2006.06.01
現役引退を迎えた彼女たちの思い
※功労賞授与式のあとに個別取材。本人のコメント通り、終わったばかりの2005-2006シーズンを「今シーズン」と表記します。

★薮内夏美(98年日本航空入社、Wリーグ8年在籍)
「引退の理由は…足が本当に動かないんです。ケガをした左足が思った通りに動かなくて…(昨年ケガをした左足かかとの足底筋膜炎と、3年前にケガをしたすねの疲労骨折)。それが悔しいし、悲しいし…。足が動かない分を気持ちでカバーしようとしても、体と気持ちはつながっているものなので、気持ちだけではカバーできないし、心と体のバランスが崩れたというのが引退の理由です。ファイナルが終わるまでは体がつぶれてもいいから最後まで戦いたいと思ってやってきました。
オールジャパンが終わって、その後何試合かやって、セミファイナル進出を確定したあたりから『もう今シーズンで終わりかな…』というのが頭の中にありました。何度もチームと話し合いましたが、最後は林先生が『お前が出した決断ならそれでいい。これからは体をゆっくり休めなさい』と言ってくれました。
バスケットをやり切った感はあります。最後は優勝できなかったけど、十分やりました。バスケット界にいるのは自分の居場所だったし、今度はその居場所から離れてゼロからのスタートになるので少し不安はあるけれど、これからは客室乗務員として業務に専念します。この間、(疲労骨折した箇所に埋めていた)ボルトを抜く手術をしました。今はリハビリ中です。足が軽くなるといいな。
みんな口を揃えて『またもう一度バスケットをやりたくなるよ』と言ってくれるんですけれど、もしその時が来たら、その時の気持ちを大切に行動していきたいと思います。でも、今はやり切ったという気持ちがあります」
……
激痛で歩けないほどの故障を抱えていても弱音を吐かなかったのは、薮内夏美だったから。ナツだったからこそ、ここまでプレイできた。痛みと闘った数年間。今年のオールジャパンで負けたあと、はじめてナツの悔し涙を見た。その時、ナツの抱えている痛みが伝わってきて、選手生活の終わりが近づいたことを覚悟した。それでも心のどこかで「あと1年、もう1年」と願っていた。黒いパンツスーツに身を包んだナツは「(リーグ優勝する)約束守れなくてごめんなさい」と言った。かなわなかった夢がありながらも、その顔はどこか穏やかだった。痛みとの闘いから解放された安堵感からだろうか…。この春、薮内夏美の左足に埋められていたボルトは抜かれた。最後まで闘ったのだ。

★江口真紀(97年三洋電機入社→日立戸塚→シャンソン化粧品→三菱電機、Wリーグ9年在籍)
「今まではバスケットをしている中で楽しさがあって、それで現役を続けて来られたというのがありました。でも、今シーズンはそれとは違う気持ちが多くて、逆に負担になることもありました。また自分の体のことを考えたり、そういう気持ちを総合的に考えると、(現役を続けたい)気持ちを上回るモチベーションが持てませんでした…。もちろん今でもバスケットすごく好きだし、バスケットが嫌いになったわけではないけれど、それを上回るほどのものが出てこなかったので…。
入替戦で負けてしまって2部に降格しましたが、そのことが引退する理由ではないです。自分の中ではシーズン中から『このシーズンが終わったら辞めよう』と決めていました。今までは自分が頑張ることで周りを勇気づけていたはずだったのに、昨シーズンは逆にみんなに心配されて悩んだ1年でもあって、それがしんどかった。本当は最後に1部に残留して終わりたかったので、そのことに関してはチームに本当に申し訳ない気持ちです。
自分としてはバスケットで出来ることはやってきたと思うし、悔いはないように頑張ったつもりです。実際に引退してみんなから『まだ出来るんじゃないの?』と言われるけれど、その言葉が苦しいし、ナツ(薮内)さんのようにケガで続けられなくなった人のことを考えると、自分の甘えだけで(引退を)決めているのかなと思うんですけれど……。でも、もう1年シーズンやるのは、ものすごくしんどいことだったから…。簡単に決断したことではないんです。今までいいチームメイトに囲まれて、自分はバスケットが大好きでした。ありがとうございました」
……
9年間で三洋電機、日立戸塚、シャンソン化粧品、三菱電機と4チームを渡り歩いた。その中で廃部を2回経験。やむを得ない移籍もあった。その間の心労たるや、在籍した9年という年月以上のものがあったのではないだろうか。今後は神戸に居を移し、アシックスに勤務する。「アシックスだからバスケットと関わっていけるのがうれしい」と少し微笑んだ。シーズン中には見ることの出来なかった笑顔。これまでと違う形で、大好きなバスケットに携わっていくマッキーに会うことを楽しみに。

★紺野麻里(99年ジャパンエナジー入社、Wリーグ7年在籍)
「まだまだ勉強することがいっぱいあると思ったんですけど、自分の中ではシーズン中から『バスケット人生をこれで終わりにしよう』と決めていました。実は昨シーズンが終わった時にも引退を考えていたのですが、その時は『このまま辞めていいのか』という葛藤があり、もう1年続けることにしました。でも今シーズンが終わった時は『終わったな』と思える気持ちがあって、自分の中で達成感というか充実感があったので、バスケット人生に終止符を打って新しい人生に進もうと思いました。会う人会う人に『まだできるんじゃない』と言われるんですけど、今は笑って流せる自分がいます。去年はそれができなかったから続けたんですけど。まだできると思われて辞めていくのも、いいのかなと思います。
この6月に結婚式を挙げます(お相手はbjリーグ埼玉ブロンコスの安齋竜三選手)。よく聞かれるんですけど、結婚が引退する理由ではありません。もともとバスケットは今シーズンで終わろうと決めていて、それで次の人生をどうしよう、仕事はどうしよう…となった時に、バスケットという一つの人生が終わったので、これから第2の人生を歩もうということで結婚という話が出てきました。彼もバスケットをしているので、私も選手の事情はよくわかるし、今後はパートナーとなって支えていければと思います」
……
3人の中で一番スッキリした顔をしていたのはマリだ。年齢的にも技術的にも「まだこれから」という思いは否めないが、本人の中ではバスケットボールに対する思いは「達成」していた。逆に「これから」ステップアップしていく安齋竜三という選手を支えていく妻の立場になる。同じバスケットボールプレイヤー。同じ土俵を知る者同士。これからのマリの人生は、安齋選手が夢を果たすことによって、自身が選手を続けていくのと同じくらい、素晴らしい思いを共有することになる。幸せな家庭を築いてくださいね!
毎年、選手が引退する姿を見るのは寂しいものです。こうやって、毎年何人もの選手を見送ってきたけれど、本当に引退したことを実感するのは、新しいシーズンが始まってコートに姿がない時なんだよね…。





