2009.08.06

変貌を続けるアジアの現状

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2年前、「月刊バスケットボール アジア選手権特集号」にて、変貌するアジアの記事を書きました。
2年前の記事ではありますが、アジアの現状が把握できると思うのでここに再掲載します。

ただ、2年前と大きく、そして絶対的に違うのは、今大会はアジア王者の中国がA代表として戻ってくること。レバノンのNBA経験のある帰化選手の状態や、ジョーンズカップからエントリーを変更してアジア選手権に臨んでいるチームが多くあるのも気になるところ。


変貌を続けるアジアの現状  ※月刊バスケットボール2007年10月号 掲載

 北京行きをかけて目の色を変えていたのは、何も日本だけではない。いや、日本以外の国は着々と改革を進め、急変するアジアのうねりの中で対応していたのだ。ホームコートで日本が見せたのは、このままではアジアに取り残されてしまうという“危機感”に他ならない。各国の戦いぶりから見えたアジアの今を追う。

 ここまで熾烈を極めた大会は過去にはなかった。アジアと一口に言えど、組織的にゲームを進める東アジア、フィジカルに強い中東、オールラウンドなヨーロッパスタイルを持つカザフスタン、1対1に強いアメリカンバスケを展開するフィリピンといった具合に、バスケットスタイルは多くの民族と地域性によって多様であり、さながらアスティ徳島のコートでは「多国籍選手権」が繰り広げられているようだった。

 加えて、海外リーグに参戦している選手や帰化選手の増加、海外から経験豊かなコーチを招聘するなど、各国が取り組んできた強化のてこ入れも、今大会の激戦に拍車をかけるものとなっていた。

 こうした混戦は大会前から予想されていたことだったが、ここまで、アジアを取り巻く環境が急変していた“速度”までは、読み取ることはできなかった。いや、大会直前にチャイニーズ・タイペイで開催された“前哨戦”であるジョーンズカップに出場した日本以外の国々は、それらの変化を体感したうえで、このアジア選手権に臨んでいたのかもしれない。残念ながら、ホームコートの日本だけが、急変するアジアの速度に対応しきれないままに終わった感がある。

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▲優勝したイラン。歓喜のウイニングラン


死のA組が繰り広げた強化策とその成果

 急変するアジアの中でもっとも進化を遂げていたのが、イラン、ヨルダン、フィリピン、中国が属したA組の面々だ。あと一歩のところでベスト4を逃してしまったヨルダンのマリオ・パルマヘッドコーチ(以下HC)は、1次リーグの戦いを「死の組に振り分けられてしまった」と不平を漏らしていたほど。 
 
 だが、A組に関して言えば、イランは前回6位でヨルダンは7位。フィリピンに至っては協会内で内紛があったために、FIBAの措置によって、この2年間は国際大会出場停止処分を受けていた。今大会は若手で編成してきたとはいえ、前回1位の中国の組に入ったことは、前回順位からすれば文句を言える立場ではなかった。それでも、不満の声が上がったのは、どこの国も“北京”に向けて強化を図り、この大会に懸けてきたからに他ならない。
 
 混戦となった伏線は、昨年末(2006年)、ドーハで行われたアジア大会時にあった。この頃からアジアは変化のうねりの中にいたのだ。
 
 すでに、2000年代に入ってからのアジアは、レバノンとカタールが外国人コーチを招聘し、帰化選手を加えたことで浮上したことは周知の通りだが、先のアジア大会では、優勝した中国を除き、地元のカタールが準優勝、イランが3位、ヨルダンが4位に躍進するという、まさに開催地である中東勢のための大会になった。

 この順位の裏には、アジア上位に君臨していたレバノンと韓国が取りこぼしをしたことが背景にあったが、アジアで4強入りするポテンシャルがあると見極めたイランやヨルダンが、北京に向けて強化を図ってきたのは当然の成り行きだったと言える。
(アジア大会で9位に低迷したレバノンは「当初、アジア大会には大学生が出る予定だったが、急遽、代表チームが大会2日前に召集されたことが低迷の理由」だと、今大会、#11ジョゼフ・ボーゲル選手が証言) 
 
