月刊バスケットボール7月号

Bリーグ

2024.05.22

千葉ジェッツの実り多き2023-24シーズン「胸を張ってすばらしいシーズンだったと言える」

前人未到の“3冠”には届かなかった──B1チャンピオンシップセミファイナルで、琉球ゴールデンキングスと対戦した千葉ジェッツは、最終第3戦を67-83で落としシーズンエンドを迎えた。

この試合は、序盤から琉球のタフなディフェンスの前に自慢のオフェンスを封じられ、前半を終えて31-46と15点のビハインド。3Qには一時1桁点差に押し戻し、流れをつかみかけた場面もあったが、一本欲しい場面にことごとくその「一本」が入らず、焦りからか普段なら見られないような連携ミスからのターンオーバーが続いた。生命線である3Pシュートは6/34(16.7%)、この試合前のCS5試合で平均8.4本にとどめていたターンオーバーも13を数え、特に4Qには5本を犯してしまった。

苦難のシーズンがもたらした
チームと若手の成長


振り返れば、今シーズンは天皇杯と東アジアスーパーリーグ(EASL)を制覇したとはいえ、レギュラーシーズンは大いに苦しんだ。開幕から長崎ヴェルカに連敗するなどなかなか波に乗れず、2023年は13勝13敗のやっと勝率5割。年明けから破竹の12連勝を記録したものの、CS出場争いでは最後の1試合まで行方が分からないギリギリの戦いを続けた。これまでなら早々にCS出場を決めていたが、Bリーグ開幕から8シーズン目にして初の経験をした。また、二上耀や原修太、ディージェイ・ステフェンズらのケガ、あるいは体調不良にも悩まされた。



その中でリーダーの富樫勇樹やジョン・パトリックHCはしきりにチームの成長、そして若手の成長が大切であると話してきた。富樫はフィリピン・セブ島で行われたEASLファイナル4の後にこう話している。

「若手が多い中では、こういう経験を積めば積むほど良いと思います。Bリーグのシーズンとは別に、それとプラスして成長の機会があると僕は捉えています。僕にとって、EASLはほかのチームよりもむしろアドバンテージ。さらに、優勝という経験で若手もベテランも含めて、チームとして上のレベルにいけたと思います」

皮肉にも苦しい台所事情とEASLと並行した過密スケジュールは、富樫やパトリックHCが期待した若手の成長、そしてチームの成長を促す大きな助けになった。若手という面では、特に今季開幕から主力としてコートに立った小川麻斗と金近廉、特別指定選手として年明けからチームに加わった内尾聡理の3人はそれぞれに及第点のシーズンを送ったといえるだろう。


エースストッパーとして奮闘した内尾



小川はRSとCSの全66試合に出場し、うち17試合に先発出場。特にRSでは平均約16分のプレータイムで4.6得点を記録し、ディフェンスでも大いに奮闘した。金近はまだ波が激しいが、計63試合で6.2得点。シーズン初勝利となった昨年10月14日の信州ブレイブウォリアーズ戦ではシーズンハイタイの22得点を挙げるなど、爆発力は折り紙付きだ。そして内尾は29試合の出場ながら、3月末からはスタメンに定着し、エースストッパーとして貢献。宇都宮ブレックスとのクォーターファイナルでは敵エースのD.J・ニュービルのマークを任されるなど、3人の中で唯一CSで出場時間を伸ばしてみせた(10:41→14:42)。彼ら3人の大舞台でも物おじしないプレーぶりは、間違いなく富樫の言う「経験」を重ねたからこそだ。

今季の千葉Jを象徴する
第3戦終盤のプレー

琉球との第3戦終盤には、千葉Jの今季を象徴するような場面が何度も見られたように感じられた。4Q残り5分15秒でコートに入った小川は、内尾とともに福岡第一高時代を彷彿させる見事なトラップディフェンスを仕掛け、琉球からターンオーバーを誘発。それに触発されるように周りの選手もディフェンスの集中力を高め、そこからワイドオープンの3Pをいくつも生み出した。残念ながらそれらがネットを揺らすことはなかったが、1年間の若手の成長があの数分間にギュッと詰め込まれているかのようだった。

また、残り2分59秒でコートに戻った富樫のプレーも印象的だった。琉球のプレッシャーディフェンスによって徹底的に3Pをケアされていたことも影響したのだろうが、富樫はコートイン後の最初のポゼッションでオープンの小川に3Pを打たせた。また、続く残り1分の場面でもボールをアイラ・ブラウン、原と展開し、再び小川の3Pを演出。特に2本目が外れてスミスがファウルゲームで時間を止めた後には、手をたたいて小川の方に視線を送り、「ナイス」と言わんばかりのサムアップを見せていた。


プレーのみならず、精神面でも富樫はチームを支えた



宇都宮との第3戦のオーバータイムラストプレーでは、「正直、ボールが欲しかった」とフラストレーションを溜めていた富樫。勝負どころで自分が責任を持って決める──これまでは、それこそが富樫勇樹という選手のやり方だったし、それは変わっていない。だが、今季はどこか「チームの成長を促す」ことへのアプローチにより重きを置いてプレーしていたように、筆者には感じ取れた。

宇都宮とのシリーズの第1戦で24得点して勝利した後も「今季は常に誰かがケガや病気で抜けている印象がありました。でも、それによってチャンスをもらった選手が何とかつないで成長して、CSの舞台に立てています。それはチームとしての成長の一つだと思いますし、今日の試合は自分のシュートが入ったことももちろんですが、ディフェンス、オフェンス共にチームとして戦うことができました。チームとしてつかんだ勝利だと思うで、すごくうれしい」と話すなど、会見中に何度も「チーム」という言葉を口にしていた。

3冠という大いなる偉業には届かなかった。選手たちもセミファイナル敗退には、決して満足していないだろう。だが、今季の千葉Jはこれまでの常に優勝候補本命と目されてきた千葉Jとは違った1シーズンを送り、違った魅力を我々に見せてくれた。今季はここで幕引きとなったが、確実に未来の千葉ジェッツにつながる実り多きシーズンとなったはずだ。パトリックHCは今季をこう総括した。

「今日が今季のラストゲームとなってしまいましたが、胸を張ってすばらしいシーズンだったと言えると感じています。昨季から選手が多く移籍し、若い選手も増えてチームを再構築する中で、2つのタイトルを獲得できたチームを誇りに思います」


試行錯誤を繰り返し、チームを作ってきたパトリックHC

写真/©︎B.LEAGUE、文/堀内涼(月刊バスケットボール)

PICK UP

RELATED