、強いディフェンスを作ってきた。戦略と戦術についてはどこの国よりも組織化されていて、そのことについては私たちがアジアでベストチームだと信じている。
ヨルダンにはヤオ・ミンもワン・ジジ(中国)もジャクソン・ブロマン(レバノン)もハメッド・ハッダディ(イラン)もいない。他のチームと比べて特別に才能ある選手はいないけれど、もし才能ある選手がいたとしたら、この大会は優勝できていたと思う。

▲世界選手権出場を決めた瞬間
ヨルダンの中心選手、ガードの#5ラシーム・ライトと#10サム・ダグラス
■帰化選手はライトだけ
――改めて聞きますが、帰化選手はライト選手だけなのですか?
※FIBAアジア広報が質問を制御するが、パルマHCは「答えさせてほしい」と、回答し始めた。
FIBAのルールで認められている通り、帰化選手は一人だけ。全員ヨルダンのリーグでプレイしていて、ナショナルチームになることを認められた選手ばかり。たとえば、レバノンでは両親のどちらか一方、もしくは祖父母がレバノンのパスポートを持っていたらレバノン国籍保持者として認めらているようだ。たとえそれがアメリカの大学でプレイしていたとしても。ヨルダンもアメリカの大学でプレイしていた選手はいるけど、ヨルダンの国籍を持っているんだ(だんだんと怒り口調になってきた)。
何度も言うが、私たちの国の帰化選手はライトだけ。ラシーム・ライトだけ!!!(強い口調で)
(#10サム・ダグラス選手に質問)
――君はこんなに攻撃的な人でもコーチのことが大好きなの?(笑) どういうところが好きなの?
大好きです(笑)。コーチというのはその人ならではの指導の方法を持っていて、僕たちはコーチのやり方を信じてついていった。コーチについていけば強くなれると思ったんだ。僕はコーチのシステム戦略を信じているし、信じたからこそ、こうして実際に世界選手権に出ることができたんだ。
(マリオ・パルマHCがコメントを続けて)
インターネットで国際大会のタイトルを70個くらい持っている人がいるか調べてみてください。そんな人いないでしょう(笑)。もしいたとしたら、何も怒ったり注意したりする必要がなく、黙っていても指導できる力がある人かもしれないね。だけど僕はそんなタイトルはないから、選手によくしゃべって怒って聞かせるんだ(笑)
■いまやバスケットボールは、ヨルダンでいちばんの人気スポーツになった
――世界選手権で中国と試合をしたら、どっちが勝つと思いますか?(中国のメディアより質問)
そりゃ僕たちだよ。(この大会では)中国に負けたけれど、この調子で強化をしていったら、世界選手権では中国には勝てると思う。それは何故かといったら、ヨルダンはトルコに近くて、観客は皆、僕らの味方をしてくれるから(笑)。ここは中国だから僕らにはブーイングがあったけど(笑)
――世界選手権での抱負を聞かせてください。
世界選手権はバスケットボールをする場所だけど、世界に出たら世界中のコーチたちとワールドトークを交わしてきたい。また世界と交流をして技術を磨きたい。勝つことはもちろん目標だけど、アジアを代表して出るのだからいろいろな国の人たちと触れ合える場にしたい。
いまや、バスケットボールはヨルダンにとってはナンバーワンスポーツになったと言えるだろう。アンゴラを世界選手権とオリンピックに連れて行ったこともうれしかったが、ヨルダンのような小国を世界に連れていけるのが本当にうれしい。ヨルダンは来年までにはもっとうまくなっているし、タフなゲームができるようになっている。そうなるように努力します。
■マリオ・パルマ Mario Palma
1950年生まれ。国籍はポルトガル。アンゴラ代表のヘッドコーチとして、アフリカ選手権を4度(1999、2001、2003、2005年)制する。アンゴラを率いて、オリンピックには2000年シドニー大会、2004年アテネ大会の2大会に出場。世界選手権には2002年大会に出場。2007年よりヨルダン代表のヘッドコーチに就任。代表を率いて3年間でヨルダンをアジアの強豪国へと育成した。