 何せ、彼らには秘めたる身体能力がある。特にイランには、ジュニア時代から衝撃を与えていた224㎝の#11ジャベル、218㎝の#15ハッダディを中心とした高さもあった。ないのは強化体制だけだったのだ。
 
 そうして、北京を目指して招かれたのが、バスケット先進国のノウハウを知る指揮官だった。イランのライコ・トローマンHCはセルビア人。これまでギリシャやボスニア等のヨーロッパ諸国のリーグで指揮を執り、ユーゴスラビア代表で6年にわたりアシスタントコーチを務めた。ヨルダンのマリオ・パルマHCはポルトガル人。一昨年までアンゴラ代表の指揮官として、7度のアフリカチャンピオンに導いた実績を持つ。彼らはアジアで躍進した理由を、自信を持ってこう述べた。

「イランには素質があったが、勤勉さと戦略がなく、チームとして機能していなかったので、4か月間みっちり1日4~5時間の練習でケミストリーを築いてきた。また、大会前にはセルビアやチャイニーズ・タイペイ(ジョーンズカップ)に出向いて実戦を積むことができ、協会は必要な準備をすべて整えてくれた。優勝できたのは、こうした環境と私たちの努力の結果だ」(イラン/トローマンHC)

「私はヨルダンを強くするためにやって来た。強くなった理由の一つはもともとモチベーションが高かったヨルダンの選手たちが、厳しい練習を1日に5時間もしたこと。二つ目は私にはアフリカで何度も優勝させている経験があること。時間があればもっと強くすることができるだろう。三つ目は国の連盟の協力があることだ」(ヨルダン/パルマHC)

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▲決勝の死闘後、優勝したイラン、準優勝レバノンのキャプテンがお互いに称えあった
左からニックハ・バハラミ(イラン)、ファディ・エルハティブ(レバノン)


 下位リーグに回ってしまったが、躍動感あふれるスタイルでA組を盛り上げたのがフィリピンだ。フィリピンといえばアジアでも屈指のプロリーグが盛んな国。だが、以前から国際大会にはプロリーグとアマチュアのどちらが出場するのか強化に一貫性がなく、そうした方針の揺らぎに不満を持つ声が国内から噴出し、ついにはPBA(フィリピンバスケットボール協会)が追い込まれ、新組織PBF(フィリピンバスケットボール連盟)が立ち上がった。
 
 だが、両者が主導権を譲らないことから内紛へと発展。この騒動を重く見たFIBAによって国際大会の出場停止処分を受けていた。そして紆余曲折の末、「真の一本化の組織」へと生まれ変わり、今大会より晴れて国際舞台へと復活したわけだ。一次リーグではイランとヨルダンにあと一歩及ばなかったが、9位決定戦で中国を下すと、レイヤスHCは堂々と宣言した。

「フィリピンは今、プロリーグと協会が一体化し、国際大会には一番強いチームで挑む体制になった。私たちはアジアに帰ってきた。プロリーグをもっと盛んにし、これからもっと強くなってみせる」

 死のA組から出たキーワードは「万全な強化体制」。国が結果を求め、結果の出し方を知る人が手を差し伸べた組織は見事に成果を上げたのだ。


5大会連続優勝を逃した中国の今大会の目的と現状

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▲中国代表HCとして采配をふるったのはア・ディジャン。元中国代表の司令塔


 今大会が混沌とした最大の理由は、アジアの雄・中国が五輪出場権を持っていたことにより、アジア各国に千載一遇のチャンスがめぐってきたからだが、当の中国は加熱する戦いの中で、まるで第三国のような立場で大会に参加していた。

 女子のアジア選手権では、1軍の参加はなくとも「2軍ではなく1・5軍」だと若いチームを高く評価していた中国だったが、男子の場合は「2軍だけでなく3軍もいる」(アディジャンHC)というレベルでの参加。当然目的意識も低く、1次リーグを勝ち抜くことはできなかった。また、経験がないチームとはいえ、大会5連覇を逃がしたという事実に変わりはなく、それでも「10位という結果には驚いていない。今回は若手に経験を積ませる場だった」と、ショックを見せる素振りもなかった。中国にとっては完全に若手強化と割り切って臨んだ大会だったようだ。

