月刊バスケットボール5月号

今週の逸足『NIKE AIR JORDAN 14』

バスケットボールシューズの歴史において、大きなインパクトをもたらした逸品(逸足)を紹介するこのコーナー。今回は、今からちょうど20年前に2度目の引退を『THE LAST SHOT』で締めくくったときにマイケル・ジョーダンが履いていた『エア ジョーダン 14』を取り上げる。   文=岸田 林 Text by Rin Kishida 写真=中川 和泉 Photo by Izumi Nakagawa

  バスケットボールシューズの歴史において、大きなインパクトをもたらした逸品(逸足)を紹介するこのコーナー。今回は、今からちょうど20年前に2度目の引退を『THE LAST SHOT』で締めくくったときにマイケル・ジョーダンが履いていた『エア ジョーダン 14』を取り上げる。   2018年のNBAファイナルは、ウォリアーズのスウィープで幕を閉じた。レブロン・ジェームズ(キャブス)は獅子奮迅の活躍を見せたものの、ステフィン・カリー、ケビン・デュラントを中心としたウォリアーズが攻守に渡って終始優勢だったことは明らか。早くもスリーピートを期待するウォリアーズファンも少なくない。   NBAの歴史上、『スリーピート』を達成したチームはレイカーズ(ミネアポリス時代。1952‐1954)、セルティックス(1959‐1966)、ブルズ(1991‐1993、1996‐1998)、レイカーズ(2000‐2002)ののべ5チーム。セルティックスの8連覇は別次元として、3年以上にわたって一つのチームがリーグ最高峰の戦力を維持することは、どの時代においても難しい。   今からちょうど20年前の1998年のファイナルで、ひとつのダイナシティ(帝国)が終わりを告げようとしていた。この年、ブルズは2年連続となるジャズとのファイナルで、2度目のスリーピートを目指していた。1991年にチーム初優勝を達成したブルズは、途中マイケル・ジョーダンの現役引退(1度目)をはさみつつ、90年代の10年間でファイナル進出6回、その全てで優勝を勝ち取るという、憎たらしいほどの勝負強さを誇った。だが当時のブルズではチーム内の確 執がたびたび報じられ、単年契約だったジョーダン自身もたびたび2度目の現役引退を示唆していた。加えて、名将フィル・ジャクソンは契約最終年。それはジョーダン、スコッティ・ピペン、デニス・ロッドマンの3人が同じチームでプレーする時代の終焉、“ラストダンス”を意味していた。それでもブルズは東地区首位の62勝を挙げ、苦戦しながらもファイナルに進出していた。
1997‐98シーズンは、リーグ全体でも世代交代が進んだ年だった。マンネリ化していたオールスターのスラムダンクコンテストは休止が決定。初代ドリームチーム世代のベテラン勢にケガが目立った一方、コービ・ブライアント(レイカーズ)は史上最年少で初のオールスターに選出された。ドラフトではその後15年以上に渡ってリーグを支配することになるティム・ダンカン(スパーズ)が1位指名を受けている。   この年はまた、ジョーダンとナイキにとっても転機だった。シーズン開幕前の1997年9月10日、2者は新しいバスケットボールブランド『ジョーダンブランド』の設立を発表。それまでナイキの1ラインナップだったエアジョーダン(AJ)は“ブランド”へと格上げされ、エディ・ジョーンズ(レイカーズ)、ヴィン・ベーカー、レイ・アレン(ともにバックスなど)ら若手の契約選手も発表された。ジョーダン引退後を見据え、AJは『ジョーダンのためのバッシュ』から、『エリートアスリートだけが着用を許されるブランド』へと進化しようとしていた。   1998年のNBAファイナルに話を戻そう。敵地ユタでの2試合をAJ13でプレーしたジョーダンは、シカゴでの第3戦、愛車フェラーリ550マラネロをモチーフにした未発表モデル、AJ14を着用してコートに現れた。この試合、ジャズをわずか54得点にシャットダウンしたブルズはシリーズの流れをつかむ。そして再びユタで迎えた第6戦の第4クォーター。ジョーダンは自らスティールしたボールをバックコートから運び、ブライヨン・ラッセルとの1on1から残り5秒で鮮やかな逆転ジャンプショットを決める。これが結果的にブルズ2度目のスリーピートを決めたとともに、ジョーダンがブルズのユニフォームを着て放った最後のシュートとなった。
ジョーダンがAJ14を着用したのはこのファイナルでの第3戦、第4戦、第6戦のみ。だがこの『ザ・ラストショット』は、90年代のブルズとジョーダンの強さを象徴するシーンとして記憶され、AJシリーズの歴史にも刻まれた。たった3試合しか履いていないシューズにも“伝説”を残すのは、往年のジョーダンの凄味だ。   翌1998‐99シーズン、ロックアウトで開幕が遅れたNBAに、あの憎たらしいほど強いブルズの姿はなかった。ピペンはトレードで、ロッドマンはFAでチームを去り、ジャクソンは休養を宣言。そしてジョーダンも1999年1月13日、2度目の現役引退を表明した(後にウィザーズで現役復帰)。90年代に隆盛を誇ったブルズのダイナシティはここに終わりを告げ、AJとジョーダンブランドも、新たな時代を歩み始めた。   カリー、デュラントの今年の活躍ぶり、そしてここ4年連続ファイナル進出、うち3回の優勝という実績からすれば、ウォリアーズの時代は当分続きそうだ。だが所属チームを8年連続ファイナルに導いてきた事実を踏まえれば、2010年代がレブロンの時代であることにも議論の余地はない。後世にダイナシティとして語り継がれるのは、果たしてどのチームか。このオフの“キング”レブロンの動向にも注目が集まる。
    月刊バスケットボール2018年8月号掲載 ◇一足は手に入れたい! プレミアムシューズ100選http://shop.nbp.ne.jp/smartphone/detail.html?id=000000000593     (月刊バスケットボール)

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