WNBAラスベガス・エイセズにベッキー・ハモンHC&日系のナタリー・ナカセAコーチのユニークなコンビが誕生
WNBAのラスベガス・エイセズのベッキー・ハモンHCは、日本時間2月25日(北米時間24日)にナタリー・ナカセをアシスタントに加えたことを発表した。エイセズのリリースによれば、ナカセは直近10年間、NBAのロサンゼルス・クリッパーズの組織内に身を置き、NBAのクリッパーズとその傘下のGリーグチームであるアガ・カリエンテ・クリッパーズで、さまざまな立場でコーチングスタッフとして活躍していた。
ナカセのクリッパーズ傘下におけるコーチングスタッフとしてのキャリアは、2012年にビニー・デル・ネグロの下でインターンとして始まり、その後ドック・リバースHC(現フィラデルフィア・セブンティシクサーズHC)の下ではアシスタント・ビデオコーディネーターを務めた。2017年からは、アガ・カリエンテでケイシー・ヒルHCのアシスタントを1年間務め、その後NBAのクリッパーズでプレーヤー・ディベロプメント・アシスタントコーチを経て直近の昨シーズンはアガ・カリエンテのアシスタントとしてチームに貢献している。
ハモンHCとナカセAコーチの生み出すあらたなうねりに注目
ナカセはUCLAの女子バスケットボールチームで、ウォークオンからポイントガードのスターターにのし上がり、3年間キャプテンを務めたという稀有な経歴を持っている。卒業後は2007年まで存在したアメリカの女子プロリーグNWBLと、ドイツのブンデスリーガでプレーヤーとして活躍したが、ヒザの故障で現役キャリア継続を断念。その後ドイツでヴォルフェンビュッテル・ワイルドキャッツでヘッドコーチとしてコーチングキャリアを始め、2010年には日本に渡って当時のbjリーグに所属した東京アパッチでインターン。翌2011-12シーズンには、やはりbjリーグに所属していたさいたまブロンコスで、リーグ初の女性ヘッドコーチにもなった。
エイセズのハモンHCは、ナカセを迎えるにあたり、「ナタリー・ナカセをエイセズのコーチングスタッフに加えることを本当に楽しみにしています(I’m extremely thrilled to be adding Natalie Nakase to my Aces coaching staff」とコメントを発した。「ナタリーはプロフェッショナルとしての豊富な経験を生かしてスカウティングレポートを作り、ゲームプランを立て、映像研究作業やプレーヤー・ディベロプメントに従事してくれます。これまでにバスケットボール界でも最高の信念や思いを持つ人々と共に働いてきており、バスケットボールに取り組む姿勢や意欲、情熱、ネットワークは私たちの組織にかけがえのない価値をもたらしてくれるにちがいありません(Natalie brings a wealth of experience on the professional level in writing up scouting reports, game planning, film work and player development. She has worked under and with some of the best basketball minds in the game. Her work ethic, drive, and passion for basketball and people will be invaluable to our entire organization!)」
一方ナカセも、「ベッキーのスタッフに加わることができてとてもうれしく思っています(I am very excited and honored to join Becky’s staff)」と喜びをコメントにした。「ベッキーは社会を前進させるこのエイセズという組織における、私たちのリーダーです。彼女を手助けするのを待ちきれません。ラスベガス・エイセズは能力の高さ、懸命さ、激しく競い合うことを体現するチームです。この機会はとてもありがたく、家族として迎えていただいたことをニキ・ファーガス(エイセズの社長)とマーク・デイビス(同オーナー)に感謝しております(Becky is our leader of this empowering organization, and I cannot wait to assist her. The Las Vegas Aces embodies talent, hard work and fierce competitors. I’m grateful for this opportunity and want to thank Nikki Fargas and Mark Davis for welcoming me to the family)」
エイセズは昨夏の東京2020オリンピックの5人制で金メダルを獲得したアメリカ代表のエイジャ・ウィルソンとチェルシー・グレイ、3x3の金メダリストとなったケルシー・プラムらが所属する強豪。昨シーズンまではかつて“バッドボーイズ”と呼ばれた1980年代のデトロイト・ピストンズで活躍したビル・レインビアー氏がヘッドコーチを務めていたが、このオフにハモンHCを迎え、新体制をスタートさせている。
ハモンHCはサンアントニオ・スパーズで長らくグレッグ・ポポビッチHCのアシスタントを務め、NBAで女性初となるフルタイムのヘッドコーチ職を目指していた。2015年にはサマーリーグでヘッドコーチを務めた実績があり、2020年12月にはポポビッチHCがテクニカルファウルで退場となった後ベンチを引き継ぎ、史上初めてNBAで実務としてヘッドコーチを務めた女性となった。しかしフルタイムでNBAのチームを率いるにあたり、それ以外のヘッドコーチ経験がないことで機会を逃すケースが続いていたことが報じられている。今回エイセズでヘッドコーチの経験を積み、実績を残せれば、今後再びNBAを目指すことになるのかどうかはわからないとはいえ、経歴に大きなプラス材料が加わることにもなる。
2020年12月30日の対ロサンゼルス・レイカーズ戦で、退場となったポポビッチHCを引き継ぎベンチを仕切ったハモンHC(Photo courtesy of Las Vegas Aces/WNBA)
ナカセはハモンHCと同様に男性の世界であったbjリーグのコーチングの世界で初めて壁を打ち破った人物であるだけでなく、NBAのサマーリーグでハモンよりも早く2014年に、女性として初めてNBAのアシスタントコーチとしてベンチワークに携わった人物として知られている。ほかにはないユニークな経歴を持つコーチングのタッグが、一昨シーズンのMVPであるウイルソンら強力なタレントを持つエイセズをどのようなチームに作り上げるか。5月に開幕する2022年のWNBAシーズンに関しては、ワシントン・ミスティクスに町田瑠唯(富士通レッドウェーブ)が加わるとの発表が大きな話題となったが、組織全体として挑戦に前向きな姿勢を見せているエイセズで、ハモンHCとナカセAコーチがこれから巻き起こそうとしているうねりも、大きな注目事項だ。
文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)