 HCのアディジャン氏は90年前半、中国のカリスマ司令塔として名を馳せた選手であり、現在は中国代表のアシスタントコーチも務めている。誰よりもアジアの移り変わりを知っている氏だからこそ、他国が命をかけて五輪を目指す姿に対して、このような賛辞を贈っている。

「どこの国もこれまでのどの大会より準備をして臨んでおり、特徴あるチームに成長しています。来年、北京で会えるのが楽しみです」

 だが、そう語る目に焦りの色はまったくない。コメントの最後には「我々の1軍はオリンピックのセレクションをかけて、強化の真っ最中です」と、自分たちはさらに先のステージにいることを示唆してみせた。王者がアジアの舞台に戻る2年後には、混沌とするアジアの、さらに一段上に立つのだと言わんばかりに、その口調からは余裕がうかがえた。


変貌を遂げるアジアから見える日本の位置

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▲日本は7位決定戦でカタールと対決。86-82で敗れ、史上最低の8位となった


「中国以外は横一戦」(鈴木HC)と言われた今大会。蓋を開ければその通りの混戦模様となったが、上位を占めたのは、中国のアディジャンHCが言うように「用意周到」の国々であり、準優勝のレバノンや世界予選の切符をつかんだ韓国のように、エースを軸としたチームだった。

 レバノンはアジア№1のポイトンゲッター“タイガー”の異名を持つ#15ファディ・エルハティヴを徹底的に生かすタフネスさがあった。韓国にはいつの時代も、速いパス回しとスクリーンプレイの組織力が成すファンダメンタルがあり、加えて今大会は、223㎝の#4ハ・スンジンの成長がそのままチームの発展へと結びつき、世代交替にも着手していた。さらに、若いカザフスタンの台頭は、アジア全体を脅かす存在にまでなっていた。
 
 唯一、波乱と言えたのが、日本と7決を争ったカタールの崩壊だ。ジュニア世代からの長期育成プログラムと帰化選手によって、アジア2位にまでのし上がったカタールだが、エースの#10ヤシーン・ムサは、チーム内で問題を起こして昨夏の世界選手権に出ていなかった。今大会もそれを引きずっていたかは定かではないが、プレイに精彩を欠いていたことは確かだ。

 今年度からHCに就任したアメリカ人のアンドリスト氏は「本来ならば優勝を狙えるチームだが、今大会はチーム作りにおいて私の手に負える範疇を超えていた。国に帰ってプログラムを見直さなくてはならない」と語るほど、その組織力は崩れていた。

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 10位の中国までを含めた上位国に共通して言えたことは、国内でプロリーグが盛んに行われ、死のA組のHC陣が胸を張ったように「国の万全な協力体制」があり、貪欲に切符を獲りに行くハングリーな姿勢といった“戦う基盤”があったことだ。残念ながら、これらは今の日本には欠けているものばかりだ。

 世界は、アジアは、代表チームは、時代とともに生きて成長していく。だからこそ、いつの時代も強化の検証と経験を継承していかなければならないのに、日本は付け焼刃な強化で済ませ、過ちを繰り返してきた。今大会、8位という史上最低の結果もさることながら、アジア各国の強化策と成果を“ホームコートで”まざまざと見せつけられたことが何よりの屈辱だった。今、一貫した日本が進むべき方向性を打ち出さなければ、世界とアジアの大会を開催したホストカントリーとしての2年間から、何も学ばなかったことになる。世界はおろか、変貌を続けるアジアは今この時も、待ってはくれない。


【最終順位】

1位 イラン…………北京オリンピック出場
2位 レバノン………世界最終予選出場
3位 韓国…………世界最終予選出場
4位 カザフスタン
5位 ヨルダン
6位 チャイニーズ・タイペイ
7位 カタール
8位 日本
9位 フィリピン
10位 中国
11位 シリア
12位 インドネシア
13位 ホンコン・チャイナ
14位 クウェート
15位 インド
16位 UAE


Posted by yota at 02:48  FIBAアジア選手権