2009.08.07
イランとフィリピンの未来
2007年、イランをアジア選手権優勝に導き、現在はフィリピンのヤングナショナルチームのヘッドコーチをしているライコ・トローマン氏。7月、ジョーンズカップの視察に来ていたところをつかまえ、イランとフィリピンの両国についてインタビューを行った。
トローマン氏が采配をふるう「フィリピン・ヤングナショナルチーム」とは、5月に来日し、日本代表と対戦した「フィリピン・クラブチーム」=Smart Gilasのこと。実際はクラブチームではなく、フィリピンB代表といえるチームだったのだ。
近年はアジアで成績を残していないフィリピンだが、協会の内紛騒動が終息し、本格的な強化に向けて走り出していた。もともと選手たちの運動能力は高く、2年前のアジア選手権でも片鱗を見せ始めていた。今後、さらに脅威な存在になることは間違いない。アジア選手権で日本と同グループで戦うフィリピンは、将来を見据え着々と強化を進めている。(翻訳協力/梶川三枝)
■インタビューPART1 イランとフィリピンの未来

▲ライコ・トローマン氏(ジョーンズカップにて)
――現在のあなたはフィリピンの若手チームを指導しているとのことですが、どんな立場でどんな強化をしているのですか?
私は今年からフィリピンヤング・ナショナルチーム(Smart Gilas)のヘッドコーチをしています。フィリピンの強化プログラムにおける「プロジェクト・ディレクター」という立場です。ヤング・ナショナルチームの強化プログラムとは、2012年のロンドン・オリンピックを目指し、3年間かけて大学生を中心に育成していくもの。
私の指導のポイントは才能ある若い選手たちに、とにかく国際経験をさせること。これまでも日本、セルビア、ジャカルタ、デュバイ、オーストラリア、アムステルダムに行って国際経験を積んできた。でもまだまだ足りないので、もっと国際試合を積ませたい。
――5月に日本代表と試合をしていますが、その時の手ごたえ、日本代表の印象は?
日本は2年前のアジア選手権の時よりかなり変わったと思う。当時からコーチも変わりましたね。プレイスタイルが以前よりも変わって、とてもいい方向に向かっていると感じた。アジアのチームは国によってプレイスタイルが全然違うので、日本がフィリピンと対戦したことはいい経験になったのではないだろうか。もちろん私たちもいい経験になった。
――あなたはイランのHCとして2007年のアジア選手権で優勝し、北京オリンピックに出場しました。オリンピックで得たものは何ですか。
オリンピックに出たことは、自分にとっても、イランの選手にとっても、非常に意義のあるものだった。非常にエキサイティングな経験ができたと思う。2007年のアジア選手権では中国が出場権を持っていたため、ベストチームで参加していなかった。我々はこのチャンスを生かしてオリンピックに出場できた。オリンピックに出場できたのは、イランの才能ある選手たちが勤勉に練習することで、強いチームになったからだと思う。オリンピックでは勝つことはできなかったが、イランにとって今後につながる財産になったのではないだろうか。
――イランとフィリピンの今後の可能性をどう感じていますか?
フィリピンは国際経験を積むことが一番。その経験を今は積んでいるところで、A代表にはアジア選手権で頑張ってもらいたい。イランはオリンピックに出て経験したことが大きく、またNBAのサマーリーグに行く選手がいたり、若くて才能があり、体格のいい選手が揃っているので、これからは中国との2強になっていくのではないか。
(取材日7月23日、ジョーンズカップにて)

■インタビューPART2 イランが躍進した理由
以下は2年前のアジア選手権で優勝した直後に、トローマン氏にインタビューしたもの。イランが躍進した理由について聞いた。
(「月刊バスケットボール」2007年アジア選手権特集号に掲載した記事です。アジア選手権終了後、体育館の外でホッと一息ついていたトローマン氏に遭遇し、急遽インタビューをお願いした)
――イランがめざましく強くなった要因は何ですか?
ここ数ヶ月の厳しい練習のなかで改善点はいろいろあった。コーチするにあたり重視したことは、チームワークと効果的に練習する習慣を身につけさせることだった。
彼らには素質はあったが、戦略的に練習すること、勤勉さ、チームワークが足りなかった。すべてのプレイヤーがチームのためにプレイをしたから強くなった。イランは個人競技ではオリンピック出場はあったが、サッカーや、バレーボール、ハンドボールなどのチーム競技ではオリンピック出場なんてなかったから、快挙だと思う。
――ということは、あなたが赴任する前は、イラン代表チームにはチームワークが欠けていたのですか?
基礎スキルはあったが、チームとしては機能していなかった。毎日毎日一生懸命練習して、今回の結果につながった。今回の勝利は、個人の能力ではなくチームが一丸となって得たものだ。
――ケミストリー強化といってもいろいろな方法があるが、あなたがとったアプローチは?
とにかく練習を重ねて体で覚えること。とにかく練習を重ねることが重要。センターとガードの絡みを重視しながらケミストリーを教えこんだ。実際、何人かの選手が戦略的に練習することで合宿中にかなりレベルアップした。一人の中心選手が怪我をしてしまったという問題もあったが、他の二人の選手がよく成長してくれたので、なんとかこの問題を補うことができた。
――「練習」という言葉が具体的に意味するものは何ですか?
一日に4~5時間練習をすること。15人の選手がいたら誰か怠ける選手が出てくる。そういう選手に檄を飛ばして練習をさせる。つらい練習にもまじめに取り組ませる。それを徹底させること。
――ヨーロッパと比べて、アジアの国をコーチするのは難しいものですか?
日本の結果には落胆した。他のアジアのチームについてもそうだが、もっと戦略的な試合展開を学ばなくては。中国のようにヨーロッパのコーチを採用してヨーロッパスタイルを取り入れてレベルが上がったチームもある。
――イランをコーチすることには満足していますか?
満足している。改善点は山ほどあったが、協会から原則的なことは話があったし、協会は私の仕事に満足してくれていたので待遇は良かったし、大会のために必要な準備をすべて整えてくれた。セルビアや台湾に遠征に行ったときも宿とか完備で、全面的に協力してくれた。
――選手の基礎スキルはすでに出来上がっていたから、あと必要なのは戦略だった。
だからあなたはイランの才能を生かすための「戦略」を与えたということですか?
YES。戦略とまじめに練習する習慣を教えた。彼らは戦略的に練習をすることを知らなかったから、それを教えるのが私の仕事だった。才能に恵まれた選手たちだったから、その素材を生かしてあげたかった。
――バスケットボールにおけるあなたのモットーは。
努力することが一番大事。成功するために才能は20%、努力が80%。
■ライコ・トローマン Rajko Toroman■
1955年生まれ。国籍はセルビア。ユーゴスラビア時代にナショナルチームのアシスタントコーチ、U-23のヘッドコーチを務める。ベルギー、ギリシャ、オランダ、ハンガリーなどのプロコーチを経て、2007年にイラン代表のヘッドコーチに就任。アジア選手権で優勝し、北京オリンピック出場に導く。現在はフィリピンナショナルチームのプロジェクト・ディレクター。現在、指揮を執る「Smart Gilas」は2012年ロンドン五輪を目指し、2009年より3年計画で強化しているヤングナショナルチーム。





