2007.07.18
JRの帰化、そして日本の行く道

「名前の由来はマンガ。スラムダンクからね(笑)」
これは、このほど帰化申請が認められたジェイアール・ヘンダーソンの日本姓「桜木」の由来を、囲み取材で聞かれた時の鈴木貴美一HCのリアクション。もちろん、記者に向けてのリップサービスだ。
その後、日本協会の広報を通じ「桜の木というのは、日本人の心に希望と明るさ、春の訪れを表す象徴。自分は桜の木のような存在になって、この名前で日本の方に受け入れてもらいたい」というジェイアール(以下JR)本人のコメントが発表されたが、いやいや、どうして。鈴木HCのリップサービスは、まんざらジョークではなかった気がする。
やはり桜木と言えば誰もがマンガ「SLAM DUNK」(井上雄彦著)の主人公を思い浮かべるように、JRにも桜木花道のようなリバウンド力と存在感、そして人生において重大な決断をしてくれたことに感謝し、日本人に親しまれてほしいとの願いが、鈴木HC自身にあったのではないか(後付の理由だとしても)。JRが『JAPAN』のユニフォームで初お目見えしたこの日。その思いは代々木にいた421人のファンも同様だったように感じる。はにかみながら片言の日本語で挨拶をしたJRには、ひときわ大きく、そして温かい拍手が送られていた。
「桜木JRです。頑張りますので、応援よろしくお願いします」――。


“桜木JR”は01-02シーズンよりアイシンでプレイし、今シーズンで7年目となる。しなやかな1on1を持ち、パスからのあわせもうまい。そして、桜木花道ばりのリバウンド力もある。今季は帰化申請のこともあってアイシンとの契約が遅れていたが、日本代表になることを見越して、6月よりアイシンのチーム練習に参加していたという。
帰化申請に踏み切ったのは昨年9月。鈴木氏が日本代表のヘッドコーチに就任した直後。もちろん、「オリンピック予選のことを睨んで」(鈴木HC)のことだ。JR本人にとっては「日本に6年いて日本人のことを尊敬している。オリンピックに挑戦することは、自分の人生の中でそうめったにあることではない。出られるチャンスは母国であれば可能性が少なかったと思うし、オリンピックに出ることは自分の夢でもあった。それでも帰化という問題はデリケートなことで、家族によく相談した」うえでの決断だった。
帰化選手が代表入りする可能性があることは、4月の合宿開始時から公表されていた。だが、それが誰であるか発表することも、実際に合宿に合流させることも出来ない事情があった。
「思った以上に申請に時間がかかり、帰化できる保障などどこにもなかった。帰化が下りたら即代表に参加させたかったが、下りない状態では“日本人”ではないわけだから参加させることもできなかった。日本人でもないのに合宿に帯同させるようなことがあれば違反になり、帰化できるものもできなくなると、役所に確認を取ったうえでのことです。ただ、選手たちには帰化選手が入る可能性があることは伝えていました。ヨーロッパ遠征中の7月2日に申請が下りたため、そこから合宿等を判断して選考から漏れる選手には通達をしました。選手たちは、選考については勝負事と理解を示してくれていると思います」(鈴木HC)
鈴木HCが求めているのはパッシングからスペースを生かし、対戦相手に対応するスタイル。考える力が非常に必要とされる。司令塔でキャプテンの佐古いわく「JRが入ることでインサイドにボールが入るだけでなく、パスもうまいので外角の選手のスペースもできてフリーランスな動きに幅ができる」と効果を語る。JRと初顔合わせの選手たちはどうか。アウトサイドのキーマン、折茂武彦はこうコメントする。
「JRは自分で得点もできるけれど、周りを生かすことにも長けているので、外角としてもあわせやすい。帰化選手が入るかもとは聞いていたけれど、そのことはあまり考えないで、このメンバー(日本人)でやれることをやろうと練習してきました。JRが入ると聞いた時は心強く思いましたね。僕は大歓迎です」
JRとインサイドでコンビネーションを組むセンターの青野文彦は「自分の役目はリバウンドだということに変わりはないけれど、JRが入るとインサイドがよりパワーアップする」と答え、アイシンのルーキーでもある竹内公輔は「僕は2月からアイシンのチーム練習に参加していたので、問題ない」と心強い返事。あとは、短期間でどれだけチームにフィットするかが課題になるが、それよりも選手のコメントを聞いて印象に残ったのが、JRが入ることでチームに「心強さ」を与えているということ。
「日本の方に受け入れてほしい」――というJRの願いは、チームメイトからはすでに信頼を得ているようだ。
今回の件は計画的に進められていたこととはいえ、発表された時は衝撃を受けた。鈴木HC率いるアイシンの選手だからこそ誕生した帰化プレイヤーだが、その背景には、強化陣の強固な決意があった。
「JRの帰化はJBL兼任コーチだからこそやれたことでもあるし、兼任チームのコーチが動かなかったら誰も動かない。JRを入れたからといって簡単に勝てるとは思っていません。でも、オリンピック予選を日本でやるからには最強メンバーで結果を残さなくてはならない。JRを入れたこのメンバーにかけます」(鈴木HC)
これまで、いすゞ自動車の小浜元孝、東芝の吉田健司、シャンソン化粧品の中川文一、JOMOの内海知秀といったJBL、WJBLの兼任コーチたちが、自チームを中心に日本代表を作ってきたように、今回の日本代表も中心となるのは鈴木HCのバスケを熟知するアイシンの選手たち。こういった兼任コーチのチーム作りがいいか悪いかは、「日本の強化」として検討していかなければならない問題だが、今大会は「オリンピック出場」という結果をつかむことが、開催地としての大命題。そのうえで取られた策ということだ。
帰化選手を入れたことが日本の強化につながるかといえば、根本的な選手育成にはつながらないだろう。最強の日本代表を選出する一方で、長期的なビッグマンの育成を始めない限り、日本のインサイドは世界に通用しないままだ。だが、今大会は「アジアで勝つ」と腹をくくった。JRを入れた12名で戦うと決めた。その答えを徳島で出すしかない。





